スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

サガ沙ss『piece of mind.6』 サガとさおりん。サガアテナなのかアテサガなのかってやつ。


「昨日ね、アフロディーテが神殿の庭園に薔薇を植えてくれたのです。とても綺麗なの……サガ、よかったら見に来てくださいな」

朝食後のコーヒーの味を満喫しながら、沙織は目の前に座る双子座へと華やかな笑顔を向けた。

「それはようございました……では、後ほど伺わせていただきます」
「ええ。それと折角ですからお昼をご一緒しませんか?神殿のテラスで」

一週間振りの沙織の誘いにサガは一瞬驚いた様子を見せたが、直ぐに穏やかな笑顔を浮かべ小さく頷く。

「ありがとうございます。午前の執務が済み次第参ります故」

ふわりと笑いそう返答する青年に、沙織もまた瞳を細め嬉しそうな笑顔を返す。
それから、他愛もない幾つかの会話を交わした後、席を立ち軽く一礼する彼を見送った沙織は手にしたコーヒーカップをテーブルへと置き小さく息を洩らした。

深く考えるまでもなく拒絶されはしないだろうことに対し柄にもなく緊張を感じた自分自身に苦笑しつつ、彼女は昨日のアフロディーテの言葉を思い出していた。

(迷ってはいけない)

胸の内でその言葉を反芻し、そっと瞳を閉じる。我侭を貫くことを躊躇ってはならない。

だって私は踏み出してしまったーー思えばもう一年以上前に。
神の力を使い人の理を捻じ曲げて、皆を呼び戻して。
……無理矢理、彼を目覚めさせて。

「思えば私、昔から我侭なのでしたね」

サガが目覚めて暫くの後、彼に会うため聖域を訪れた星矢に揶揄されたその遣り取りをふと思い出し、沙織は軽く肩を竦めると苦笑を浮かべた。
城戸財閥総帥の孫娘として何不自由なく育てられたことの所以だろうと、幼い頃の彼女の気質を幼馴染の聖闘士たちは評価する。けれどもきっとそれは自分の本質なのだろうと、朧気に記憶に残る遥か昔の天界での己の振る舞いとも照らし合わせ、彼女は思った。
勝利の女神を常に傍らに従えた戦神アテナ。その在り方は何処までも自分本意だ。

けれどもそれでいいのだ、と沙織は思う。そうでなければ、自分が立たねば、神々の侵略からこの地上は護れない。

「……サガ」

それから、執務室へと向かった男の名をぽつりと紡ぎ、薄く開いた己の唇にそっと指先で触れた。今も胸に残るあのひとの熱と感触。あの日、触れたら応えてくれたのは彼が私の聖闘士だからーーそれはその通り、なのだろうけど。

ーーどのような貴女も、貴女でありましょう?

穏やかで艶やかに空気を震わす、低く耳障りのよい声音が不意に沙織の脳裏を過ぎる。そうだ、アフロディーテも昨日同じことを言っていた。あのふたりは何処か考え方が似ているのかも知れないと知らず目を細め、彼女は窓の外の他愛ない朝の光景に視線を移した。

(ならば……赦してもらえるのだろうかーー私は)

天に向かい歪な波紋を描く亜麻と緑の万華鏡にも似た枝葉の隙間から零れ落ちた、やわらかな光が積み重なる新緑の絨毯が風に吹かれそよぐ姿をぼんやりと眺めながら、沙織は声には出さずに独り言ちた。
それから、自らが胸の内で紡いだ問いが紛れもない希望ーー願いであることに気付き息を呑む。

(赦されたいーー?)
(私が……あのひと、に?)

こんな願いは有り得ない……あってはならないはずだ。
主だの臣下だのの前に、私は人ではないのだ。神と呼ばれる、人間に対して絶対的な優位者のはずなのだ。
神が人に赦しを乞うなど、そんな立場の逆転はーー私の感情どうこう以前に、あのひとの価値観を壊してしまいはしないか。

ーー貴女の思いが、神から人へ向けるものであれ、女が男へと向けるものであれーー

自らの思いに戸惑う沙織の脳裏に、昨日神殿の庭園で魚座の青年が紡いだ言葉が鮮明に響き渡る。謳うように流れる心地よいテノールは、やがて魅惑的な女の声に変わり。

「アフロディーテ……勝利が約束されたゲームなんて、そんなものはきっとーー」

苦い思いをその美貌に浮かべ、沙織は魚座の青年と、それから彼女とは対極に位置する女神へとぽつりと告げた。









女神神殿の庭園へとサガが足を踏み入れたのは正午を少し過ぎた頃だった。

真昼の眩しい陽射しを浴びて淡く煌めくシャンパンゴールドの、綻びかけた幾つもの大輪の薔薇の蕾を双眸に映し出し、その見事なまでの美しさに彼は思わず息を呑んだ。

「……金華山……」

アフロディーテが植えたという薔薇の品種がまさかこのオールドローズであるとは思いもしなかったサガは、半ば呆然とした呟きを洩らす。

「まあ……!サガはこの花の和名をご存知なのですね」

目の前の青年がこの薔薇を、日本と自分との縁としてくれたことーー好きだと言ってくれていたこと。そしてきっと、敢えてアフロディーテがこの薔薇を選んで植えてくれたこと。
それを秘密だと言われた通り、沙織は何も知らない素振りで驚いてみせる。

「……はい。嘗て日本に渡り、広く人々から愛された品種なのだと聞き及んでおります」
「金華山……とても風情のある、美しい名ですよね」

そのように言われても、漢字や日本語に馴染みの薄いサガには共感が難しく、少し困ったように曖昧な表情を浮かべた。けれども沙織はそれを気にするでもなく件の薔薇の苗へと視線を移し、やわらかでいながら何処か切なげに、微笑う。

「きれいな、黄金色ーーまるで貴方のようです」
「……は?」

まさか自分が薔薇の、それもアテナの半生の如き歴史を持つ金華山の色彩に喩えられるなどと予想するはずもなく、己の立場も忘れ思わず口を滑らせたその問い掛け……とすら呼べないサガの声に、沙織はくるりと振り返るとふわりと蕩けるような、酷く幸福めいた表情で。

「貴方の、小宇宙のいろです」
「……小宇宙?」
「はい。とてもきれいな、優しい黄金色……私には、そう見えるのです」

まるで夢見るような女神の眼差し。本来、力の具現であるはずの小宇宙が彼女にはそのように映るのかーーこの方の瞳には、この世界はどのように映し出されているのだろうか。

サガのこころに去来するのは純粋な驚きと疑問。だが、それはやがて別の形となって彼の身の内に、落とされた水滴の如く波紋を描いていく。


貴女を取り巻く景色を、世界のいろをーー


「……サガ?」

眼前に佇む青年の表情が何時の間にか消え去っていることに気付き、沙織は怪訝な顔で彼の名を呼ぶ。
自分は何か不用意なことを言っただろうか?黄金聖闘士たる彼の小宇宙を、花に喩えたことが彼の矜持を傷付けてしまったのだろうか?
違う。きっとそんなことで彼が誇りを傷付けられるなど有りはしない。それを分かっていながら……否、分かっていればこそ焦燥にも似た思いが己のこころをざらりと撫でるのを沙織には止められなかった。

「あの、サガ……ごめんなさい私」
「ーーいえ。失礼を……人の身には小宇宙の可視化という概念がなくーー少し驚いてしまい」

咄嗟に常の表情を浮かべそう告げるも、サガは己の中に密やかに頭を擡げる、だが幸いにして明確な欲とは言えぬ思いを自覚していた。そして同時に主たる女神へと向けるこころにまたひとつ、ノイズが混じったことにも。

人は、神にはなれない。
そして己がそれを望むことも決してない。

それだけは純然たる事実であるのに、たった今、それにも拘らず望んだことがある。


この方と同じ光景を、見ることができたならーーと。


「アテナ……貴女のお気を煩わせるようなことはーー何も」

普段通りの穏やかな表情で彼は主へと告げる。その言葉通りでなければならないと己に言い聞かせるように。
決して彼女にそれを見せてはならない。それどころか打ち捨てるべき願いであるとサガは自身の中に生まれた思いの質を評した。

それは、どうしようもないものだ。
人が神になれないのと同様に、神の魂は存在する限り神であるのだ。

「……ですが、サガ」

何でもないはずはないだろうと、沙織は己の双子座へと問を重ねる。自分の不用意な発言に思うところがあったとしても、それがサガの個人的感情に由来するものである限り彼はそれをどうこうは言わないだろう。それは自分がサガの主であり女神である以上、彼にとっては当たり前のことなのだ。

それを分かっていながらも、沙織は嫌だ、と思った。自分は彼にこんな風に接してほしいのではない。我侭なのは分かっている。けれどもそんな線引きなどーー私は、要らない。

「アテナ?」
「お願い、ですから……サガ」

俯いてしまった沙織の様子に今度はサガが怪訝な表情を浮かべた。哀しげな、まるでこの庭園の新緑の中に消え去ってしまいそうな心細い姿。彼女にこのような顔をさせてしまっているのは恐らく自分なのだろう。
神である沙織には己が先ほど抱え込んだ、捨て去るべき願いも見通されているのかも知れないと思い至り、彼は眉を寄せ秀麗な美貌を曇らせ主を見詰めた。

何かを言わなければならないーーだが、咄嗟に紡ぐべき言葉が見付からず唇を咬む。相手の意を酌むこと、他者の感情や立場に寄り添うこと。決して不得手ではなかったそれらのことが全く以てできずにいる自分自身に苛立ちを覚えながら胸の内で自問する。
自分は何をしているのだ。この方の望む言葉は何だ。どうすれば彼女は先ほどまでの眩しいまでの笑顔と凛とした佇まいを取り戻してくれるのかーー

幾ら逡巡を重ねても回答は得られない。大いなる小宇宙を宿した戦女神であるはずの目の前の少女は消え入りそうな風情のままで。

ざわり、と庭園の枝葉が揺れる音が聴こえる。

一陣の風が、儚く散った名も知らぬ小さな花弁を幾つも巻き込み立ち尽くすふたりの髪と身に纏う衣装を揺らし吹き抜けていく。

「ーー!」

風がーー突風、などとは到底呼ぶことのできないほどの単なる涼風が、巻き込んだ白い花弁と共に彼女を……眼前に佇む華奢な少女を連れ去ってしまうような錯覚を覚え、サガは咄嗟に腕を伸ばし自らの主であるはずの少女を引き寄せる。
彼の腕に抱え込まれた沙織は驚きに瞳を見開き、己の双子座を伺い見た。何処か焦燥に駆られたような、切羽詰ったような様子の青年にどうしたのかと小さく問えば、彼は目に見えて安堵の表情を浮かべ。

「……いえ、風に煽られた草の葉がーー御身を傷付けやしまいかと……失礼致しました」
「まあ……!ありがとう。でも私そこまで弱くはないですよ?一応戦女神なのですから」

身を離すでもなく、沙織は鈴を転がすように笑う。笑いながら、思い掛けず触れることのできた青年の体温に泣きたくなるような、こころが蕩けていくような心地を覚えそっと双眸を伏せた。
何となく、告げられたサガの言葉は真実とは少し異なるような気がする。自分が女神であるとか彼の主であること以前に、吹き抜ける風が運ぶ欠片など光速を手にした黄金聖闘士が身を呈するに値する障害物ではないだろう。

欲しいものを、このひとはまた与えてくれたのだろうか。
私はーー昨日アフロディーテに言われたように、こんな風に彼に接してほしいのだろうか。

線引きもなく、垣根もなく、世界中の何処にでもいる恋人同士のように。

「ーーねえ、サガ……貴方は」

沙織の唇から、謳うように紡がれる旋律。
告げるべきではないだろうと、分かってはいた。
分かっていたけれども自然と口を突いて出た、赦してくれますか?との沙織の問い掛けがサガの耳朶を打ったーーその時だった。

一瞬、間近で力強い小宇宙が立ち上がり直ぐに収束する。例え聖闘士であろうとも本来許可なく立ち入ることなどないはずのアテナ神殿の庭園への闖入者の気配に、咄嗟にふたりの視線が一点へと注がれた。
緑の波紋を天へと掲げる大樹の、物言わぬ白亜の幹の向こうに、何者かが確かに存在する。
但し何処かで触れたことのあるような小宇宙……現在の聖域の守備体制を鑑みても恐らく相手は敵ではない。そうは理解しつつも不遜に過ぎる闖入者を捨て置くことはできまいと厳しい表情で前を見据えるサガの腕の中から、沙織が待って、と小さな声を上げた。

「アテナ?」
「大丈夫ですよ、サガーーお久し振りですね」

ふわりとサガに笑い掛け、沙織はするりとその腕の中から抜け出すと、姿の見えない闖入者へとそう告げた。















小宇宙は感じるもの、だと思うのですが可視化はしてないような。
だけど神様には『視る』こともできるかなって……何となく。
細かいことは気にしない!



スポンサーサイト

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

サガ沙ss『piece of mind.5』 沙織とアフロディーテ。アフサガアテナみたいな。


眩しい陽射しを浴びて白く輝く大理石のテラスの横でゆったりとした佇まいをみせる大樹が、澄み渡る蒼に向かい歪な波紋を描いている。

白亜の石畳に腰を下ろし、地上の戦女神は優しい亜麻色の枝の先端を彩る翠緑に遮られやわらかく大地に降り注ぐ木洩れ陽に双眸を細めた。
純白のドレスの裾を、まるで繊細なレースのように大樹の枝葉の影が幾重にも影を落としゆらゆらと揺れている。
自然が描くその美しさに、沙織は泣きたくなるのを堪えながら新緑に彩られたアテナ神殿の庭園を見渡した。
視界の先から、軽やかな土の音が聴こえる。
庭弄りなどという行為すら優雅に映る、美の女神の名を冠する青年の姿を遠くに捉えながら、彼女はまた同じことを考える。

(何故、あのひとは私に応えてくれたのだろう)

ーーもう、一週間になるのか。

神殿の中庭で、あのひとは私に誓いをくれた。
手にした自由を放棄し、その生涯を私に差し出してくれた。
いつかきっと、後悔するであろう約束を。

やがて訪れるその時に、あのひとが絶望に染まらないように。絶望に呑まれるのが私でありますように。そう願い、せめてもの祝福を……女神の加護を贈ろうとしたけれど。

結局、それすらも私にはできなかった。

残忍な己の声に突き動かされるまま唇へと落としたキスに、何故あのひとは応えてくれたのだろう。

(そんなこと、分かり切っている)
(私が女神で、あのひとが私の聖闘士だからだ)

私を掻き抱いたあのひとの腕の力も、暖かな体温も。私にくれた貪るようなキスの感触も、全身を震わせた戦慄も。
すべて、私が望んだことなのだろう。

私が欲したから、彼はそれを与えてくれた。多分ーーそれだけのこと。
女神の僕であるあのひとに拒否権はないのだから。

今も尚記憶に残る己の双子座の熱の名残に身体の芯が蕩けそうになるのを感じながら、沙織は小さな溜息を洩らす。
彼女の脳裏に浮かぶのは、互いの身を離した後の呆然とした彼の表情だった。
驚愕と困惑が入り混じり、何処か途方に暮れたような……信じ難いものでも見るような、彼はそんな顔をしていた。

あれから、サガとはあまり会話をしていない。
朝食は一緒に摂るけれど侍従が控えているし、彼の執務で必要なことがあれば顔を合わすけれど、事務的な話だけが淡々と進められる。
昼食や夕食、その後のプライベートな時間を共有することはこの一週間全くない。

それはそうだと思い、彼女の唇から知らず苦笑が洩れた。
今までそれなりの時間をサガと過ごしてきたのは、自分がそのようにしてきたからなのだと改めて思い知る。
そして、彼はそれに合わせてくれていたとすら言えない。彼にとって女神の意思は絶対なのだ。だから求められれば当然の如く応えるーーそういう、ことだ。

(ーー女神の愛を、拒絶した男が?)

途端、降って湧いた己の声を掻き消そうと、沙織はきつく瞼を閉じて懸命にかぶりを振った。










「終わりましたよ、アテナ」

頭上から降ってきた涼やかなテノールに顔を上げた沙織の視線の先に、陽射しを浴びてきらきらと煌めく長いプラチナブロンドを揺らす美貌の青年が佇んでいた。
美の女神の名を冠する彼に相応しい外見の青年のやわらかで艶やかな微笑に、沙織はささくれ立った己のこころが少しだけ凪いでいくのを感じながらふわりと笑顔を返す。

「ありがとうアフロディーテ……とってもきれい」

彼の手によって植えられた、淡いアイボリーの蕾を付けた幾つもの薔薇の苗木を見詰めながら礼を述べる主に向かい、アフロディーテは誇らしげに笑った。

「活けた薔薇も堂々たるものではありますが
、植わった姿もまた違った風情がありましょう?」
「大地に根を張る植物の姿は、生命力に満ち溢れていてーーとても、美しいと思います」

謳うような沙織の言に、眩しげに双眸を細め少女の姿の女神を眺め遣った。

「……サガと、同じことを仰るのですね」

このところの己のこころを占めていた男の名を突然出された彼女は一瞬言葉に詰まる。そして咄嗟にそれを悟られまいと曖昧な笑顔を作り、そうなの?とだけ返した。

「その薔薇……金華山、ですよね?」
「ええ。日本ではそうも呼ぶそうですねーーあのひとも、その名で呼んでおりました」

今度こそ、沙織は驚きに双子座の名を唇に乗せた。何故聖域で育ったあのひとが、この有名なオールドローズをわざわざ和名で呼ぶのだろうか。

「……サガ、が?どうして……」
「あのひとは、日本に纏わることをよく知っておりますよ」
「サガは、日本に興味があるのですか?」

そんなこと、知らない。私はあのひとのことについて知らないことばかりだーーそれは当たり前といえばその通りで、そして仕方のないことなのだけれど。
知っているのは、あのひとのやわらかな笑顔と低く響く優しい声音。眩しいばかりの黄金の小宇宙と流れ落ちる涙の雫。
それからーー暖かな体温と、蕩けるような熱を……少しだけ。

「ーー貴女のおわす国を、あのひとが好まぬ筈ないでしょう?」

色々と見聞を拡げておりましたよ、と懐かしそうに語る青年に、やっぱり知っていたのね、と沙織はぽつりと告げた。

「それはまあ……同時期に日本から候補生が百人、ですからね」

さすがにあからさまですよねと肩を竦めた魚座の青年に、そうですねと沙織は苦笑して。

「あのひとは……日本からの候補生をそれでも平等に扱ってくれたのですよね。だからこそ星矢たちはーー」
「貴女が帰還されることが、あのひとのたったひとつの願いでしたから」

懐かしそうに、大切な思い出を紐解くように……何処か遠い眼差しのまま紡がれたアフロディーテの言葉は、けれども沙織のこころにきりきりと爪を立てる。

私は、神様のくせに。
たったひとつという、あのひとの願いも知らずに。

「金華山ーー日本でも愛されたこの花は、あのひとの好きな花です」

きりきりと痛むこころを抑え視線を落とした主へと、アフロディーテは艶やかな微笑を浮かべそっと告げた。内緒ですよ、と己の唇に指を当てる彼の仕草は思わず目を奪われるには充分な、その名の通り美と性愛を司る女神を思わせ、この上なく魅力的だ。
けれどもそれ以上に彼の言葉の内容が、アイボリーのオールドローズへと沙織の意識を向かわせる。弾かれたように面を上げると、彼女は黄金に纏わる和名を戴く苗木へと視線を移した。

「……あのひと、が」

ーー聖域を維持するため真実を明かすこともできず、きっと拷問のような日々を生き抜いていたのだろうあのひとが、何も知らずに安穏に私が過ごす遠い国で愛されていたこの薔薇を、好きだと言ってくれたのか。

それきり言葉を失い、煌めく緑柱石の如き瞳を見開き食い入るように薔薇の苗を見詰める沙織の様子を、アフロディーテもまたやわらかな眼差しで見詰めていた。

「……サガのことを、お好きですか?」

やがて紡がれた問い掛けを、沙織は不思議な心地で受け止めーーそれから幾度かの瞬きの後、優美に佇む魚座の青年をゆっくりと見上げる。

「それはーー勿論です。サガは私の、大切な双子座です」
「それは重々承知しております。私はその上で貴女にお訊きしているのです」

サガのことを、お好きですか?
もう一度問われ、沙織はその言葉を一旦胸の底に落とし込みーー漸く、その意味を理解した。
何かを口に出そうとして、けれども彼の問い掛けに相応しい返答が探し出せず、俯きながら紡ぎ出した旋律は沈黙の要請。

「アフロディーテ……滅多なことを、言わないでください」

否定しないのだな、と女神の言葉を反芻したアフロディーテは思う。

「何故です?」
「……私は、人の子ではないのです」
「オリンポスの神々は往々にして人間と恋をなさるものと認識しておりますが」

いともあっさりと沈黙を破ってくれた魚座の青年に、沙織は少しばかりの非難のいろを宿した瞳を向ける。名は体を表す、とはよく言ったものだが彼の名はその外見ばかりを示すものではないらしい。彼女の脳裏をぼんやりと、蠱惑的な美しさを誇る女神の姿が過り、やがて霞の如く消えていった。

「ーー神に恋情を向けられた人間の末路が、しあわせであると私には思えません」
「それは外側からの評価でしょうに」
「それはーーそう、かも知れませんが……」

戯けたように肩を竦めてみせるアフロディーテの言葉に、沙織はまたも返答に詰まる。居た堪れない、といった風情で燦然と輝く陽射しを受けて煌めくエーゲ海の水面のようないろの彼の双眸から視線を逸らし、俯いた後やがてぽつりと告げた。

「私は、地上の人々すべてに愛を向ける立場なのですーーそれを、そのような」

消え入るような沙織の声音に、紡ぎ出された旋律に、そういうことかとアフロディーテは胸の内で頷いてみせる。
この方は自らの存在理由に縛られておられる。それがすべてとも思えないが、躊躇いの理由のひとつではあるのだろう。

「ーー今更?」

たった一言、静かに向けられた問いは沙織の胸を抉るには充分だった。
弾かれたように顔を上げ見詰めたアフロディーテの表情は変わらず穏やかなままで、だが美しく弧を描く口の端が、女神のこころを凍り付かせる。
嘲笑だ、と思った。
今更?そう、今更だ。ずっとサガの傍近く控え、サガを見てきたアフロディーテの立場からすれば当然そのように感じるだろう。

(あのひとを、救いもしなかった女が)

脳裏に響く声は自分のものだろうか、それとも目の前の男のものだろうかーー何処かぼんやりとその声を聴きながら己の魚座を瞳に映す戦女神へと、淡々としながらも追い詰めるかの如く問いは重ねられる。

「今更、貴女がそれを仰るのですか?」
「……今更であっても、です」

痛むこころを抑えながら絞り出した言葉を嘲笑うようにアフロディーテが眉を上げるーー否、実際嘲笑っているのだろうと彼女は思った。
次に告げられるのは侮蔑の言葉だろうか……傷付いた顔を、私は見せないでいられるだろうか。
きゅっと口を引き結び麗人の断罪を待つ戦女神の、耳朶を打つのは意外な内容だった。

「私は貴女の愛が平等ではないということを知っております。平等でないからこそ貴女は我々聖闘士に万人には与えられぬ恩恵を与えてくださる。そして、貴女は殊に星矢たち五人の青銅聖闘士に特別な思いを向けておられる」
「……特別……」
「そうでありましょう?ですがそれに不満を抱いたり増してや咎めようなどとは我々は夢にも思っておりません。彼らは貴女を信じ、共に闘い、聖戦に勝利したーーその功績による特別な寵と恩恵に誰が異を唱えられましょう」

思わず聴き惚れてしまうようなアフロディーテの声音に、けれども沙織は小さく首を傾げた。
特別ーーそうだろうか。そう言われればそうかも知れない。私は彼らを大切な仲間だと思っているし、殊更しあわせでいてほしいと思っている。そのために自分にできることがあるなら何だってするつもりだ。
でもそれは彼らとの間に築いてきた絆故のものであって、贔屓だとか優遇だとかとは違うような気がする。

「……同じことですよ、アテナ」
「同じ?」

鸚鵡返しに問い返す沙織へと、アフロディーテは穏やかに微笑む。

「貴女は、その愛をサガに向けることはしなかった」
「ーーっ!」

余りにもストレートな物言いに表情を強ばらせ息を呑んだ沙織の様子を伺い、すみませんと苦笑したアフロディーテはこう続けた。

「ああ……別に責めているのではありません。それにーー失礼な言い方ではありますが、拒まれた、というのが正しいのでしょう?」
「……」
「サガは貴女に対し己への愛も救済も、断罪すら望んでいなかった。だから彼は貴女の手を振り払った」

そこで一旦言葉を切り、アフロディーテは沙織に視線を合わせその瞳を覗き込んだ。美しくたおやかなその身に眩いばかりの小宇宙を宿しながら、緑柱石の如き女神の双眸は迷いと躊躇いと、そして戸惑いに揺れている。そのさまを、美の女神の名を冠する青年はとても美しいと……愛おしいと思うけれど。

(あのひとは、そうは思わないだろう)

ふ、と嘆息した青年は再び言を紡ぎ出す。己が認めた、賞賛に値するものを敢えて変えてしまうというのは奇妙な心地だと感じながら。

「それを望まぬ者に与えようとしたところで何になりましょう。今更そのようなことで思い悩むなど無意味だとは思いませんか?」

あくまでも穏やかに紡がれるアフロディーテの問い掛けが沙織の肩をぴくりと震わせた。彼の言葉は何処までも容赦なくて、そして正論だ。諦めなければいつか、などという綺麗な言い方で片付けてしまえるほど単純なものでも小さいことでもない。あのひとが自分を放逐した後聖域で過ごした十三年間はそんなに軽いものではないーーきっと彼はそれが言いたいのだ。そんな風に沙織は彼の言葉を受け止めた。

「そんなことに拘って互いに疲弊するくらいなら、貴女にはあのひとの望みをーー求めるものを与えて差し上げていただきたい」
「ーーあのひとの、望み」

アフロディーテの言葉をぽつりと反芻し、沙織はふと思いを巡らせた。サガの望み、願い。それは地上世界の安寧と人々の笑顔。それから。

あのひとは、私のしあわせを願ってくれた。

「……あのひとを、苦しめるだけです」
「それを決めるのは貴女ではなくあのひとだ」
「私は女神です。あのひとの願いを叶えるには……私は女神でなくてはならないのです」

最後は消え入るような幽かな旋律だった。彼女の声にアフロディーテが目を瞠る。
ああ、そうなのか。今の貴女の在り様を、その憂いを形作るのは……結局。

「おかしなことを仰る。貴女はその魂がこの世に存在して以来、常にアテナであらせられた筈。それが天界であれ地上であれ、貴女が女神であることに変わりはないーーそうではありませんか?」

先程植えたレディ・ヒリンドン……金華山と呼ばれるオールドローズの、淡いアイボリーの蕾をちらりと一瞥し、アフロディーテは問を重ねた。願わくばこの薔薇を辛い思いで視界に映してほしくはない。女神にも……あのひとにも。
かつて日本に渡り人々を魅了したであろう淡い黄金の薔薇。恐らくあのひとにとって金華山はアテナを介した日本との縁ではなくアテナそのものだ。そして、それを知ったアテナもまたこの苗木を目にする度ーー否、それが時折であれあのひとを思い出すだろう。

私の育てる薔薇に、哀しみを映し出してなどほしくはないのだ。そんなものは、この花に相応しくはない。

「……それは、どういう意味です」
「そのままの意味です。貴女がどのようなお考えでどのように振舞おうと、我々にとってそれはアテナのお姿に他ならない」
「また、滅多なことを……」
「貴女という存在に課せられた地上世界の守護を放棄なさるとでも仰らない限り、滅多なことなどございますまい」

艶やかに微笑む魚座の青年の考え方を沙織は羨ましいと少し思う。こんな風に冷静に物事を見詰めカテゴライズし取捨選択できたらと。

(ーー得意だった筈でしょうに)

戦いにおいて重要な考え方である冷静な状況判断と割り切り。感傷に呑まれることのない鉄の意志。それはアテナとして当然持ち合わせているものの筈だというのに。

「それは……貴方の捉え方でしょう?あのひとは……」
「それこそサガが、アテナのお振る舞いに異を唱えるなどとは思えませんが」
「ーーそれは……」

一瞬言葉を詰まらせた沙織は、躊躇いがちに緑柱石の双眸を周囲へと泳がせた。視線に合わせ流れる景色の片隅に、アフロディーテの植えた薔薇の苗木が映し出される。

目を奪われ、沙織は瞬きもせずにその場に立ち尽くした。
そのアイボリーの蕾は、午後の陽射しを浴び淡いシャンパンゴールドの煌めきを放っていた。

(あのひとの、小宇宙のいろだ)

ーーああ、目眩がする。

「……あのひとは私が望めば……求めれば応えてくれます。でもそれは、私がアテナだからです」

金華山の蕾を見詰めながら絞り出すように告げられた女神の言を、だがアフロディーテは首を傾げ肩を竦めると可笑しそうにくつりと喉を鳴らす。

「ーーでは、貴女がアテナでなかったら?」
「きっとこんな小娘、見向きもされません」
「はは、仰る通りだ」

一切の気休めも躊躇いもなく、明快に肯定する魚座の青年の美貌を、さすがに呆気に取られた沙織はまじまじと見遣る。
歯に衣着せぬ、といえば聞こえがいいだろうか。だが、神だの人間だの以前に到底主に向ける言葉ではないだろうそれを、驚きはしても不快には思わなかった。
己を見詰める女神の視線を気に留める様子もなく、アフロディーテは肩を竦めやれやれ、とでも言わんばかりに苦笑を洩らす。

「よかったではないですか。だって貴女はアテナなのですから。アテナというのは役職や立場ではなく貴女という存在の呼称であり、貴女以外の存在がアテナであることはない……それは貴女が一番ご存知でしょう?」
「……」
「そしてあのひとは、アテナでない娘になど見向きもしない。貴女とあのひととのゲームは初めから貴女の勝ちと決まっているーーご自分でもお分かりでいらっしゃるではないですか」

やはり名は体を表すのか、かの女神の本質を表すかの如く彼が例えるゲームという単語、それ以上に彼が何を言いたいのかということを否が応にも理解した沙織はさすがに険しい表情で言葉の主を睨み付けた。

「アフロディーテ!よりによってゲームだなどと……それに、滅多なことは言わないでくださいと先程も……」
「ああ、それは失礼ーーまあ私としてはどちらでもいいのですが」

ーー否定はしないが肯定もしない、か。
だがそれでは困るのだ。女神の迷いや躊躇いは、あのひとを壊してしまう。

ならば、と軽く息をついたアフロディーテは、自らが持ち込んだアイボリーの花の苗をちらと一瞥し、それから改めて類稀な美少女のかたちをした己が主神を真っ直ぐに見詰めた。

「アテナ、サガの友人としてひとつだけお願いしたいことがございます」
「……はい」

居住いを正してみせたアフロディーテの、やわらかでいながら真摯な声音に沙織もまた表情を改め、煌めく緑柱石の瞳で彼を見詰め返す。

ざわり、と一陣の風が十二宮を吹き抜け神殿横の庭園の新緑を揺らす。沙織の長い絹糸の如き髪と純白のドレスの裾も、緩やかに波打つアフロディーテのプラチナブロンドも同じリズムで風に撫ぜられ、ふわりと宙を舞いーーそれは玉響の、夢のような光景だった。

(美しいな)

アフロディーテは単純にそう思う。恐らく己と目の前の少女は対極のかたちで同じ存在にこころを向けている。不思議な位あのひとへの思いのかたちは対照的なのに、思いの強さはそれ程変わらないだろう。見事なまでのシンメトリーだ。そして今、すべてが異なる自分と少女が同じリズムでこの庭園の風景に溶け込んでいる。

(あのひとに、見せてあげたい位見事だな)

僅かに目を細め、アフロディーテは穏やかな声音をそのくちびるに乗せた。

「貴女のあのひとへの思いが女神から人間に向けるものであれ、女が男に向けるものであれ、どうか迷いのなきよう」
「……迷い……」
「あのひとは、常に貴女にとっての最善を選択する人です。恐らく貴女の迷いは貴女にとってのマイナスと考えるでしょう。貴女が中途半端に彼に向き合い、迷い、躊躇われることであのひとは自らを排除する方向へと進んでしまう」

お分かりですね?と問われ、けれども沙織は頷くこともできぬまま双眸を見開いた。あくまでもやわらかな魚座の青年の艶のあるテノールが普段の心地好さではなく、錆び付いた冷たい金属の如くざらざらと彼女のこころに未だ残る爪痕を撫ぜる。

沙織の全身に蘇るのは、かつて腕に抱いた、救えなかった男の身体に残された温度。掌から砂のようにさらさらと零れ落ちる、己の双子座のいのちの欠片。
あのときの喪失感と無力感を、彼女はまざまざと思い出していた。

(ーーやめて)
(もうやめて。私を……たすけて)

脳裏に響く己の声に弾かれたように、全身を支配するあのときの感覚を無理矢理追い払うと、彼女は真昼の太陽の下で煌めく透明な水のいろを宿したアフロディーテの瞳を見上げた。

サガを友人と言ったこのひとは、とても穏やかでーーきれいな眼差しで。奇跡のような彼の美貌は、やわらかな微笑で彩られている。

「……アフロディーテ」

それは何処までも優美で、けれども少し寂しげで……胸が、締め付けられる。

「貴方はあのひとを、愛しているのですね」
「はい。一番大事なひとです」

沙織の言葉に、アフロディーテはふわりとした……だが悪戯めいた表情でちいさく笑い。

「でも、この思いに欲はないのですよ……不思議なものですね」
「不思議?」
「ええ。どちらかといえばこれは貴女の領分でしょう」

アフロディーテの名に、相応しくはありませんね。


そう言って、美と愛欲の女神の名を持つ青年はくすくすと笑ってみせた。















アフサガめっちゃすきです。
別にBLな感じじゃなくてね……



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

サガ沙ss 『piece of mind.4』 サガとデスマスク。


教皇宮の一角の己の寝室で、窓辺に置かれた椅子に腰を下ろし夜の帳に覆われた窓の外をぼんやりと眺めながら、サガは幾度目かの溜息を洩らした。
手にした書物は幾ら羅列された文字を目で追おうとも全く頭に入ってこない。古めかしく重厚な装丁のそれをちらりと一瞥し、彼にしては些か乱雑な所作でそれを机上へと放り投げた。

入浴後の乾ききらない髪を鬱陶しげに搔き上げ、サガは今一度深い溜息をつく。

「……何故私は人の身なのだろうか」

薄闇の中、ぽつりと独り言ち己の掌を何とはなしに眺め遣ったサガは徐に眉を顰めた。
この血塗られた手で、よくも女神に触れられたものだと、我ながら厚顔なものだと嘲笑さえ湧いてくる。

我々の幸福を祈りながら、たったひとり取り残される未来に怯えていた女神。

例え僅かでも彼女の憂いを取り除けるのならば我が身を差し出すことに何の躊躇いもない。
それは自分の中の真実だ。
だが、と彼はひとり逡巡する。女神にとっての己は武器であるはずだ。彼女が守護する地上世界のために進むべき道を揺るぎないものにする道具であるべきだ。
ならば、何故私は人の身であるのだろう。机の片隅に置かれた銀製のペーパーナイフにちらと目をくれ、彼は端正な口の端をぎり、と咬みしめた。

武器にはそれ自身に善悪はない。意思も思想も概念も持たない。大まかな目的や適した用途はあれど、それに意味を持たせどう使うかは使用者側の問題だ。
勿論、女神が武器を厭うことは承知している。であれば、例えばニケや正義の盾のようなーー純粋な力であれば。

「そうであれば、貴女がこの世に存在する限り共に闘えるものをーー」

詮無きことを思いながら、サガは己の胸の奥が鈍い痛みに疼くのを感じきつく双貌を閉ざす。
闇に閉ざされた視界はやがて鮮やかな蒼と新緑に塗り替えられ、その中心に主の姿が浮かび上がった。

それは僅か数時間前のーー今日の午後の光景だった。

神殿の中庭で、寂しさに震えていた地上の戦女神。
この身が果てるまでは傍に在りたいと、至極当然の願いを口にした私に触れた細い指先。あの儚げな少女がこの世界を支えているのだとーーその信じ難い事実を改めて思い知り息を呑むには充分な、頼りない感触だった。

飛び込んでくる甘い花の芳香と、この腕に崩れ落ちた華奢な肢体。呪文のように紡がれた私の呼び名と重ねられた小さな唇。

ーー何故。

ゆっくりと瞼を上げ、サガは再び窓の外の夜闇へと視線を遣った。昼間と変わらぬ風景が拡がっているはずの夜の聖域は、まるで自分の胸の内のように何も見えない。

何故、と彼はひとり繰り返す。何故自分は人の身であるのだろうか、何故彼女はあのように私に触れたのか、と。

涙が溢れそうな、哀しみと優しさが宿った静かな口付けだった。予想外の主の行動に思考が追い付かずにいた以上に、彼女から流れ込んでくる切なさに呑まれたのは事実、ではあったけれど。

それで終わるはずだった。
だがやがて離されるはずの円い唇に、ふと灯が燈るように熱を感じて。
それに呼応するかの如く口付けは深いものへと変わっていった。それは拙くとも酷く情熱的でーー彼女を制すなどという本来ならば当然の行動に考えが及ぶことはなく。

ーー何故、私は彼女に応えたのか。

半ば衝動的に腕に掻き抱いた女神と貪るような口付けを交わす。明らかに主と僕の所作ではないだろう行為に彼は不思議と罪悪感を覚えることはなく、ただその代わりに彼女と接するとき常に感じていた、魂の震えるような愛おしさにノイズが混じるのを苦々しい思いで自覚していた。

「ーー人の身など、煩わしい……」

低く絞り出した自らの呟きに一層その表情を曇らせ、逡巡する思考を打ち切るべくサガは小さくかぶりを振った。










不意に響く強めのノック音に、弾かれたように顔を上げ扉の前へと向かう。
何処か聞き覚えのある、どちらかといえば不躾な叩音に苦笑しながら鍵を開ければ、その先に佇んでいたのはサガの予想通りというべきか、銀髪に深紅の瞳を持つ男だった。

「どうしたデスマスク、このような時間に」
「良いモンが手に入ったんでな、偶にはどうだい?」

へらりと笑い、デスマスクは手に持ったフルボトルをサガの目の前に掲げてみせた。クラシックなラベルで飾られた瓶の中身は、男の双貌よりも濃い深紅。ご丁寧にも反対側の手にはワイングラスが二客、器用な手付きで握られている。
酒を片手に時折ふらりと現れては、取り留めのない時間を過ごしふらりと消えるーー教皇としてサガが生きた、決して短くはない拷問のような記憶の中で束の間の安息を与えてくれた、やはり短くはない付き合いの男の変わらぬ姿に、サガは眩しそうに目を細めやわらかな笑顔を浮かべると彼を招き入れた。
デスマスクはといえば、勝手知ったると言わんばかりに寝室の奥へと大股で進み、適当に腰を下ろすと慣れた手付きでワインボトルのコルクを抜いた。

「そういや、あんたの女神様はどうだ?何か元気ねえんだろ?」

ボトルを持った片手を目線まで掲げ、床に置いたグラスにワインが空気に触れるようゆっくりと注ぎながら、デスマスクはとりあえずといった口調で黄金聖闘士たちの懸念について口にする。
どうせ大したことはないのだろう、もし大事であれば目の前の男がとっくに対応しているはずだというのが彼の見解ではあったが、一応……というより、女神の感情だか気分だかの波にサガが変に振り回され疲弊してはいないか、それを確認しようというのが目的だった。
そんなデスマスクに対しサガはといえば、あからさまに眉間に皺を寄せ険しくも半ば呆れ果てた表情で夜更けの来訪者を凝視する。

「……お前の女神でもあるだろうが」
「あー、まあ一応……そうだけどよ」

大仰に肩を竦め、デスマスクは戯けたように苦笑してみせた。自分は蟹座を戴いているのだから勿論サガの言葉は正しい。正しい、のではあるがあくまでも自分はアテナがサガの女神であるから従っているに過ぎない。
だが、そんなことを口に出せば嗜められる、では済まないことは分かりきっている。故にデスマスクは己のスタンスには口を噤み悪かったよ、と笑いながらグラスを彼へと差し出した。

「で、あのお方は何をそんなにお悩みなんだ?あんたもアイオロスも動かねえってなら戦だ何だってこたぁねえんだろうが……」

まさか太ったとかそういう下らねえことじゃねえだろうな、と不敬極まりない軽口を叩く銀髪の男をサガはじろりと睨み付けたが、口は悪くとも彼はアテナを気に掛けてはいるのだとそれ以上苦言を呈すことはなかった。
デスマスクが彼女を気に掛けているのはあくまでもその先にサガの存在があるから、なのだがサガがその事実に気付くことはない。
それでいいのだと蟹座は思う。恐らくそれを知ってしまえば、目の前の敬虔な女神の僕は自分の過去に苛まれるだろうから。

溜息を洩らし、サガは何処かぼんやりとグラスの中の深紅の液体を眺めた。それからゆるりとした仕草でグラスを回しワインを口へと運ぶ。

「ーー旨いな」
「そりゃあそうだ、上物だからな」

素直な賞賛に、デスマスクは自慢げに笑う。それはそうだろう、この銘柄はあんたの気に入りだったんだからなーーそう、口には出さずに。
デスマスクが自らの唯一の主と定めた黒髪の男……今はもうこの世界の何処にも存在しない、否ーーもしかしたら今も彼の目の前に存在しているのかも知れない青年が好んでいた銘柄。酒を嗜みはしても別段好むことのないサガがそれを口にし顔を綻ばせたことに、デスマスクもまた僅かに双眸を細めた。

「ーーあの方は、神故の孤独に苛まれていらっしゃるのだ。我々の幸福を願い、聖闘士としての宿命からの解放を願い、その上でアテナはおひとりで地上を守護するおつもりなのだ」

酒の効果か、二杯目のグラスを空けたあたりでぽつりぽつりと言葉を紡ぎ出したサガをデスマスクはそうとは知られぬよう観察する。
アテナはサガに何を言った?何かを求めたのか?そんなことを思いながら。

サガが目覚めなかった一年間のアテナをデスマスクもまた他の黄金聖闘士同様見てきた。
疑問、ではあったのだ。
天界の不穏な動きがある訳ではないという。つまりは黄金聖闘士が揃う必要はないということだ。それにもかかわらずアテナはサガの目覚めに拘りを見せた。双子座というならばサガの弟であるカノンが居るのに、だ。
女神の意地なのか、と思った。自分の聖闘士が自分の呼び掛けに応じないことへの。
神の威信に懸けて、拒絶は許さないとーーそういうことかと思っていた。

(十三年間、サガを救いもしなかった女が)

だからか、とデスマスクはサガの言葉に得心した。我々の幸福、とサガは言った。つまりは今更と謗られようともサガを救いたかった、という訳か。

(大きなお世話、ってんだよ……女神様)

サガは赦されようとも救われようとも思ってはいなかった。それこそ救いなら、眠らせてやっていた方がどんなにかサガは救われていただろう。そしてあの誇り高い黒髪の青年がこのことを知ったらどんな顔をするだろうかーー侮蔑、嘲笑、そんな表情しか想像できないとデスマスクは思った。

「ーーあんたは、どうせ幸福なんてもん要らねえって思ってんだろ」
「……そうだな」
「宿命からの解放なんざ望んじゃいねえし、一生此処に居て何かありゃあ女神と心中するつもりなんだろ?」
「ああ」
「だったらそれでいいじゃねえか。あんたの望みがそうだってんなら例え女神様でもそれをとやかく言えねえだろ。わざわざ聖闘士のあんたを生き返らせて聖闘士辞めろなんて我侭が過ぎるだろうよ……それでアテナだって孤独じゃねえ。少なくともあんたが居るんだからな」

サガがアテナの傍に居るなら、少なくとも俺とアフロディーテとシュラは聖域を離れない。万々歳だろ……つーか人選に文句言うなよ。
そう内心で独り言ちたデスマスクに、サガはふと表情を曇らせ夜闇で何も見えない窓の外へと視線を映す。

「人の生涯など短いものだ。そうでなくとも我々はいつ死ぬとも分からん立場にある」
「ーーや、そりゃあそうだけどよ……それを言っちゃあ身も蓋もねえだろ。大体アテナだってこの世界じゃ人間の身体してんだからいつかは死ぬだろうよ」
「……そういうことを、言っているのではない」

何処か遠い眼差しでサガは暗い夜空を仰ぐ。その姿は誰もが称賛するような絵画の如き見事な美しさで、だがデスマスクは己の背筋が薄ら寒くなるのを感じていた。
サガは何を考えている?女神はサガに何を言ったーー寂しいと、そう訴えたのか?

息を呑み食い入るように己を見詰める男の視線に気付いているのかいないのか、サガは夜空を見上げながら言を紡ぐ。

「何故……私は人なのだろうな」
「ーー!サガ、あんた……」
「純粋な、単なる女神の道具であればよかったのにーー」

淡々とした、そして酷く哀しげな声音が部屋の空気を震わせた。デスマスクの脳裏にサガと同じ造形の、艶やかな漆黒と真紅を纏った青年の姿が鮮明に浮かび上がる。あの人はーーあんたはあくまでも人間として、神々の脅威を跳ね除けようとしていたのではなかったか。
地上の覇権を神に委ねることを何よりも危惧していた筈ではなかったか。

(どういうことだよ、あんたの女神様はあんたに何を言ったんだーー!)

衝撃的なサガの言葉に声も出ない。渇き切った喉を潤そうとグラスの中身を注ぎ込むが、彼の主も好んでいた芳醇な香りも味もろくに感じやしなかった。
恐らくデスマスクの返答など求めてはいないのだろう。サガはゆるりと振り返ると酷く辛そうな微笑を浮かべる。

「ーー人の身は……煩わしい。思わぬ切っ掛けで、欲が出る」

それは、意外な言葉だった。
サガは何を言っているのかと先程までの遣り取りを反芻したデスマスクはああ、と思い当たり軽く肩を竦めた。
アテナの言うところの『幸福』を人の身であるがために求めてしまうと、そういうことだろうか。いや、ストイックなこのひとのことだ、もっと基本的なことのような気がする。

「……欲つったってあれだろあんた、旨いもん食いてえとかゆっくり寝てえとか、その程度のことだろどうせ」

敢えてからかうように言ったデスマスクに、だがサガは怒るでもなく少し困ったように苦笑しながら。

「……詭弁だな、それは欲とは言えん。生命維持のーー闘うための手段であり本能だ」
「じゃあ何だ、人肌でも恋しいってか?そんなん別にいいじゃねえか。そりゃあ教皇の間に女連れ込む訳にはいかねえだろうがよ……ああ、それなら今度一緒にどうだ?あんたならその辺適当に歩いてりゃ女も男も選り取りみどりーー」
「そんなものは要らん」

途端、あからさまに厭そうな顔でぴしゃりと告げられた。まぁそれはそうだろうなとデスマスクは苦笑する。敬虔な女神の僕である以上そういうことへの禁忌の念は少なからずあるのだろうが、それ以前にこのひとはやたら淡白なのだ。黒髪のあのひともそうだった。自分たちの遊びに付き合って気紛れに外で娼を買う事は稀にあっても、聖域内はおろか市井の女に手を付けることもなく、淡々と日々を過ごしていた。
女遊びでもしたらどうだと勧めた自分に、そんなものは要らんと今と同じように厭そうな顔でこちらを睨む黒髪の主を思い出す。

「勿体ねえなあ、あんた」

いつだったか、黒髪のサガに向けたものと同じ言葉を口にする。すると彼は鬱陶しそうにこう返すのだ。何度も言わせるな、と。

だが、目の前のサガはデスマスクの記憶とは違う顔でーーそれでも同じ言葉を返す。酷く辛そうな、何かを堪えるような趣に、蟹座から一切の表情が消え去った。

「何度も言わせるな。そんなものは要らないーー代用品、など」

苦しげに絞り出すような声音が、呆然とサガを見詰めるデスマスクの脳裏に木霊のように鳴り響いた。










十二宮の石段を巨蟹宮に向けて降りながら、デスマスクは苦々しい思いで舌打ちを洩らす。

「……ふざけんなよ」

苛立ちも顕に、一応現在の己の主という位置付けである戦女神へと吐き捨てると彼は身体ごと振り返り、教皇の間とその後方に位置するアテナ神殿を見上げた。

(あの女、サガを壊すつもりなのか?)

ぎり、と口の端を咬み意識を凝らせば、剣呑な光を宿す深紅の双眸が暗闇の中でもはっきりと女神像ーーアテナの聖衣の仮の姿である物言わぬ彫像を映し出す。
ふざけんなよ、と再び吐き捨てるとデスマスクは晴れ渡った新月の夜空へと視線を遣った。
月のない夜空のいろは、あのひとの髪のいろに似ている。

嘗てのーー否、彼の中では今だに主である黒髪の青年に思いを馳せ、青年の怒りを、憤りを改めて胸の内に落とし込んだ。
気紛れで傲慢で我侭な天界の住人共。人間の尊厳を懸け神に闘いを挑んだあのひとの、これが罰だとでも言うつもりなのか。

『そんなものは要らない』

デスマスクの脳裏に先刻のサガの言葉が蘇る。あのひとは驚くほど気が回るくせに、自分のこととなると途端に鈍感で無頓着だ。恐らく自分が何を言っているのかーーそれが何を意味するのか、気付いてはいないだろう。

代用品、とあのひとは言った。
あのひとにとって、代用品ではない女などこの世でたったひとりしかいないだろう。

「……まさかこんな形に落ち着いちまう、なんてな」

ぽつりと呟きを洩らし、蟹座の男は深い深い溜息を吐く。思い出すのは己のこころを壊しながら、それでも聖域のため地上のため、そしていつか戻ってくるだろう女神のために生き続けてきた『神の化身』の成れの果ての姿。
あのひとが、ずっとアテナに焦がれ続けていたことは知っている。だが、それは己への断罪への渇望ーー自身のいのちで以てアテナを地盤を固めるという役割を全うすることと同義であったはずだ。

「本当に、眠らせてやってた方が幸せだったよなぁ……」

もうやめてくれと、サガを起こすなと女神に訴えていたのはサガの双子の弟だった。
その訴えは正しいと思いはした。だが、あの時俺は沈黙を保った。
俺もまた、サガに会いたかったからだ。

黒髪のあのひとがもうサガの中に存在していなくても、それでもーーサガと、同じ時を過ごしたいと思った。

「……結局俺もあの女と同じ穴の狢か」

やっちまったな、と徐に顔を顰めたデスマスクは取り出した煙草を咥え、ゆっくりとその先端に火を点けた。















デッサガアテナ。
デス様はサガのすべてを受け入れて決して否定しない断トツの包容力をみせる傍観者であろうと思ってます。



サガ沙ss 『piece of mind.3』 サガとアテナ沙織。


天界が恋しいのか。
天に、還りたいのか。

サガの問い掛けに、沙織は大きな瞳を言葉の主へと向けた。瞬きすら忘れ、彼の穏やかな、そして寂しげな光を宿した双眸を見詰め、それから小さくかぶりを振る。

「……どう、してーー」

違う、と言いたかった。だがそれを口にすることは彼女にはできなかった。

天界に還りたいとは思わない。地上世界で皆と過ごしていたいーーそれは、嘘ではない。
聖戦が終結し、役目を果たした生き残りの聖闘士たちに人としての幸福を得てほしいと思った。けれど、たったひとり女神として取り残されることが寂しかった。
失われた、黄金聖闘士をはじめとする皆との時間を取り戻したかった。
救うことのできなかった、差し伸べた手を取って貰えなかった貴方に、もう一度手を伸ばしたかった。

だから自分は、いのちの理を曲げてでも神の力で皆を復活させたのだ。

(これは愛ではない。ただの我侭だ。身勝手な執着だ)
(私の中に生まれた、人のこころが)

取り戻したところで、それは永遠ではない。
この箱庭の中でのままごとのような生活も、いつかは終焉を迎えるのだ。
皆いつかは天寿を全うし、星の宿命から解放されて新しいいのちに生まれ変わる。
けれど私は、いつまでも私のままなのだ。

思いや執着が強ければ強いほど、それを失ったときの穴は大きいだろう。ならば、そうなる前にすべてを手離せば傷は浅くて済むのではないかーーそう思ったのも事実だった。だから沙織はサガの問に否、と返答することができなかった。

途方に暮れたように己を見詰める沙織に、サガは淡々とした口調で問を重ねた。

「アテナ、貴女ご自身の幸福とは何でありましょうか。それは神々の地に存在するのですか?」
「ーー違います!」

今度こそ、沙織は明確に否定した。珍しく声を荒げた彼女の姿にサガは一瞬目を瞠る。だがそれに構うことなく彼女は言葉を続けた。

「私のしあわせは此処にあります!この場所で皆と何気ない日々を過ごすこと……それが私は、とても嬉しいのーーそれなのに還りたい、などと」

そんなことは思っていない。たとえそれがいつの日か終りを告げるしあわせなのだとしても。
そこまで告げて、沙織は目の前の青年から視線を逸らし唇を咬んだ。俯くことはしなかった。俯いたら涙が零れ落ちそうで、それはきっと彼の負担になる。そう思ったからだ。

「……矛盾しているでしょう?私は貴方たちのしあわせを願っている。この気持ちに偽りはありませんーーけれど同時に、私は貴方たちと共に過ごしていきたいと望んでいるのです」

矛盾しているという沙織の言葉はサガに幾つかの出来事を思い起こさせた。

目覚めた自分に、贖罪など望んではいないのだと言い募った彼女。共に朝食をと向けられた眩いばかりの少女の笑顔。
訪れた白亜の街で出会った優しい人々と、涙を浮かべた女神。細かく身を震わせた彼女の姿は、丁度今と同じようではなかったかーー

脳裏を過る消え入りそうな、だが悲鳴にも似た声音。寂しいのだと、彼女が私に訴えたのはいつの頃だったか。それは夢の中のことであったのだろうか。

「アテナ」

ああ、そういうことかと得心し彼は主の名を呼ぶ。
やわらかな声音が優しく耳に響き、沙織は顔を上げ再び眼前に佇む青年に視線を合わせた。何処か途方に暮れた幼子のようにも思える眼差しで己を見詰める主はやはり痛々しく映るーーそれが、サガには酷く哀しかった。

アテナは、私の主は、我々の幸福とご自身の幸福は相反するものと……そうお考えなのだ。

「アテナ、私はーー貴女の仰る『人としてのしあわせ』を手にしたいとは思いません」

沙織を正面に見据えながら穏やかな口調で告げるサガの言葉に、彼女の両の瞳が見開かれた。驚きというより衝撃で、沙織は呼吸を忘れ言葉の主をまじまじと見遣る。

「……皆がそうであるとは言いません。これはあくまでも私個人の言葉であります故、気に入らぬとお思いでしたらどうぞお捨て置きください」
「そんな、ことは……」

茫然として呟きを洩らす沙織に向かい微かな笑みを浮かべ、サガはやわらかな口調のまま続けた。

「私は幼い頃より聖闘士として聖域で過ごして参りましたーーですから私の価値観も思想も信念も総てこの地で培われてきたのです。地上の安寧のため、そして貴女のために生きて死ぬことが私の存在意義と思っておりますし、己の価値を全うすることが私にとって何よりの幸福なのです」
「サガ……!」

当たり前のことのように告げられたサガの言葉の内容は、沙織にとって酷く哀しく、そして胸を抉るものだった。それでは宿命に殉じているだけではないかーー星の宿命、双子座の宿命……二重の意味で迷い苦しんできたこのひとに、これ以上辛い思いをさせたくなどないのに。
主を宥めているようにも聞こえる、優しく穏やかな声音。けれどもそこに慰めの意図は感じられない。このひとは本気で、まるで呼吸するかのような自然さで己の内に自らの存在価値を見出しているーー彼の言葉は彼自身の本音であり女神に対する至誠なのだと、そう、思えてしまった。

「サガ!そんなこと私は望んでおりません……!」
「気に入らぬならお捨て置きくださいと、そう申し上げたはずです」
「ですが……」

堪りかねて声を荒げた沙織に対し、サガは表情を崩すことなくあくまでも穏やかな口調で、淡々と告げた。低く響き渡るやわらかな声音は、だが決して否やを言わせぬ明確な意志が宿っている。それを肌で感じた沙織は言葉を失い、それでもと精一杯の拒絶を込めて何度もかぶりを振ってみせた。

駄々をこねる幼い少女のような沙織の振る舞いに、やがてサガはほんの少しの苦笑を洩らしその双眸を細め彼女を見遣る。
主である以上に本来手の届かぬはずの、大いなる小宇宙をその身に宿す至上の存在。それなのに、そのはずなのに、寂しさに震えるこの方は何と小さく儚げなのであろうかーー

不思議な感覚だった。
高揚も焦燥もなく、渇望も躊躇いもない。ただ酷くこころが漣立つ。


愛おしさに震えるのだーー魂が。


「ーーアテナ……私の幸福を、貴女がお決めになるのですか?」

予想外の問い掛けに、沙織は再び首を横に振る。違う。そんな傲慢なことは思ってもいなかった。

(本当に、そうだろうか)
(彼にとってのしあわせを、私は決め付けていなかったか)

「そんな、ことは」
「貴女がお決めになられたことでしたら従いましょう。だが、そうでないのならーー私は、私の望みを曲げるつもりはありません」
「……貴方の、望みは」

何を望むの?と。
訊いてしまって、次の瞬間いけないと思った。
訊いてはいけなかった。きっともう、私は戻れなくなってしまうと。

答えなくてよいのです、と言おうとしたけれど。
目の前に佇むこのひとは、誰よりもきれいな微笑を浮かべて。

「私は聖域で、生涯貴女のお傍に仕えて参ります」

ーーああ、何てばかなひと。

(ばかなのは、私でしょう?)
(恐怖を抱え込んで、歓びに震えているのでしょう?)

「……サガ」
「はい」
「その言葉ーー今ならまだ、取り消してもいいわ」
「私には取り消す理由がございません」
「言霊に、縛られるのは貴方なのですよ」

震える声で沙織は告げる。怖い、と彼女は思った。怖いーー彼を縛るのは言霊などではない。私が彼を縛るのだ。怖い。女神の呪縛から逃れたいと、いつか彼が解放を願った時…… 私は慈愛を以てそれを受け入れることができるだろうか。

(きっと、私にはできない)

その時私は何を思うのだろう。そしてそんな私を、彼はどう思うのだろうか。

「……人の一生は、きっと長いわ」

そっと視線を逸らしぽつりと告げた沙織に向かい、サガはふわりと微笑んで。

「私は闘う身であります故、貴女が天に還られる日まで生きてお仕えするとお約束はできませぬがーーなるべくそれが叶うよう、長い人生であるよう願っております」

そんなに簡単に自分の人生を縛り付けてはいけないと、思いとどまるようにとーー違えるような約束はいらないと紡ぎ掛けた沙織の言葉をさらりと先回りして、双子座の青年はまるで他愛なく積み重なる日常の会話のように女神への誓いを口にする。
取りとめのない遣り取りのようで、これは宣誓なのだ。子供の口約束などではない……星の宿命とは全く性質の異なる、女神とその僕の契りに他ならないのだとサガは承知の上で言を紡いでいるのだと、絶望を思いながら沙織は胸に沁みるようにしっとりと響く彼の声を聴いた。

(……プロポーズみたいだわ)

ふとそんなことを思い、沙織は胸の奥で苦笑を洩らす。一瞬、ほんの少しだけ暖かくなったこころがちくちくと痛んだ。
プロポーズだなんて、これはそんな華やいだ申出ではない。

このひとは、私に人生をくれるという。手に入れた自由を、未来を棄て生涯を女神に、そして地上世界の安寧のために捧げるという。
それは私が望んでいなかったことで、けれども震えるほど欲しかったものだ。
何度もその手を取ろうとして取れなかったーー差し出した手を振り払われた。そしてそれはもう永遠に叶わない。けれど一方で私はこのひとに漸く触れることができる。

「ありがとう、サガ」

いつの日か訪れる絶望は目の前に横たわっている。それを痛いほど理解しつつ、それでも沙織は蕩けるような笑顔を浮かべる。

さらさらと、衣擦れの音がして。
沙織の足元に片膝をついた姿勢で臣下の礼をとる彼女の双子座に、釣られるようにして彼女もまた長いドレスの裾をふわりと捌きながらその場にしゃがみ込んだ。
流暢な彼の動作に合わせ軽やかに弾む、少し癖のある蒼銀の長い髪がとてもきれいで、その髪に触れてみたいと思ったーーけれど。

(それもいつか、絶望に変わる)

この誓い通りに彼が生涯を捧げてくれても、いつか終焉が訪れる。
このひとは生を終え、私は天界へと還るのだ。

このひとの記憶を、魂に刻んだまま。

「アテナ?」

絶望という名の恐怖が、ざらりと沙織のこころを撫でてゆく。その不快感にも似た戦慄に息を呑み、凍り付いたように動かない主を不審に思ったのか、僅かに眉を顰めたサガの呼び声にやがて彼女はぴくりと肩を震わせた。

「……いいえ、何でもないのです」
「ですが」

ごめんなさい、とサガを制し沙織はそろりと両手を彼へと伸ばす。
本当は、手の甲を彼に差し出すべきなのだろうと思ったけれどーー臣下の礼など、私は欲しくなんてない。だから。だからせめて。

せめて女神の祝福をと沙織は願った。救うことのできなかった己の双子座のしあわせを願う気持ちに偽りはなかった。
このひとに触れる度に自分の中の絶望は大きくなる。彼女にはそれも分かっていたけれど。

両手で触れて。そのきれいな蒼銀の前髪を掻き分けて。
額に、女神の祝福のキスを。

ーーそう、思ったのに。

「……あの、アテナ……?」

けれど、沙織の細い指先が蒼銀の髪に触れることはなくて。
その代わりに両の掌がサガの白い頬を包み込む。予想外の主の挙動に驚きを禁じ得ず、彼は咄嗟に顔を上げ沙織へと視線を合わせた。

此方を見詰める深いいろの瞳。蒼銀の長い睫毛。彫像のように滑らかな、きれいな、きれいなひと。



絶望が、冥界よりも深い闇の如く地上の戦女神へと鎌首を擡げる。



(女神の祝福など、このひとは望んでいない)
(それならば、呪詛を)


どこかで誰かの声がする。


(女神に呪いを掛けた、このひとに)


ああ……これは私の声だ。


(だって知っているでしょう?)


脳裏に響く己の声を聴きながら、沙織は己を見詰める男の頬に触れた指先を滑らせるようにして、両腕を彼の首元へと絡ませた。途端、彼の身体が強張るのを肌で感じたけれどもそれに構うことも、己の行為に躊躇いを感じることもなかった。



ーー目眩がする。



(私は知っている。絶望を捻じ曲げる方法を)


力強い戦女神の声音。迷いを断ち切らんと奏でられた旋律を聴きながら、沙織は身体ごと崩れ落ちるように目の前の男の腕の中にもたれ掛かる。

「……サガ」

囁くように、名を呼んで。

それから、戦女神はそっと唇を己の双子座に重ねた。















どこまでも噛み合わないあたりが非常に滾るのです……


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

サガ沙ss 『piece of mind. 2』 サガと沙織 / ロスリア兄弟


至る所に豪奢な彫刻の施された、大理石造りの白亜の神殿。規則正しく建ち並ぶ幾つもの神殿の支柱を両脇に置いて真っ直ぐに奥へと続く中央回廊を、裾の長い法衣を慣れた身のこなしで捌きながらサガは神殿の中庭へと乾いた靴音を響かせ歩を進めていた。

やがて辿り着いた先ーー中庭へと繋がる扉の前で立ち止まると、彼が触れるでもないままに軽い金属音と共に扉が開き、眩い午後の陽射しが回廊を照らし出す。
眼前に飛び込んでくる光に双眸を細め、サガはゆっくりとした足取りで中庭へと入った。

女神の意思が支配する神殿で、己の来訪に合わせ開放された扉。それは自身が扉の先に足を踏み入れることへの許可であると彼は理解していた。
心地好い光と風、煌めく新緑と色調を抑えた花々。中庭を彩るそれらを見事なものだと思いながら、サガはゆるりとした動作で周囲を一望する。

緑と白で統一された庭園の中央に、まるでたった一輪だけ咲き誇る大輪の華の如き趣で神殿の主がひとり佇んでいた。
サガに背を向ける沙織の長い髪と、純白のドレスの裾は吹き抜ける風にさらさらと揺られている。

「……」

庭園の中央から少し離れた位置で立ち止まったサガに気付いていないわけではないだろうに、彼女は振り返ることも声を掛けることもなく、それどころか身じろぎひとつせぬままーー遥か高くぽつりと浮かぶ雲の合間に見える、蒼いあおい天空を眺めていた。

天を仰ぐ主の姿を双眸に映しながら、サガは僅かに眉を顰めその白皙の美貌を曇らせる。

(やはり、そうなのかーー貴女は)

ちりちりと、胸の奥が燻るのを感じながらその場に立ち尽くしていた彼がやがて一歩前へ踏み出すと、沙織もまたゆっくりと彼を振り返った。

「……休憩ですか?」

例え黄金聖闘士だろうと教皇の代理であろうとーー否、教皇であったとしても単なる休憩でアテナ神殿の中庭へ足を踏み入れることなど有り得ない。それを百も承知の上で問い掛ける沙織に、サガは軽く肩を竦めやわらかな微笑を浮かべた。

「いえ。貴女をお探ししておりました」
「まあ、何でしょう。ティータイムのお誘いですか?」

嬉しいわ、とまるで蕾が綻ぶ姿のような艶やかな笑顔を向けた沙織の姿に、けれどもサガは己の胸の奥の燻りが拡がるのを感じる。

「……アテナ、私は」
「そうだわ、美味しい紅茶があるの。用意しますから待っていてくださいね」
「アテナ」
「それともサガはコーヒーの方がいいですか?」

サガの呼び掛けを無視して告げる沙織の様子は酷く不自然だった。まるで取り繕うような笑顔ーー取り繕っているのだと、サガにも沙織自身にも明確に突き付ける、そんな不自然さだ。

「アテナ、何を憂いておいでです」
「……サガ」

静かな、だがストレートなサガの物言いに、沙織は弾かれたように己に向けられた彼の双眸を見詰め返す。
凪いだ水面のような静謐な眼差し。そこに宿るのは決して怒りや憤りや落胆ではなく、取り繕いはぐらかそうとした沙織を責める光も一切見当たらない。
ーーただ、酷く哀し気ないろが見えた。

ぎしりと、沙織の胸の奥が軋む。

取り繕うくらいなら、咄嗟に隠せぬくらいなら彼の来訪を拒絶すればよかったのだ。
望めばいつだって彼には会えるのに。それこそ、中庭を出てこちらから会いに行けばよかったのだ。美味しい紅茶があるの、なんて。そんなこといつも言ってるじゃないの。

(だって、会いたかったの)
(私を訪ねてきてくれた、貴方に)

円い唇を咬み沙織は小さく俯いた。女神の麗しいかんばせから笑顔が消える。
やがて取り繕うことを諦めた彼女から、ごめんなさいと消え入るような声が洩れた。

「ーー差し出がましいとは思っております。ですが、皆が貴女のご様子を心配しております故」
「……そう、ですか。皆に余計な気を遣わせてしまったのですね。でもーー大丈夫、新たな戦いの気配があるわけではないのです」
「それは承知しております。アイオロスにもその旨申し伝えました」
「そうですかーーありがとう」

サガの言葉に、少なくとも彼は新たな地上の危機の可能性を危惧しているわけではないのだと知り、申し訳なさと同時に喜びを感じる。そんな自身の感情に沙織は戸惑いを覚えながら改めて目の前の青年へと視線を向けた。

(こんな、小さなことで)

それほどに自分は孤独を感じていたのか。
神々の干渉をはじめとする地上世界の危機とは関わることのない、私自身に対する心配や気遣い。そんなささやかな、きっと彼からすれば当たり前のこころがこんなにも嬉しいだなんて。

聖闘士が私に跪くのは、私が地上の守護神だからだ。
彼らは私の盾となっているのではない。地上世界の盾となっているのだ。
それはきっと今後も変わらない。そうでなければならないし、それで構わないのだ。

そのはずなのに。

拡がっていく胸の奥の軋みを抑えながら、沙織は精一杯の笑顔を浮かべる。慈愛を湛えていながら艶やかに蕩けるような、咲き誇る大輪の薔薇の如き笑み。それを目にした者の多くが神々しいと、或いは麗しいと賞賛するであろう極上の笑顔を、だがサガの目には痛々しく映し出されていた。
この方は無理をされている。そして、何を犠牲にしてでも護るべきこの方に無理を強いているのは恐らく我々なのだーー喉を突いて出掛かった言葉を、しかし一瞬の躊躇いを覚えたサガは表情を曇らせたまま先ほど沙織が見上げていた蒼く高い空を、天を仰ぐ。

「サガ?」

己を呼ぶ女神の声が震えている。彼女とてそれを自覚しているだろうに、戻した視線の先に佇む彼女の美しく、そして痛々しい笑顔は崩れてはいなかった。

「……アテナ、天界がーー神々の住まう地が恋しいとお思いですか?」

酷く優し気な、けれども重苦しさを感じさせる低い声音が沙織の耳朶を打つ。
息を呑んだ戦女神は、弾かれたように彼女の双子座の深い湖の水面の如き双眸を凝視した。










「兄さん!アテナのご様子はどうでした?」

鍛錬所に足を踏み入れたアイオロスの姿を認めるやいなや、彼の元へ駆け寄ったアイオリアは開口一番皆の懸念事項であるところの主について兄へと問うた。
些か緊張した面持ちの、しかし弟の双眸に不安の影は見当たらない。黄金聖闘士としての自信と気概に満ちた眼差しに、立派になったものだとアイオロスは目を細めアイオリアに笑い掛けた。

「アテナにはお会いできなかったが、戦いの気配によるものではないと言われたよ」
「……サガに?」
「ああ」
「そうか。ならば大丈夫、なのだろうな」

素直に顔を綻ばせるアイオリアだったが、ふと首を傾げると暫く黙り込み兄の表情をちらと伺った。
精悍な彼の造作に相応しい、真っ直ぐで力強く、それでいて暖かな眼差しと表情。何かを言い淀むような雰囲気はまるでない。それならばと、アイオリアは主に対する余計な詮索になりはしないかと思いながらも沙織が憂う事柄は何であるのかと問いを重ねる。
しかし、アイオリアの予想に反しアイオロスは困ったように笑いながらかぶりを振った。

「サガから聞いていないのか?」
「ああ……理由はサガにも分からないと言っていた」
「ーーあのサガが?」

シオン不在時の代理とはいえ、否、だからこそだーー教皇の権限を任され誰よりもアテナの傍近くに仕え、最も彼女を守護すべき責を負う双子座が、地上世界の危機に直結しないとはいえアテナの変調の原因を『分からない』で済ますのか?
己の知るサガの姿が脳裏に浮かぶ。幼い頃の記憶の中の彼は勿論のこと、彼が『教皇』であった十三年間、それから聖戦前夜、遠い北の地での邂逅、そして彼が復活してからのこの数ヶ月。
どのサガの姿を取っても兄の言葉との乖離を感じ、アイオリアは眉を寄せ険しい表情で低く唸った。

「アイオリア、サガは我々に『訊くな』と言っているんだ」

分からないか?と。
ゆっくりとした口調で問われ、アイオリアは思わず息を呑む。

そうだーーサガは、あのひとは無理に他者に踏み込んだりはしないし、また不用意な詮索を良しとはしなかった。
そうやって、我々黄金聖闘士同士の関係のバランスを保ってきた。サガはそういうひとだった。

だが、とアイオリアは思う。他人の感情の揺れに敏感で、常に周囲を気遣い己の思いは二の次にして予想できうる最善を選択をするーーサガのその在り方が、いつしか彼自身を壊していったのではないだろうか?
苦い思いが胸に去来し、アイオリアはぎり、と唇を咬みしめた。

俺は、確かにサガが好きだった。
目標であり憧れでもあった兄と肩を並べ穏やかに笑う、光り輝く『神の化身』を、とても眩しく美しいと思っていた。
いつか自分も兄のように、彼と肩を並べたい。隣に立ちたいと願っていた。

この気持ちだけは兄にも負けないと、そう思っていたのに。

あんなにも慕っていたというのに、俺はサガが苦しんでいることに全く気付かなかった。
まだ幼かったから、と言われるかも知れない。だが俺はあれから十三年間聖域に居たというのに、教皇がサガであるということ、そして彼が嘆き苦しみ死すらも選べず聖域を維持してきたこと、ただひとりアテナの帰還を切望していたことーー何ひとつとして。
それどころか、俺は忽然と姿を消したサガがいつの日か聖域に帰ってきて兄の汚名を晴らしてくれるとさえ思っていた。

俺の愚かな願いは、最悪な形で叶えられたけれど。
俺は、あのひとのたったひとつの願いを叶えるどころかーー何も知らずに。

何故気付かなかった。
何故俺は、あのひとを殺してやれなかった。

次々と湧き起こる後悔と自責の念。思考が過去に引き摺られそうになるのを堪えながら、アイオリアは兄へと問い掛けた。

「……兄さん、サガは、その……大丈夫なのだろうか?周囲に気を回し過ぎて疲れてはいないだろうか……辛いのではないだろうか?」
「アイオリア……」

そりゃあアテナ相手に気を遣うなってのは無理な話なんだろうが、と続ける弟の言葉にこころが暖まるのを感じ、アイオロスは彼に優しく笑い掛ける。
長い間逆賊の弟の汚名を着せられ、アイオリアこそ沢山の辛い思いをしただろうにーー他者に、それも己の不遇の原因でもあるサガに対しそういった思いやりを見せることのできるような、本当に立派な黄金聖闘士になった。

アイオリアの胸の内を知らないアイオロスは、改めて目の前の弟を誇りに思いながら肩を竦めてみせながら、自らの言葉を噛み締めるように告げた。

「サガはもうあの頃の彼ではない。お前が心配するほど心弱い人間ではないよ」












基本はサガ沙ですけどロスリアもリアサガも大好きなのです……


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

月桜キキ

Author:月桜キキ
月桜キキと申します。
数年振りに二次創作の世界に出戻って参りました。普段はしれっと会社員やってます。

暁のヨナ、聖闘士星矢(無印)を中心に、他ジャンルも時々。
NLBL混在しますのでご注意!

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。