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ハクヨナss『楽園』1/2。ユン+ハク→←ヨナ。設定基準は17巻。

果てなき大空を、風に乗り何処までも翔けて行きたいと希う。
深い森の芳香に誘われ、遙か遠い西の地へ。



✴︎



風の部族領最南端の程近く。暖かな日差しが降り注ぐ昼下がりの港街は、他の辺境都市と比較すると驚く程の賑わいを見せていた。
街の中心部に位置する広場で頻繁に開催される市は、活気溢れるこの地域の名物となっている。行き交う人々の衣装は勿論、髪や瞳の色も様々で、けれど皆一様に活き活きとした表情だ。

「凄い賑わいね……!異国の人もあんなに!それに、とても綺麗な街だわ!」

晴れ渡った空の下、緋色の髪を風に揺らしながら少女は深い菫の瞳を輝かせた。

「そーっすね、この街は上下水道や廃棄物の処理規定なんかがきちんと整備されてますからね。関税も免除されてるんで異国の商人も多い」
「だから人が集まるのね!」
「そうです。人が集まれば金が落ちる。落ちた金を公共事業に回せば街の住人は潤い、公共事業により整備された街にはまた人が集う。まあ理想的な金の循環です」
「そうなのね。他の都市もこの街に倣えば良いのに」
「この辺は交易が盛んな地ですからね……まあ、特殊なんすよ。それに」

一旦言葉を切り、黒髪の青年はざっと市の全貌を見回した。極彩色の野菜や果実、衣裳に装身具。漂う異国の香の匂い。相変わらず瑞々しい色彩に溢れた光景だ。嘗て王城で見た貴重な宝飾だの美術品だのより余程美しいと彼は思う。

「関税は勿論、此処じゃ市の売上に関して非課税なんです。必要なのは決まった出店料だけ。売れりゃ売れただけ懐に入るってんで商人は俄然気合い入れて頑張りますし、こぞって出店したがる」
「それがまた人を呼ぶのね」
「はい。街にとっても定期的に出店料が入りますし、宿や飲食店なんかも潤います。常設の店舗に関しては対利益の比例課税なんでーー」
「市に人が来れば来る程街が儲かるのね!」

若者が戯れに繰り広げる会話としてはいささか常から外れた遣り取りに言葉を弾ませる男女二人は、様々な色彩を持つ者の中に在っても尚見る者に鮮烈な印象を残す緋色の髪に加え、多少日焼けしているものの充分白い肌に淡い桜色の頬と可憐だが健康的な印象を与える薄紅色の円い唇の美少女と、髪や瞳の色は有り触れているものの、鞘代わりの布を刀身に巻き付けた明らかに大振りの得物と見て取れる長物を肩に担いだ長身の美丈夫。
只でさえ注目の的になりがちなのに、その会話は幾ら何でも目立ち過ぎだろうと、自称・天才美少年が徐に制止に入った。

「ちょっと!二人とも目立つ会話はやめてよね!てか雷獣!将軍って地方行政の監視とかもするの⁉︎」
「監視っつーか、将軍職はそもそも部族長兼任だからな」
「あーそっか、将軍自身が地方行政の施政者な訳ね。で、雷獣の場合ヨナの護衛も兼任してたんだよね。何かさ、改めて雷獣って凄いよね」

よりにもよって風の部族領内で、先代部族長の異名を呼びその上将軍などという注目されること間違いなしの職務名を自ら発したことは盛大に棚上げしつつ、素直に尊敬の眼差しを向ける美少年ーーユンに対し、特にそれを問題視するでもなく雷獣と呼ばれた青年はまぁな、と戯けてみせながらも少しだけ寂し気に笑う。

「まあ、ガキの頃からジジィには色々叩き込まれたしな。城でも学ぶモンは山程ーー姫さん」

途中で言葉を切り、彼は横を歩く少女へと呼び掛けた。視線は変わらず前方へと向けたまま。
思わず、半ば反射的に呼び掛けられた先へと向き直ったユンの瞳に映る少女は普段通りの笑顔を貼り付かせていた。貼り付かせているのだと白く、微かに震えている少女の握り拳がそう物語る。
ああまずったと、ユンは内心舌打ちを洩らした。雷獣は現王のーーヨナの父親の仇の親友だったと聞いた。恐らく雷獣は、現王の為にと数々の事柄を学んできたのだろう。

何か言わなきゃとユンが天才を称する頭脳を回転させる前に、世の中には無駄な知識など無いのだとばかりに飄々とした声音が空気を震わせた。

「あんたの役に立ってるでしょう、色々と。感謝してくださいよ」
「……ハク」
「ホント俺って有能な部下ですよねー、そう思うでしょ、姫さん」

さらりと自賛するその口調に、先程垣間見せた寂し気な色はない。

「……もう、自分で言わないの!」

少女の笑顔が一瞬で変化する。貼り付いた、面のようなそれではなく、蕾が綻ぶようなやわらかで華やいだ表情に、釣られるようにユンもまた笑顔を見せた。

(本当に、凄いよね)

ほんの一瞬で、ヨナの感情を読み取って。
たった一言で、ヨナを笑顔にするなんて。

面倒臭いのは御免だと、確かに思っている。集団生活において人間関係の面倒事……色恋沙汰などは尚更、持ち込んでなど欲しくない。だけど。

(雷獣の気持ち、気付いてあげなよね)

我ながらお節介な、面倒臭い感情を抱くようになったものだと自嘲しながら、それでもとユンは独りごちた。
金だとか色だとか、そういった即物的な対価を目的とせず、こんなにも他者に尽くし懸命になれる男を、俺は雷獣以外にはたった一人しか知らない。

(しかもその行動に起因するものが報われない恋情だなんて馬鹿、あんただけだよ)

取り留めもない思いを巡らせつつちらりと己の横を歩く二人に視線を遣れば、苦悩などとは無縁のような笑顔。

なーんだアホらし、と一言呟くとユンは二人の一歩前に踏み出した。



✴︎



地域の名物と名高いこの市の出店物は、食料品や生活必需品から国内外の衣料品、小物雑貨装飾品、珍しい舶来品まで様々である。此処では利益に対する税が生じない為売り手が不正を働くこともそれを役人が監視することもない。この市における役人の主な職務は治安維持と、麻薬等の違法な取引がされていないかの監視となる。殊に後者に対しては厳しい取締りが為されているため、結果この街に集う人々の質は比較的高いといえた。

「……陛下は、この街を一つの理想と捉えておられた」

活気溢れる街の様子をゆるりと見渡し、ハクは淡々と告げた。何の前触れもなく父親の話題に触れられ息を詰めるヨナの様子を一瞥し、だが特に躊躇するでもなく彼は続ける。

「重臣共は強い国強い国と、まるで呪文の如く繰り返していたが、別に軍事力増強だけが強国の要件ではありません。勿論、他国の侵略を許さない程度の軍備は抑止力や外交の後盾として最低限必要ですが」
「強国の、要件……」

ぽつりと鸚鵡返しに呟きを洩らすヨナに向かい、ハクは言葉を重ねる。

「はい。結局必要なのは他国との交渉力です。交渉とは、戦をしない為行なう机上の戦です。その戦に強く在ろうと、陛下は色々と試行錯誤しておられた」
「そう……その雛型がこの街の仕組なのね」

呟きざま、父の目指した街の姿をヨナは改めて一望する。
整備された街並と鮮やかな色彩を全身に纏う人々。何と素敵な街なのだろうと、街を眺め只思う彼女の脳裏に旅の中で出会った沢山の人たちの姿が浮かんでは消えて行く。
皆、懸命に日々を生きていた。脅威や不条理を耐え忍び、時には戦いながら。暮らしの中の小さな幸せを噛み締めながら。

けれどもっと、もっと上を、豊かな暮らしを目指せたならどんなにーー

「皆、この街の人々のように活き活きと暮らせたら……ええ確かに、素晴らしいわ」
「陛下はその為に交易、殊に輸出貿易による国内への金の流入を構造化出来るような基幹産業をと……まあ、実現の難しい構想ですが」

確かに実現は難しいだろう。この国の国土は大国と呼べる程ではなく、内需により特定の部族が潤うことはあれど、輸出で国そのものを潤せる程の物量は特産品、農産物、鉱物資源共に存在しない。その上長きに渡り軍拡に傾倒してきた結果、兵力として消費され続けた国民は疲弊し切っていた。

「高華国は軍需産業で成り立ってきたのだものねーーそう……父上は、それに代わるものを探していたのね……」
「金と人が集まれば内需は拡大します。税収に頼らずとも貿易での利潤を内部留保するだけで国の資金力は増大し、それをそのまま軍備に充てることも出来る。兵力は徴用するより国内外の傭兵を使った方が効率も良いし経済効果も高い。そしてそれだけの基盤があれば、まあそう易々と戦を仕掛けられることはないでしょう」
「でもさ、それってかなりの初期投資と国策の転換が必要だよね。今の高華国の国力じゃ、そりゃあ実現は難しいよ」

理想論で国政は無理だよねと尤もらしく肩を竦めるユンを諌めることはせず、だが国力のみの問題ではないとハクはユンと、それから嘗ての自分に言い聞かせるように、告げた。

「まあ色々あるんだよ、抜き差しならねー大人の事情って奴が。部族間の微妙な力関係とか、既得権益がどうとかーー」

段々とうんざりした表情へと変化していく元部族長の様子に、ユンは綺麗に整った自慢の顔を思い切り顰め、めんどくさ。と一言。

「お偉い様方の所謂利権って奴でしょ?ホント色々大変だったんだね、雷獣」
「まあな。行き過ぎた平和主義は国を滅ぼすなんつー言い分は、正論だが詭弁だ。現行の体制で甘い汁を吸う奴らにとっちゃ体制の変更なんざ以ての外なんだろうよ。他の奴らもウチの連中みてーに流れに乗ってテキトーに生きてりゃ色々楽なんだがな」

風の部族に対する少々辛辣な、だが言葉の端々に愛情を感じさせる元部族長の論評に、ヨナは双眸を細め穏やかに微笑みを浮かべた。

あの悪夢の夜から数日、絶望の淵を彷徨う己を救ってくれたのは彼等の、春の微風のように暖かな優しさだった。

そう、眼前に拡がる街の光景は、その有り様は風の部族そのものだ。全てを受け入れ、流れ行くーーそれだけではない。風は彼方から種子を運び、豊穣の雨を呼び、草木に降り積もる埃や毒を払い、色鮮やかな恵を残し何処ともなく去り行くのだ。

神妙な面持ちで、ヨナは菫色の双眸を青く澄み渡った空へと向けた。探そう。父の果たせなかった思いに、理想に近付く為の何かを。

世間の評価がどうあろうと彼女にとり父王は誇りであり、父の思想や在り様は王女としての彼女の心の拠所だった。父の遺志を継ぐことーーそれは決して驕りなどではなく、彼女が生きる為の矜恃なのだ。
そして彼女は強く思う。信じよう、と。

ハクは、ムンドクは……風の部族は父上を信じてくれた。娘が父を信じなくてどうする。嘗て友に贈った言葉を今、己の心に据えよう。

「ハク、私もっと色々知りたいわ。この国の……ううん、国内外の皆が欲しがるもの。皆に出来ること。諸国に誇れる何かを、探したい」

真っ直ぐな眼差しで、此れこそが己の使命だとばかりに告げる少女の決意を投げて寄越された、最も彼女の傍に在り最も彼女を理解する幼馴染は全く困ったお姫様だと苦笑する。いやー相変わらず直球な御方っすね、などと揶揄交じりに少女に言っては五月蝿いと叩かれる青年を眺め、ユンはアホらし、と再度呟いた。

(相変わらずはあんただろ。ヨナに前を向かせるの、相変わらず上手いんだから……つかその才能、ヨナを振り向かせるのに使えばいいのにさ。ホント馬鹿だよね)

「はいはい、分かったから二人とも、買い物買い物!」

市場のど真ん中で戯れ合う稀有な二人をこれ以上傍観するのは何やら居た堪れなく、かといって捨て置くことも出来ず。冷静に考えればこの街はハクの領地だった訳であり、依って捨て置いても困ることはなかったのだろうが、兎に角ユンは行き交う皆の注目の的になる前にと号令を浴びせたのだった。






✴︎



街一つ捏造しました。ナンテコッタイ。

コレを書き始めたばっかの時に17巻が発売されたのですが……
作中でのヨナパパの評価の余りの低さに哀しくなり、蛇足と分かっていながらも色々うだうだと。お陰で長くなったので、半分で切りました。

よって、続きます。すみません。

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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

拍手コメ御礼

2月19日23時56分にコメントくださいました御方さま。

御礼遅くなり本当に申し訳ありません!そしてありがとうございました‼︎
このブログ始めたばかりで管理もままならず、コメント拝読しましたのが本日という体たらくで…大変失礼致しました!

ご感想並びにお褒めのお言葉、嬉しい限りです。しっくり、と仰っていただけるということは、原作に対する見方が近いということでしょうか。ああ嬉しい!嬉しいです!台詞については、サラッと殉死宣言させちゃいましたが…気に入ってくださって何よりです。

相変わらず妄想を垂れ流しながら一人寂しく引きこもっておりますので、どうかまたお立ち寄りの際にはお声かけてやってくださいまし。

最後に。非公開コメントでしたのでお名前伏せさせていただきました。


ではでは、失礼致します!

テーマ : 拍手お返事
ジャンル : 小説・文学

ハクヨナ前提ss『白雨』 16巻あたりの時間軸でスウォンとジュドがハクヨナを語る話。

暖かな雨が降る。




やわらかく優しく、只静かに頬を伝い大地へと落ちる雨粒を目で追い、それから彼は立ち尽くしたままその翡翠の双眸をそっと伏せた。

懐かしく愛おしい、想い出の中の少女の涙のようだと思い。







「スウォン様!」

背後からの聞き慣れた声に、ゆるりとした動作で振り返ると青年は声の主に対しやわらかな笑顔を向けた。
雨に濡れ重くなった淡い色彩の長髪を気怠げに払い、優雅でありながら無駄のない挙動で一歩踏み出す。

「ジュドさん。すみません、探させてしまいましたね」
「全くです!何時もの事ながら貴方はフラフラと!視察中に我々を撒かれるのはおやめください、本当に貴方は昔から……」
「いやジュドさん、捲くだなんてそんなつもりは」

昔から幾度となく聞いた、目の前の屈強な男が喚き散らす様を双眸を細めつつ眺め、彼には何時も怒られてばかりだなとスウォンは苦笑を洩らした。
本当に、撒くつもりはないのだ。だが、幼い頃から空都の城下を駆け回り何時の間にか染み付いた『撒き方』が、無意識のうちに行動に出てしまう。

(困りましたね……)

ふと意識を過去に跳ばせば簡単に姿を現す、黒髪の少年。唯一無二の親友だと、そう思っていた。
隣で笑う、切れ長な双眸の端正な顔立ちをした少年は、記憶の中で精悍さを増し、厳しい表情で眼前に立ち塞がるーーその背後には、嘗て妹のように慈しんだ紅い髪の少女。

脳裏に浮かぶ映像を振り払うように、彼は濡れた髪を掻き上げ肩を竦めてみせた。

「三つ子の魂、ですかね」
「……また、感傷に浸っておいでか」
「昔を懐かしんでいただけですよ」

にこにこと、柔和な眼差しのまま笑う年若い主を見据え、ジュドと呼ばれた男は眉を顰め、大仰な溜息を洩らす。

「難儀な事ですな」
「お互いにね」

即座に返され、ジュドは益々顔を顰めた。見透かされている。そう、自分こそが感傷に浸っているのだと。
情を捨て去るには長過ぎる時間を、彼は彼の主と主の親友、そしてその二人が護り慈しんだ少女を見守ってきた。
落命したと聞かされた。その彼等が秘かに生きていた。突然目の前に現れた紅い髪の少女を、斬り捨てる事など思い付きもしなかった。
主の進む道の障害となる可能性は、排除すべきであるというのに。


排除。あの、方をーー


「……外套位被って下さい。ずぶ濡れになりますよ」

逡巡する思考に終止符を打つべく、男は彼の主へと歩み寄り己の左手で握り締めていた、主を探し回った際に雨に濡れいささか湿ってしまっている大判の布を、同じくしっとりと濡れた主の頭部に被せ、乱暴とはいかないまでも丁寧とは言い難い手付きで主の淡い色彩の髪を拭っていく。過保護ですねぇ、と戯けて笑う美貌を凝視しながら。

「風邪でも召されたらどうします」
「大丈夫ですよ、これでも鍛えてますから」
「それとこれとは別問題です」

口煩く、過保護。幼い頃から兄のように接してくれていた、無愛想だが心根の優しい腹心の部下をぼんやりと眺め、彼はふと彼等もこんな風に優しい時を過ごしているのだろうかと、この空の下の何処かに生きている幼馴染の二人へと思いを馳せる。

(駄目ですね……あんな風に、出遭ってしまったからでしょうか)

信念の為、全てを捨て去る覚悟を決めた。そして彼等を切り捨てた。
捨てた筈なのに、想い出は尚色鮮やかに脳裏を過るのだ。

「何処かで雨宿り、しましょうか」

一旦瞑目し、深呼吸する。それからゆっくりと双眸を開き、スウォンはジュドの返答を待たず歩き出した。一歩遅れて、力強い足音が続く。

雨に覆われた街に、二人分の靴音が響き渡り、やがて消えていった。








音もなく降り注ぐ暖かな雨が街の喧噪を覆い尽くす。午後の街並は只、静寂に包まれていた。

石畳に厳かに響くのは、己と、隣を歩く男の靴音。
視界に映るのは雨に霞む雑踏と、先を急ぐ人々の後ろ姿。それから、足早に通り過ぎようとする若い女性の軽やかな足取り。

すれ違い様ふわりと漂うのは、懐かしい花の香り。

その清涼な芳香をスウォンは知っていた。特別貴重でも珍しいものでもない、王族の娘が纏うには些か廉価に過ぎる香を、しかし彼の従妹は普段から好んで焚き染めていた。清廉で凛とした香りは実に彼女に似合っていたと記憶している。この一年余、指南役か女官あたりにもっと姫らしく高貴な香をとでも嗜められたのか違う香を焚き染めていた事もあったが、その度に親友だった男があんたには何時もの香程度が似合いだと、からかうように従妹に告げては彼女の怒りを買っていたことを思い出し、知らず笑みが零れる。

似た背格好、同じ香。通り過ぎる女性は決して彼女ではないのだと痛いほど分かっているのに、つい視線で追ってしまう。


深く被った外套から覗く、波打つ長い髪は暁の空の色では、ない。


視界の隅から消えた女性に従妹の面影を求め振り返りたくもあり、またその行為の無意味さ故に振り返りたくないとも思う。
結局、スウォンは横を歩く腹心へと視線を向ける事でその場を遣り過ごす事にした。

見遣った先に映し出されたのは、苦々しく口許を引き締めた男の渋い表情。
彼も同じなのだ。同じように彼等の想い出を振り切れず、彼等の面影を、欠片でもと求めている。

何故だかそれが、スウォンには嬉しく思えてならなかった。








「雨、止みませんねぇ……夕刻迄に戻りたいですよね」

雨宿りにと立ち寄った、天候の所為か他に客も見当たらず、小綺麗で落ち着いた雰囲気の茶屋の窓辺から雨の街並を眺めつつ、スウォンは甘い香りの上質な紅茶を口へ運んだ。
沁みるような暖かさが、雨に濡れた身体をゆっくりと癒していく。翡翠色の瞳を閉じて、彼は大きく息を吐いた。

「美味しい紅茶ですねえ、暖まりました」
「それは何より。暖が必要な状態に陥らないで頂きたいものですが」
「ジュドさんは大丈夫ですか?怪我に響いてやしませんか?」
「そう思うなら、雨の中俺を撒くような真似は控えて貰いましょうか」

見事なまでの応酬に苦笑を洩らし、すみませんと一言置いてスウォンは先程の既視感を、彼等の面影を改めて思い返した。想い出の中の二人は、街を包み込む雨のように、この身を癒やす紅茶のように、暖かく優しい。

「……想い出というものは、中々厄介なものですね。捨て去ったつもりで居ても唐突に顔を出す」
「否定はしませんが、それを言い訳にはしないで頂きたい」
「……そうですね。ですが、果たして次は本当にーー斬れるのだろうかと、そう思うのです」

普段は……殊更即位後は決して見せる事のない、所在無い様子で言を紡ぐ主の姿に、ジュドは苦虫を噛み潰したような表情で眼前に置かれた茶碗を些か乱暴な仕草で取り上げ一気に喉に流し込むと、彼の迷いを断ち切るべく口を開いた。

「貴方がどれ程あの男に未練を残そうが、あの男には貴方のような迷いは見受けられませんでしたがね」

吐き捨てるように言いながら、数日前の彼等との遭遇を思い返す。あの男は相変わらず強く、正直な処太刀打ち出来なかった。
今も尚身震いを覚える、男の全身から溢れ出た戦慄を覚える威圧感と激しい憎悪。殺意のみで構成された、捨て身とも取れる一連の攻撃に理知はなく。しかしその様は獣じみているにも拘らず、圧倒的だった。

「あの男は本気で貴方を殺しに掛かっていた。躊躇など微塵も感じられなかったーーもう、遅いのです。あの男を惜しむなら、貴方は始めからあの男を引き入れるべきだった」
「……それは、無理でしょう。彼の行動原理は全てヨナにあります。例え私がどのような信念を語ろうと、彼はヨナを裏切りはしない」

淡々と、だが寂し気に言葉を紡ぎ出すスウォンに向かい、ジュドは改めて問うた。何処か引っ掛かりを覚えていた、主への疑問を。

「貴方は、王位を盤石なものとする為にヨナ姫を后に据える事を良しとしなかった。あの現場を目撃された以上、実現はされなかったでしょうがーー貴方は始めから、あの二人を切り捨てるおつもりでいた。何故、なのです?奴の能力地位身分、どれを取っても貴方の強力な武器になったでしょうに。奴を取り込む為ヨナ姫を、とはお考えにならなかったのですか?」

それとも、父君を弑した先王の娘を妻に迎えるなど到底出来ないとのお考えか?
重ねられた問いに、スウォンは苦笑しゆるりとした動作でかぶりを振った。

「父の件は、大義名分に過ぎません。実際私が現場を目撃した訳ではない。確かに父の件が真実なら先王を赦す事は出来ない。ですが、妹とも思っていた彼女を憎む事はーー」
「真実ーー?」

驚愕に男の双眸が見開かれる。真実ならとはどういう事だ。先王の件が真実ではない可能性も否定出来ないと言う事か?つまりはーー

「ああ、勿論もたらされた情報と証拠はある程度信頼に値するものでした」

強張ったジュドの表情を一瞥し、スウォンは即座に彼の疑問を払拭しに掛かった。未だ霞む真実の欠片は用いずに。

「ですがジュドさん、ご存知の通り情報や証拠は容易くでっち上げられます。ですから私はそれを完全に信じる事はなかった。捨て置いても良かったのです。即位を待つ事も出来ました。先王……叔父が、理想を只体現するだけの統治を行わなければーー」
「ならば尚更、何故貴方は……!」

思わず立ち上がり、椅子を蹴倒しそうな勢いで声を荒立てるジュドに対しまあまあ落ち着いてと宥め、スウォンは困ったように肩を竦め、微笑う。

「ヨナと婚姻を結び王位に就けと、ハクには何度か言われましたよ」
「……奴なら、そう言うでしょうね」
「そうですね。ですがーー」

一旦言葉を切り、スウォンは翡翠の双眸を彷徨わせながら逡巡する。そして観念したように深く溜息を洩らし、次の言葉を待っているだろう腹心へと向き直った。

「甘いのだと、叱られるかも知れません。ですが私には、大切な幼馴染であり妹のように慈しんできたヨナを……それも、幼い頃からの憧れであり目標でもあった親友が、宝物のように護り命を賭して愛し抜く華を……王位の為に手折る事など到底出来ません。例え彼がそれを望んでいたとしても」

哀し気な、それでいて満ち足りた表情を浮かべ語る主の、初めて聞かされた心の内は別段驚くような内容ではなく、そしてそれはジュドが長年見守り続けてきた心優しい少年そのものの言葉だった。だが。

「ーーそれを、あの男が喜んで聞き入れるとお思いか?」
「まさか……ですから私は、それこそ大義名分を以って彼女の身分を剥奪し放逐する事が最善策だろうと考えました。例え彼女が王女でなくとも、ハクは彼女を見捨てないでしょう」
「あれが黙って従うとも思えないが……」
「納得出来ずとも、彼女の命を取引の材料に使えば良い」

結局、机上の空論で終わりましたが。
呑気に笑いスウォンは窓の外の風景へと視線を移す。雨は、相変わらず音もなく街を濡らし続けていた。

「切り捨てる覚悟を決めながらも、私は彼等に生きて欲しかった。何処か遠く離れた場所で、只の男と女として生き続けてくれたらとーー」
「冗談ではない!」

甘いどころではない主の言い様に、ジュドは今度こそ椅子を蹴倒しそうな勢いで腰を上げ、苛立ちも露わに両手を机に叩き付けた。

「只の男と女、だと⁉︎あの男にそのような真似が出来る筈はない!十年もの間己の心を殺し、如何なる時も姫を姫としてしか扱わぬあの男に!」

一気に捲し立て、彼はぎり、と唇を咬み締めた。不機嫌な面持ちを隠そうともせずに、ゆるりと座したままの主の姿を見下ろせば、主は何やら腑に落ちないといった表情で、そうでしょうかね?などと呟いている。その様子に途方もない脱力感を覚え、男は鍛え上げられた両肩をがっくりと落とした。
あの男が……否、我々が彼女を、決して手に入れる事の叶わない至高の存在であると当然の如く腹に叩き込んでいると、同じく至高の存在である主には解らないのだ。

(大体あれは俺と同じ、曲がりなりにも将だぞ。将たる者が己が主君を、例え手出し可能な状況に陥ろうと、はいそうですかと取って喰うものか!)

まるで己自身が侮辱されたかの様な不快感と怒りを覚え、彼は咄嗟にそれを宥めようと瞑目し呼吸を整えた。主に対し抱くにはこの感情は不穏に過ぎる。

(お前はきっと、最期の瞬間まで主を奉じ闘うのだろう。この俺と同じように)

暗転した視界に、弟にも思えてならなかった黒髪の少年の姿が浮かび上がる。端正だが幾分野性味のある溌溂とした笑顔が印象的な子供。細身ながら身体能力に優れ、意外にも頭脳明晰なその子供は、生まれ持った素質と風の部族長の養子という立場故に将としての将来を期待され、また本人がそれを理解していた為か、持て余していた己の心を結局は捨てられぬまま腹の底に沈め。
時にその様は見ていて辛くもあったが、明晰な頭脳故か性格故か、王女の従者として登城する頃には見事なまでに己の心を隠す術を会得していた。

(将とはかくあるべきと、あの時俺はお前に教えられた)

「あれがあれなりに、時間を費やし見付け出した落とし処を、今更容易くは捨てられんでしょう」
「……そう、ですか」

今ひとつ納得出来ないといった様子のスウォンを見遣り、ジュドは本日幾度目かの溜息を洩らした。
あの男の……我等将の心など国王である主には理解出来まいし理解する必要もなかろう。ならばこの問答は無為という事になる。そうだ、今はそれよりもーー

「スウォン様、今のお言葉……聞かなかった事に致します故、貴方もどうかお忘れ下さい」
「……忘れる、とは」
「言葉通りです。そもそも我々は彼等が既に落命したものとして処理している。だからこそ俺は、あの男が今後我々の前に立ち塞がった時にのみ奴を斃せばいい。だが、彼等が何処かで生きていると認めた瞬間から、俺は奴を草の根を掻き分けてでも捜し出し斬らねばならなくなる」

貴方が彼等に、生きて欲しいと望むのならばーー

静かに、だがはっきりと告げられたジュドの言葉は彼もまた自分と同じように、心の底では彼等の生存を願っているのだと雄弁に語っていた。
相変わらず仏頂面の腹心に向かい、スウォンはやわらかな、思わず見惚れてしまうような極上の笑顔を浮かべる。

「ありがとう……ジュドさん」
「一応、忠告しておきます」

懐かしい笑顔だと、嘗ての日々を思い出しながらも、口を開く。

俺とて生きて欲しいと望んでいる。
赤子の頃から側に仕えた、紅い髪の至高の少女にこの世界の何処かで。俺の手の、届かぬ場所で。

「仮に彼等が貴方の望み通りに生き続けたとして、何時の日かーー雷獣の血を継ぐあの方の御子が、貴方を玉座から引き摺り下ろしに来るかも知れない。貴方の望みは、そういう事です」

貴方の、彼等への想いは貴方の全てを奪い去る事も有るのだと。
何かを堪えているような、抑えた声音で綴られる男の言葉を心の内で辿りながら、スウォンは僅かに双眸を細めふ、と笑みを洩らした。

「ーーそれはまた随分と、気の長い話ですね……」

先の楽しみが出来ました、とばかりの、妙に嬉しそうな主の口調に眉を顰め、何か諫言をと考えるも、ジュドが口を開く前にやはり楽しげな声が彼の耳朶を打つ。

「十五年、二十年後に未だ私が王位に就いていて、その時既に為すべき事を全て為していたならーーそして、その子に資質と、高華国の為の揺るぎない信念が有るならば、私は彼等の子に喜んで王位を譲りましょう」

独り言のように、そして何気ない夢を語るように。
きっと強い子がやって来ますよと笑い、スウォンは白く霞む窓の外の風景へと視線を向けた。雲の切間から射し込む光が酷く眩しい。何時か彼と見上げた空の色に似ている。

ああ早く城に帰らないと。紅い髪のあの子が、待っているーー

「ジュドさん……そろそろ、戻りましょうか」

ああ、また。
想い出と現実が混濁する。本当に困ったものだと苦笑しつつ、スウォンは昔と変わらぬ優雅な動作で席を立った。


何時の間にか、雨は上がっていた。









濡れた石畳を、其処彼処に点在する水溜を避けつつ歩く。

『ジュド!』

ざわめく雑踏の何処からか、懐かしい声が己を呼んだ気がして咄嗟に振り返るが、その先には誰も居ない。

(ーー姫様?)

徐に立ち止まり意識を周囲に拡散させる。だが、彼の注意の及ぶ範囲には嘗て彼が側に仕えた少女の面影の一欠片さえ存在していなかった。

(呼ばれたのか?ーー何か、あったのだろうか。いや、杞憂か。姫様にはあの男が側に控えて……しかし)

「ジュドさん?どうかしましたか?」
「ーーいや、何でもありません」

歩みを止めた腹心に気付き、彼の主が振り返る。訝しむというより寧ろ気遣うような主の言葉に、彼の思考は霧散した。

(何を考えている。あの方はもう、俺の主ではないのだ)

何処にでもいる少女のような、屈託のない笑顔で俺を呼ぶあの方は、けれど王統を繋ぐ唯一無二の至上の存在で。
彼女に触れる事が出来るのは国王となる者のみであり、決してこの類稀な大輪の華を他の誰にも触れさせてはならないと、其れこそが己の役割だと、そう思っていた、のに。

(ーー生き存えて欲しい。だが……もう二度と、会いたくはないものだな)

「失礼しました。さあ、帰りましょう」

主に対し軽く会釈し、ジュドは進むべき方向を見据え今度は足早に歩を進めた。

(そうだーー姫様は、あの夜亡くなられたのだ)

二人分の靴音が小気味良く石畳を鳴らす。

(世継を産むべき王女は、もう居ないのだ)

もう会いたくない。会ったとてあの方は、あの紅い髪の少女は王女ではない。この先、彼女が子を携え再び姿を現そうと……子があの男の血を継いで居ようが居まいが、その子供は只の子供なのだ。

そうでなければならない。そうでなければーー俺は。

祈りであり呪詛でもあるような、相反するようでいて只一つを願う感情。
雨上がりの空を見上げれば、何時かあの方と共に眺めた空の色と同じ。








雨上がりの街を一陣の風が吹き抜ける。
水の匂いを孕んだ空気は、年若い王とその腹心の頬を撫ぜ、彼方へと。

帰路を急ぐ主従の記憶に今尚鮮やかに蘇る紅の姫が纏う芳香は、雨に掻き消されたのか風に散らされたのか、その欠片すら残されていなかった。









『白雨』
其れは優しく、貴女と過ごした記憶のように。











確かなものは闇の中、って事で相変わらず情報が少なく評価が難しいスウォンですが、今回最大限好意的な解釈を。
本当の所はどうなのか。もっと腹の中ドロドロしてる方が好みなのですが、人間らしく生きるヨナと対比させてる感があるので機械的に粛々と、な方向性でしょうか。

ジュドがハクに夢見てる感じになった…あと仲間意識と同情と少しの尊敬の念と、同族嫌悪的な。
実はジュドヨナめっちゃツボなんですが!ってか、将来の国母と思い敬愛と憧憬と忠誠の対象だった主君が立場的に自分と同等以下の後輩に降嫁したら心情的にどうよ…って話。

あとスウォンはともかく、周囲の大人にはハクの気持ちはだだ漏れだったと思う。


前述したナンバーをイメージに、ポエムちっくにする筈が無駄に長くなりました。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

未来予想図。

今日は開幕戦だっつーにこの天気は何。この気温は何…拷問⁉︎修行⁉︎


ヨナ語りをしよう。
今本誌でゼノ編やってるからか、ゼノ大人気の模様ですね。彼に関しては大体予想通りでした。物哀しいですね。CCAでのララァの言葉を思い出します。拷問よ、ってやつ。まああの台詞はZZ全否定みたいな処があって何か…なんですが。

私の好きキャラ上位3人は、ハクヨナ(順不同)、ユン。4位以降はその時によって入れ替わりますが、概ね四龍が上位を占めててそこに次男坊や空と地の将軍、スウォンが割り込む感じ。多分割と普通なランキングになりますね。

今日は、この作品の読者さんの大部分は考えるんじゃないかな〜と思う“未来予想図”を好きキャラ上位3人についてグダグダと書きます。3パターン程ある予想の、今回は本命を(笑)


・ヨナ姫 『第12代高華国国王』
まあ、鉄板ですよね。大体の人が一度は予想してるのではないでしょうか?とはいえ、鉄板ではありますが結構茨の道だと私は思います。反対が凄そうですもん。
高華国の王位継承システムに退位という制度があるのかは分かりませんが、ヨナ姫の夫は国王になるとの設定から少なくとも在位中は誰かと婚姻を結ぶことは出来ない。これは彼女にとってどうなんだろ。キツイかな?そうでもないかな。
また、上記の設定から女王が即位した例は少なくともこの250年ではなさそう。故に大公のような身分も設定されてなさそう。新たに設置することも可能でしょうが、「それ、めんどくさ(ユン君談)」といった理由で新設もなさそう。
女王の場合、大奥のような後継生産システムを採用出来ないのが痛い処。だから一代限りだったり、子が居る后の夫王が早世した場合の所謂ツナギとしての即位が目立つ。なので夫を持たないヨナ姫の場合、血筋や緋龍王伝説を最大限活用すると共に後継を産んだ状態での即位が1番周囲を納得させられそう。
女王反対論者は必ず後継問題を持ち出すだろうから、先手を打って実績を作るってワケです。何かめちゃめちゃ嫌な話ですけどね…

・ハク 『高華の雷獣及び女王陛下の専属護衛』
この人は何も変わらないかと。相変わらず姫バカで、女王の犬だの愛人だのと誹謗されても何処吹く風で。ヨナ姫が王位に就いている限り彼女の夫にはならない。それはあくまでもシステム上の問題で、身分差故にではないと思います。だって幼馴染だし、ってか身分的に第一順位がスウォンのような王族、第二順位がジュドのような空の部族。第三順位が他将軍家、でしょ。流石にスウォンと比べれば霞みますが、充分高い身分をお持ちです。
ジュドの進退によっちゃ空の部族の将軍就任はあり得るかも。後継に絡む大人の事情で。同じく大人の事情で、また作品全体に若い力、次世代のなどのキーワードが散見されることもあり風の部族長への再任はなさそう。まあ高華国で稀少な(もしかしたら唯一の)異名持ちなので身分がなくとも充分地位を確立出来そう。
でもまあ、女王の犬だろうと愛人だろうと第13代高華国国王の父親にはなれるのではないでしょうか。

・ユン 『高華国宰相』
若しくは宰相に相当する地位を確立。要はヨナ姫の政権下におけるブレイン。
天才ですからね!天才な上に努力家。彼は大出世しますよね絶対。とりあえず現代日本における大蔵省、厚生労働省、文部科学省、農林水産省あたりのトップを兼任出来そう。
民衆の支持も得られそうですし、確実に国政におけるNo.2になることでしょう。
ただ、ユン君の場合貴族嫌いだったりとかイクスはじめ神官絡みの問題とかがあるので、果たして宮廷で上手く立ち回れるのか。彼は天才だけど人格者ではないからなぁ。その辺は今後の成長に期待!でしょうか。


予想の本命としてはこんな感じ?
スウォンの事を考えると切ないですが…
理由はどうあれ、目の前で父親を殺されちゃ流石に和解は難しそうですもんね。


以上です。
そのうち、未来予想図の対抗でも。

テーマ : つぶやき
ジャンル : 小説・文学

ずっと好きなもの。

ここ数年、仕事や私生活がいっぱいいっぱいで、J1J2追っかけるのが限界でした。

もう何年もLIVE-GYM参戦出来てない。
当時は頑張ってSHOWCASEのチケット取ったりしたんだけどな。
ソロの方で、AKATSUKIというナンバーがありまして。まあタイトルの通り、ヨナ姫の為の楽曲のようです。CPに2曲収録されてるんですが、2曲目スウォン、3曲目ハクで通りそうな。
私キャラソンとか全く聴かないんですが、こうして作品世界やキャラのイメージに合うナンバーを探して妄想するのが趣味なのです。キモいですねすみません。
ヨナにハマって、B'z聴いて妄想してたら何か凄い再燃(笑)ってかソロが熱いよ!

御大信者ゆえ、最近ユニコーン観たら色々モヤッとしまして。何だか凄くZZ観たくなりました。DVD引っ張り出して観るかな〜
あと劇場版Zが観たい。
ユニコーン、MS戦とか凄いですね。動く動く!金掛かってますね〜眼福眼福(笑)
ファーストからCCAまでのキャラが出演しまくりな事に食中り気味だったり。
プルの扱いに凹んだり。てか、イボルブで泣く程嬉しかったのに突き落とされた。
大佐の評価が随分違って違和感だったり。
メインの3人は皆好感持てましたけどね。
御大っぽい台詞廻しもなぁ…

そんなんで、完全にガンダム脳と化しております。やばいです。

しかもいよいよJリーグ開幕なのでテンション上がりまくり。何かもう思考や思想や妄想が色々飛んでます。

大体こうなるとちょっとした萌えだのブームだのは吹っ飛ぶんですが、今回は全然大丈夫みたい。相変わらずヨナ愛です。
なので、完全ヒキコウモリから、ちょっとだけ外に出ます。ちょっとだけ(笑)






テーマ : ヲタク人日記
ジャンル : アニメ・コミック

ハクヨナss『玉響』 原作一年後位。ピロートーク的な。

力を失い崩れ落ちる華奢な肢体を両腕で抱き止め、そのまま己の懐へと納めた。

肌を通し直接伝わるやわらかなぬくもりに、ふと詮無き事を考えて苦笑する。彼女の定位置がこの場所であればいいなどと、一瞬でも希んだ自分は何と欲深くなったものだろう。
足るを知る。この言葉を肝に銘じろと己に言い聞かせ、ああこの作業を俺は一体何度繰り返してきたのかとまた苦笑が洩れた。

乱れた呼吸を落ち着かせながら、寝台奥の格子戸から覗く夜闇へと視線を向けた。
心地良い夜だ。暑くも寒くもない。吹き荒れる風もなく、それでいて空気が淀んでいる訳でもない。穏やかな、と表現するのが妥当だろうか。

腕の中に納めたぬくもりが微かに身動ぎするのを感じ、外へと向けた視線を戻す。暗闇に覆われた視界に鮮烈に飛び込んでくるのは、見慣れた紅。
しっとりと上気した素肌には、幾ら穏やかといえど夜の空気は悪かろう。彼女を起こさぬよう最小限の動作で上掛けを引き寄せ白い背中に被せると、再び格子戸の外へ意識を向けた。

こんな夜は、あの方を思い出す。
穏やかに只佇み、黎明の刻を待つ。まるであの方の如き夜だ。

(陛下、貴方はどんな夜明けを待っておられた?)

武器を厭い戦を禁じたあの方は、臆病者との誹りを笑顔で躱しながら。

(だが貴方は、俺を懐へと引き入れた。貴方の望む夜明けは、果たして貴方の娘が切り拓くこの未来だったのだろうか?)

きっと陛下は予想しておられたのだろう。甥の裏切りも、結果愛娘が辛酸を舐めるであろう事も。
その際には娘が絶望から這い上がる為の力で在れと、陛下は俺に求めたのだろう。

(貴方は『雷獣』の使い途を良く存じていらっしゃった)

高華の『雷獣』を有事の際には最前線となるだろう国境地帯に配置せず、空の部族が治安維持する比較的安定した中央に留める事。
風の部族の後継者を、将来国母となる王女の専属護衛とした事。結果、俺が王城を自由に闊歩していた事。
更には、歳の近い王女との関係やその憶測から発展する風の部族と他部族との力関係の変化への懸念。

その他諸々、陛下が下した俺の処遇への反発や意見はかなりのものだった。各方面からの苦情への応酬として、求められたのは純然たる結果。

(お陰様で、俺はかなり面倒だったけどな)

『雷獣』を中央に配置し、更には王の近衛兵や王城の直属部隊を指揮させる事で、部隊や兵の士気は上がり戦力増強に繋がった。また、『雷獣』の存在は所謂抑止力として賊や敵対者の侵入を躊躇させ、空都の治安は一層向上した。
また、高華一の武人を贅沢にも専属護衛とする事で、ヨナ姫の『将来の国母』としての地位は安定し、五部族会議で度々議題に上がる次期王の推挙に風の部族が一貫してスウォンを推した事で、個人的な関係性はともかくとして部族としての王権奪取の意図は否定された。

(ってか、あいつらホント腐り切ってたもんな)

五部族の総意として、次期王へはスウォンを推挙する方向で概ね決定していた。それぞれが各々の身内を推してくるかと思いきや、この件に関しては案外あっけなく纏まった。まあ確かに后ではなく王の推挙だ。将軍家といえどそう簡単に立候補出来るものではない。五部族の力関係の維持の為にも次期王には空の部族の者を立て、即位後は各部族から側室だか妾だかを競って送り込む算段という訳だった。
それを阿呆らしいと一蹴した俺に、下賤な笑みを向けてくれやがった野郎はどいつだったか。

『流石幼馴染にして専属護衛、雷獣殿は己の部族の繁栄よりも姫君をお選びになるか。まあそう気に病まずとも次期王と婚姻を結び、後継を産めば姫君も用済み。その後は雷獣殿がお寂しい哀れな后の夜伽でもして差し上げれば良かろう』

只の言葉の羅列に対し怒りで身体が震え、視界が正に朱く染まる経験など、真っ当な暮らしの中ではなかなか出来るものではない。宮中における奸計だの謀略だの派閥争いだのといった面倒事は或る程度予想していたし実際目に耳に触れもした。自分を敵視する者が少なからず存在する事も理解していた。だが、自分はともかくとして王の娘、それも次々代の王の母となる筈の娘に対しこうも侮辱的且つ下賤な発言を堂々とするものかという或る意味感嘆にも似た驚きが、湧き上がる怒りの中で冷静さを取り戻させていた。
幾ら次期部族長とはいえ、十八歳にも満たない子供に向ける言葉としては余りにもな内容に、王女に対する不敬罪とでも称して斬り刻んでやりたかったが、怒りに任せて太刀を振るうに価せずという相手への軽蔑に帰依する冷静な判断と共に、そうもいかない複雑な大人の事情というのもまた、背負うものの多い我が身には重過ぎる枷となり結局は侮蔑の眼差しを向けるに止めざるを得なかった。

(あいつも大変だろうにな。まあ頑張ってるみたいだが)

ふと、姫さんを連れ風牙の都を出奔する際に部族長の任を押し付けた弟分の顔を思い出す。俺より更に面倒事が嫌いな、だが飄々とした強かな奴だった。あいつの場合、護るべきものが風の部族内に集中している分色々割り切り易いだろうが。

(罷り間違って、空都に大事なモンでも抱え込まない限り、な)

思わず自嘲めいた笑みが浮かぶ。大仰に溜息を洩らし己の抱え込んだ“大事なモン”へと視線を落とせば、まるで呼応するかのように薄闇に融けた紅がふわりと揺れた。

嘗て程ではないにしろ、嘗てを彷彿させる程度には伸びた彼女の紅の髪は、だが嘗てとは異なり毛先に傷みが目立つ。戯れに指先で彼女の肩を隠す髪を払えば、白く浮かび上がるか細い背中に一筋の薄紅が歪な弧を描いていた。

「あんた、酷い女になったよな」

僅かに硬さの残る薄紅を指先で辿りながら声に出して呟いてみる。それから一旦間を開け、ああ、昔からかと独りごちた。

昔からこのひとは酷い女だった。
無邪気な笑顔と天真爛漫な振舞いで俺を捕えておいて、それを悟られまいと腹の底に仕舞い込んだ俺に対し残酷にも隠した心を引き摺り出せと言わんばかりの凶悪な笑顔を向けて。
身も心も全て優しい従兄のものなのだと、決してお前にはやらないと暗に宣言しながらも、お前は常に傍にと俺を求めたあんたと。

心を、身体を重ねても、決して全てを委ねてはくれずに。
背中の痕も、腕や手指に刻まれた細かい創傷も、恥じるどころかまるで勲章の如く誇らしげに、これは総て軌跡なのだと語る。
護れなかったのだと、俺の責任だと、高華一と謳われた『雷獣』としての自惚れすら赦さずにそれでも。
それでも傍にと。否、傍に侍るのではなく隣に在れと俺を希むあんたと。

形は違えど、あんたは昔も今も酷い女だ。
そんな女に囚われ溺れ切っている俺は何なのかとか、思わないでもねえけどな。

(陛下、貴方はご存知だったのでしょうね。俺の気持ちなど、全て)

俺の、裏表の無い処が気に入っていると仰った貴方は。
スウォンの為、姫さんの為ーー高華国の為に更なる力と知識を得ようとしていた事。それから、仕舞い込み蓋をした俺の心。
恐らく全てを承知の上で、俺を娘の傍らにと。

「父娘揃って、ホント酷ぇわ」

溜息交じりにぽつりと呟き、小さく笑いながら瞑目する。姫さんの専属護衛として俺が登城してからもう四年以上経つのか。いとも容易く脳裏に浮かぶ件の父娘の嘗ての煌びやかな姿。共に王城で過ごした日々。この記憶はきっとこれから先も色褪せる事はないのだろう。

(色々と面倒でしたが、確かに有意義な日々でしたよ。あの日々のお陰で姫さんも俺も、今も生きてる)

城内で、俺は概ね全ての施設への出入りが自由だった。勿論、国家の機密に関わる書簡等が安置された格納庫や宝物庫等、許可が必要な施設もあったが、あからさまに立入を禁じられた事はない。王族でもないのにこの破格な待遇は権力に近い者達に波風を立たせ、結果向けられた矛先への諸々の対応が面倒ではあったが、反面本来ならば閲覧不可能だったろう王家の書蔵庫の貴重な書物が読み放題というのは有難い事この上なかった。古から伝わる蔵書は勿論、書物好きな陛下が収集した国内外の学問書は魅力的で、役得と言わんばかりに読み漁った。兵法、政治経済基礎医学を中心になるべく実践的な書物を優先したためか、結果あの時叩き込んだ知識や雑学が窮地を撥ね除ける力となった。

(そうやって貴方は俺に知識を与え、娘が生き抜く糧とした。それどころか)

書物や学問を好んだ国王の一人娘であるところのヨナ姫は何故か、琴や舞、香道といった教養と、貴族の子女が受ける一般的な学問以外、特別な教育を受けていなかった。よって、所謂王族の女性が身に付ける伝統的な思想やら古から伝わる帝王学的な思考であるとかは彼女の辞書に一切存在しない。
また、姫さんには友人と呼べる同年代の貴族の娘も腹心の侍女も居なかった。勿論、王女付きの女官は何人も存在したが、皆彼女と一定の距離を保ち、呼ばれなければ私室に控える事もない。それでいて俺は昼夜問わず姫さんの私室に出入り自由だ。一国の王女がそれでいいのかと甚だ疑問だったが、陛下を筆頭に誰も何も言わない。そもそもあんたは何も思わないのかと姫さんに尋ねれば『ハクが居るから大丈夫よ』とのご返答。ホント信用されてんなー俺。ってか何やら虚しさを感じるがそれも覚悟の上。折角なんで、というか四六時中傍に居る為半ば必然的に、俺は己が得たモノを姫さんに伝えていく事にした。
この無知な王女に為政者としての心得だけでも。それが将来高華国を統べる二人の為になるだろうと。
知識欲は人並だが好奇心旺盛で負けず嫌い。素直だが勝気な我儘娘。把握し尽くした彼女の基本的性質と幼馴染の気安さを最大限活用し、俺は姫さんと言葉遊びを始めた。別に知識そのものを与えたかった訳ではない。そんなものは俺が担えばいいのだ。
伝えたいのは国を統べる者の理想と理念。だから日常会話の中で、夜伽噺を通して、或いは雑言の応酬の合間に。

好意的に解釈すれば余計な書き込みが為されていない彼女の頭脳は、俺の言葉を面白い位に吸収していった。正に打てば響く。凝り固まった既成概念もなく、偏った思想が植え付けられてもいない。だからこそ容易く情報が蓄積されていく。
これは姫さんの為なのだ、用済みの哀れな后と誰にも言わせぬ為なのだと自分自身に言い聞かせながらも、彼女を己の思想に染め上げている事実は快感に他ならない。
そしてこれで満足だと、素直にそう思った。

足るを知る。この言葉が胸に上手く納まったのはこの時期だったか。

(あんたの思想は俺が創った、なんて自己満足に浸ってたら何時の間にかあんたは俺を追越して行っちまったけどな)

姫さんの緊急避難措置としてはこれが陛下の最善策だったのかも知れない。だが、他に方法はなかったのだろうか。
俺はどうすべきだったのだろう。陛下は何故あいつを認めなかったのか。何故、あいつは待てなかった。何故。

何故、あいつはーー

結局、俺の思考は此処に行き着くのだ。途端に去来する後悔の念。全身を這い回るざらつく不快感。


駄目だ、呑まれる。



「……ん……」

途端、間近から響く聴き慣れた、だがやけに甘ったるい声音。ああ、このひとはこうしてまた俺を呼び戻す。
半身を起こし、至近距離から見上げてくる幼子の如きあどけない表情に泣きたくなるような、堪らない愛おしさを感じふわりと華奢な身体を抱き締めた。

「ハク……どうしたの?」
「……いや、何でもねえ、です」
「ハク」

囁くように俺の名を呼ぶ声音が、有無を言わせぬ響きを宿すのを感じ俺は内心舌を打った。このひとは普段鈍い癖に妙な処で鋭い。

「本当に、何でも……。処で姫さんは大丈夫ですか?無理、させちまいましたね、すみません」
「……っ!っ別に大丈夫よっ!」

予想外の切り返しだったのだろう。不意に自分の置かれた状況を把握したらしい彼女は俺の腕の中で身を縮め慌てふためいた様子で喚く。

「そうよ!無理なんて……って、誤魔化さないで答えなさい!」
「ほー……大丈夫なんすか。じゃ、続き、いいですか」
「ちょっ……ハク!」

姫さんの問いを敢えて流し、背中に廻した掌で白い素肌にそっと触れ指先を這わせる。それを通して伝わる温度と華奢な肢体がぴくりと跳ねる感覚それから肩先に感じる、声を押し殺しながらも洩らされる彼女の吐息は、確かに俺の中で燻る微熱を身体の隅々まで伝播させた。

女は繊細な楽器であるなどと先人達は上手い事言ったもんだが、只々俺は今、このひとの奏でる音を聴きたいと願う。
麻薬のような甘露のようなあんたの啼き声をどうか俺に。あんた以外の一切合切どうでもいいと、そう思える程に。

背に廻した指先を腰へと這わせ、細い身体の線を辿りながら彼女の熱を呼び覚ましていく。決して声を出すまいと唇を咬み抵抗する様はそれはそれで風情があり、嗜虐心にも似た昏い欲を湧き上がらせる。
だが俺が今欲しいのは、そういったものじゃない。

白い素肌を這わせていた指先を彼女の身体の奥深く沈めると、堪え切れなくなったのか甲高い小さな叫びがひとつ。

「い……や、っ!」
「嫌、じゃねえだろうが……」

耳元で囁きを、挑むように告げる。だがこれは懇願だ。あの例えようもないざらつく不快感から救って欲しいと、只俺の名を呼んで欲しいと願うだけの。

けれどやはりこのひとは。

「ハク!お前は……っ!」

叫び様、精一杯の力で身を捩り顔を上げ俺を睨み付ける姫さんの瞳には糾弾の光が有り有りと浮かんでいた。

「お前は……っ、そんな辛そうな顔をして私を抱くというの?そんなの赦さない!何がお前にそんな顔をさせているの?答えて!」

総ての存在を射抜くような、燃やし尽くすような眼差しで問い詰めてくるこのひとは、決して流されてなどくれずに。

「ーー姫さん……」
「答えなさい……ハク!答えないなら今すぐ退きなさい!」

灯りのない部屋の中で宵闇より尚深い紫紺の光を湛えた双眸が、揺るぎない意志を宿し俺に向かう。まるで燃え盛る焰のようだと、真っ向から対峙しているにも拘らず一瞬、馬鹿みてぇに見蕩れた。此処が戦場なら確実に死んでるわ、俺。

素直で勝気で我儘で、頑固。ああそうだった。このひとはこういう場面で、少なくとも俺に対しては決して引かない。
あの夜から歳を重ね、経験を積み世界を見渡し、随分変わったかと思いきや本質は何も変わらずに。

(ホント、勝てねえわ)

彼女の素質がそうさせるのか、長い時間を掛けて培ってきた主と従者という関係性の所為か、所謂惚れた弱味というやつかーー恐らくその全てであろうと結論付けて、俺は彼女から少しだけ身を離し息をついた。

そして気付く。全身を這い廻り不快感を撒き散らしていた毒が、綺麗さっぱり消えている。

「ーーーはっ!」

阿呆らしくて、思わず口元が綻んだ。

あんたの、俺を求める声が欲しかった。何よりも俺をこの世界に繋ぎ止める、甘い叫びを聴きたかった。それだけが、沼地に引き摺り込まれるような感覚から俺を掬い上げてくれるのだと。

なのに、これだ。実際は何でも良かったのだ。あんたの言葉なら、何だって。

「ハク……?」

唐突に変化した俺の態度に戸惑っているのか、不信感丸出しといった表情で俺を見上げる姫さんの瞳からは先程までの苛烈な光が消え失せ、代わりに所在無さそうな、不安げな色が宿っていた。
この表情を作らせたのは間違い無く俺で、今の流れは姫さんにとっちゃ晴天の霹靂だろう。
第一、客観的に見てこれはどうだ。誰よりも愛しく何よりも大切だと、世界の中心に定めている女を。しかも今迄自分が抱いていた女を勝手に崩した己の精神の安寧の為に利用しようとした挙句不安に陥れた、などと。

途端、途方も無い後悔と自責の念が襲ってくる。本当に何を、やってんだよ俺は!

「大丈夫、なのね?ハク」
「……はい」
「ーー答えたく、ない?」


不信と不安が綯い交ぜになったような眼差しで、重ねて問い掛けてくる姫さんの波打つ紅い髪を、俺はゆっくりとかぶりを振りながら指先で梳いていく。それから掌で彼女の頭をポンポンと軽く叩いた。
姫さんは今度は何も言わずされるがままだ。何時もなら子供扱いしないでと怒るのに。
すみません、と一言置いて俺は格子戸の外へと視線を泳がせた。相変わらず穏やかな夜の世界が其処に拡がっている。

「昔の事を、思い出していました」
「……うん」
「ーー陛下の事を」
「そう……」

淡々と言葉を紡ぐ俺に、彼女もまた、淡々と。

「……陛下には、沢山の経験をさせて頂きました。王族にも劣らぬ待遇を頂きましたし、一部族長では到底入手不可能な貴重な書物で、気の済むまで勉強させても頂きました」
「書物、きっとユンが羨ましがるわね」

ふわりと笑う姫さんにつられるように、ふと笑みが溢れた。こうして共に笑い合う事が自然でごく当たり前だった頃の映像が一瞬脳裏を過る。

「ーー陛下には、本当に感謝しています」

あんたが今無事に生きているのも、こうして俺の隣に居てくれるのも全て、城で手に入れた知識と経験が無ければ叶わなかっただろう。

「……父上は、ハクの事が大好きだったのよ」

懐かしい父の姿を思い出しているのだろう、少し寂し気な微笑みを浮かべながら姫さんは俺に告げた。

「父上には私しか居なかったから……ハクの事、息子のように思っていたのかも知れないわね」

淡々と、何でもない事のように。

(ーー息子、ね……)

「……時々、考えるんです。こんな事になるならあん時、立候補すりゃ良かったんじゃないかってね」

初めて声に出した後悔。城に居た頃も、城を追われてからも思い付く事すらなかったが、時が過ぎ姫さんの隣を赦されてから、時折新たな悔いが胸を過る。

幾らでも機会は有った。陛下との歓談など日常茶飯事だったし、そもそも五部族会議に最も上った議題の一つではなかったか。
陛下や他部族の承認が得られるかは疑問だが、それでも何か、変わったのではないだろうか。
あいつにも、何か違う選択肢が生まれたのではないのか。例えそれが俺との対立であったとしても。

「りっこう、ほ」

初めて耳にするだろう俺の言葉を、姫さんは呆気に取られた様子で繰り返す。彼女の反応は恐らく余り宜しくないだろう。哀しいかな、あの頃の姫さんなら俺にどういった雑言を浴びせてくるのか容易に想像出来てしまう。だがそれを今の彼女に語るのも馬鹿馬鹿しく、俺は黙って苦笑するに止めた。

(私には心に決めた人が居るのに!何でよりによってお前なんかと!とか泣き喚くんでしょーよどうせ。下手すりゃ城を出るとか言いかねん)

流石にそれは心が折れそうだと、これ以上の想像を早々に放棄し何故か途方に暮れた様子の姫さんの、冷え切ってしまっただろう両肩に何時の間にか彼女の背中から滑り落ちた上掛けを羽織らせると、軽く肩を竦めてみせた。

「詮無き事、です」
「……うん」
「第一、陛下が認めて下さるとも思えない。ですが、もしもそれで何かが変わるならーーあんたと陛下が平穏に生き続けられた未来もあったかも知れないと」

もしも、あいつが欲したものが王位そのものでないのなら。
否、例えあいつに殺されるのが俺になったとしても。

せめて、あんた達は。

(その為なら伏礼だろうが土下座だろうが、何だってしましたよ……陛下)

あの日々の何処かで俺が、貴方の息子で在りたいと、そう願えば良かったのかーー

「ハク……父上は、お前を大事に思っていたわ。だから、きっとお前を犠牲にはーー」

ぽつりぽつりと。王の一族には危険が伴うとの陛下のお言葉を思い返しているのだろうかーーもしかしたら母君を想っているのか。姫さんは哀しそうに、そして懐かしそうに笑いながら。
それから少し逡巡するように視線を泳がせ、俺へと。だがその瞳は伏目がちで、何時もみてえに真っ直ぐ俺を見据えてくる事は無い。

「ーーでも、そうね……お前は強いから、それも良かったのかも、知れない」

何かを言い淀んでいる風な彼女は、一呼吸置いて少し困ったような、それでも戯けた笑顔を浮かべ。

「でも、少なくとも私は阿呆なまま王妃になるなんて、嫌だわ」
「……それでも、です。大体そんなもんは俺が背負えばいい事だ」

それでも。
それでも、何も識らないままでも、あんたには無邪気に笑っていて欲しかった。
後世の評価がどうであろうとも、陛下には穏やかな時を過ごして欲しかった。

「……お前は本当に、優しいのね」
「当たり前だ。あんたを甘やかせるのは、もう俺しか居ないんですよ」
「ねえ、ハク」

不意に姫さんの細い指先が俺の頬に触れた。驚いて視線を合わせた先には、夜闇に浮かぶ僅かばかりの光を受けて潤む、紫紺の双眸。

何故、そんなに泣きそうな、顔を。

「お前は、王位が欲しいの?」

ーーは?
このひとは何を言っている。

予想だにしなかった問いに、二の句が継げないどころか動く事すら出来ない。
何も答えずに居る俺を、姫さんはどう思う?俺は今どんな顔をして、どう彼女の目に映っている?

果たして、姫さんは迷い子のような頼りない表情で、縋るような眼差しで。

「……ごめん、ね」

もしも、姫さんが俺を詰っているのなら。
王位が欲しくて自分を抱いたのかと責めているのなら、あんたは今迄俺の何を見てきたのかと怒鳴り付けも出来たのに。

「お前には沢山のものを貰ったわ。なのに私は、相変わらず何もお前に渡せない。身勝手に繋ぎ止めて、結局自由もあげられていない。これから先、例えお前が王位を欲しても私はそれを叶えてあげられないわ」

あんたこそが、そうやって俺を甘やかすのか。

「ーー姫さん」
「ごめんね、ハク……お前の事、誰よりも何よりも大切なのに、私はお前に何もーー」

泣くな。
詫びるな。

俺は、只あんたを。

「そんなもん、一瞬たりとも欲しいと思った事はねーよ」

そう言い捨てて、俺に向かい伸ばされた細腕を掴み華奢な身体を引き寄せると、涙が零れ落ちそうな眦に、円やかな頬に、微かに震える唇に、啄むような口接けを繰り返し落とす。
それから、惚けたようにこちらを見詰める紫紺の瞳を覗き込めば、凪いだ湖面のような静寂の中で微かに、だが確かに揺らぐ焰が見えた。

そうだ。
その焰で、


俺をーー灼き尽くせ。



「俺が欲しいのは、あんただけだ」


それだけを告げ、俺は目の前の白い首筋に咬み付いた。











『玉響』
あんたの声は、俺の世界を一瞬で変える。











何このグダグダ感…

原作読んで、元々聡い姫ならともかくお花畑な姫様にしては覚醒スピードがえらい速いと思ったのと、姫様のドヤ顔が何か雷獣ぽいよね〜と思ったのでその辺を自己解釈★
時間軸は、プロローグあたりで。二人が城を出て多分1〜2年後位?

ってか、ハクってかっこいいよね!男前よね!なのに何で私は彼をかっこよく書けないのか…

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

月桜キキ

Author:月桜キキ
月桜キキと申します。
数年振りに二次創作の世界に出戻って参りました。普段はしれっと会社員やってます。

暁のヨナ、聖闘士星矢(無印)を中心に、他ジャンルも時々。
NLBL混在しますのでご注意!

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