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サガ沙ss『メランコリー』 サガ←沙織でグタグタと。捏造舞台とモブ的オリキャラご注意。


昼下がりの蒼天は何処までも高く澄み渡り、真昼の太陽が燦然と世界を照らしている。

彼方から海を越え吹き抜ける潮風の行先を追い視線を泳がせると、その先に拡がる石造りの白亜の街並の至る場所に翡翠の欠片を撒き散らしたような鮮やかな新緑が眩しく映る。
翠に烟る水平線は遥か遠く、白亜の街の輪郭を際立たせるかのようだ。


聖域にほど近いこの街は遥か昔からアテナの加護を受けながら外の文化と混じり合い発展を遂げてきたのだと、穏やかな口調で説明してくれた隣に佇む長身の青年の姿をちらりと見上げ、私は思わず息を呑んだ。
慰問という名目であるからと、普段の簡素なものとは異なり襟元や袖口に金糸の紋様をふんだんにあしらった、豪奢でいながら清雅な印象の白い法衣を纏い、深紅を基調とした極彩の絹糸に色とりどりの貴石を織り込んだ腰紐を法衣の上に緩く巻いた出で立ちの彼は、陽射しを受けて燦めく長い蒼銀の髪を風の遊ぶに任せ、やわらかな眼差しで彼方へと拡がる光景を眺めている。

なんてきれいなの、と一瞬見惚れてしまった私はこれではいけないと唇を噛み締めた。

私が地上に降りる前、このひとは黄金聖闘士としての圧倒的な力に加え、やわらかな物腰と立ち居振る舞い、そして輝くばかりの美貌から『神の化身』と讃えられ崇められてきたという。
それがやがて彼のこころを壊していくのも知らずに。

ーー大丈夫、このひとはもう心弱き少年ではないのだから。

そう思いつつ、精悍でありながら何処か中性的な彼の横顔を見詰めていると、私の視線に気付いたのか彼はゆるりとこちらを向いて穏やかな微笑をその美貌に刷く。

「参りましょう、アテナーー皆が貴女を待ち焦がれております」

私を促す艶やかな低音が風に溶ける。
かつて双子座として、そして教皇として彼が度々訪れたというこの街の、皆が焦がれているのは私ではなくきっと彼なのだろう。

そんなことを思ったけれど口には出さず、私は小さく頷くと差し出された彼の手を取り白亜の街並の中へと足を踏み出した。





定期的に青空市が催されるという、街の中央に位置する石畳の広場には既に沢山の人々が詰め掛けていた。
彼等は皆暖かな笑顔で聖域から訪れた私たちを迎えてくれる。女神アテナは二百年以上この場所に足を踏み入れていないというのにーーこれもまた聖域を維持し続けてきた教皇シオンと、その使徒となったこのひとの力あってのことだろう。

集まった人々と笑顔で挨拶を交わしながら、向けられる彼等の眼差しに込められた祈り、願い、期待といった思念を肌で感じた私は隣に控える青年の様子を伺った。
人々に祈りを捧げられることを当然のこととして受け入れ、またそれに慣れている『女神』とは異なる、人の子の魂にはさぞ負担だろう。そう……人々は今この瞬間にも、私に対するものと同じだけの思念を、熱の篭った眼差しを彼へと向けている。

「……サガ」
「アテナ、あちらへ。お座りになれますよ」

躊躇いがちに名を呼んだ私を、彼はしかし普段と変わらない笑顔で広場の奥へと促す。
私に合わせたゆったりとした歩調で、周囲の人々と言葉を交わす彼の姿は堂々として、それはまるで王者のよう。

(……王者)

ぼんやりと彼の佇まいを眺め遣った私は、脳裏に浮かんだ単語をそれとなく反芻してみる。

王者。その場の総てを掌握し、自らがその中心に立てる者。

ああ、彼は王者なのだ。
神の化身という偶像ではなく、人として他者を導き統べる王者としてこの場に立っている。

彼は君主でも支配者でもないけれど、あくまでもアテナの僕なのだけれど、それでもその言葉こそが相応しいように思えた。

(このひとはもう、大丈夫)

ほっとしながら広場の隅の、彫刻が施された石造りの真新しいベンチに腰掛けた時だった。
感極まったかのような女性の呼び声がして私たちは咄嗟に顔を上げる。すると視界の先で品の良さそうな初老の女性が瞳を輝かせてこちらをーーサガを見詰めていた。

「双子座様!まあ何とご立派になられて……以前お越しいただいていた頃も光り輝くばかりの御姿でしたけれど……」
「ーー私を憶えていてくれたのですね?ありがとうございます」

一瞬、驚きに息を呑む気配を見せたサガは、けれどもすぐにふわりとした微笑を浮かべ初老の女性に言葉を掛ける。今尚神々しいと称賛される彼の笑顔の効力は絶大なようで、目の前の女性はその眦に涙すら浮かべ畏敬と歓喜を込めた眼差しを彼へと向けていた。

「詳しくは存じ上げておりませんが、双子座様は長く遠方に赴かれていたと聞き及んでおりました……無事のご帰還何よりでございます」
「……ありがとう」

かつての聖域に、彼の身に何が起こったのか知らされていない敬虔な民の言葉に、サガは曖昧なーーそれをそうと分かる者は殆どいないだろうほどのーー微笑を浮かべ応える。
ああ……彼は痛いだろうか、辛いだろうか。

聖域内の事情など外の世界に報せる必要はない。外界の余計な憶測で復活した黄金聖闘士の心を漣立てたくはない。
それは私の意志であり、聖域はこれを大前提に周辺都市や村との関わりを保ち続けてきた。

けれどもサガは……このひとは己の過去を含め事実を事実として明るみに晒すことを心の内で望んでいるのだろう。箝口と隠蔽、それこそが幼かった彼と彼の弟を苛み続け、そして彼らをあの十三年間へと追いやっていったのだから。

でも、サガは私の意志に僅かなりとも異を唱えることはしなかった。
真実を開示することは聖域の権威ひいては女神の威信の瓦解に繋がりかねないとの、それは為政者としての彼の判断なのだと痛いほど理解できる。

だってーーサガはいつも、そうだ。
己の誇りも矜持も、いのちや魂でさえ物事を動かす最善のために惜しみなく使い捨ててしまえるひとなのだ。

「アテナ様」

不意に名を呼ばれ咄嗟に我に返った私は、サガへと向けていた視線を声の主へと泳がせた。

その先に見えた光景に私は思わず息を呑む。
サガの姿を映し出しているものだとばかり思っていた初老の女性の優し気で暖かなーーそう、まるで母を思わせる眼差しが真っ直ぐに私を見詰めていた。

「……は、い」
「双子座様がお傍を離れ、さぞやお寂しかったことでしょう。本当に……ようございました」

特別な力を持っているでもない人間の女性が私に向ける、慈愛に満ちた穏やかな眼差しが、ゆったりと紡がれた言の葉が。
まるで一滴の清水のようにじわりと胸の奥へと沁みていく。

心が、静かにーーけれども確実に、揺さぶられる。

「……そう、ですね。本当にーー」

私は今、ちゃんと笑えているだろうか。己に仕える聖闘士の帰還を喜ぶ、戦女神の顔をしているだろうか。

「アテナ?」

不意に隣から低く艶やかな、そして怪訝そうな声音で名を呼ばれ、咄嗟に声の主に視線を遣れば僅かに翳った美貌が私を覗き込んで。

「……いいえ、サガ。本当に、貴方が戻ってきてくれて良かったーー」

彼に、というより名も知らぬ女性へ、そしてこの場の全ての人々へと向け貼り付けた笑顔は、我ながら取り繕った表情なのだろうと思う。
けれども彼は何も言わず、溜息の出るように優美で穏やかな微笑を私へと返してくれた。

「勿体無いお言葉……身に余る光栄にございます」
「ーーもう私に、寂しい思いをさせないでくださいね」

きっと私の反応は彼に誤解を与えてしまっただろう。
彼の真実に口を噤ぎ、彼をーー己の聖闘士の身を案じ愛と信頼を寄せる女神を演じることに対する躊躇いと、そう捉えられている。

(違う)

そうではないのだ、と。
けれどこの場でそれを伝えることは不可能で、だからせめてと私は彼の思うところの『演技』の中に真実をーー紡ぐ旋律にして唇へと乗せた。





(寂しかった)
(貴方に、会いたかった)

広場の隅に設置された大理石のベンチに腰を下ろし、私は先ほどの女性の言葉と自らの感情を胸のうちで照らし合わせながら、まるで中世の壁面から抜け出てきたような流麗な青年の姿をぼんやりと眺めていた。
広場の中央と私とのちょうど中間あたりの場所で、取り囲む人々に笑顔を絶やさず対応する彼の立ち居振る舞いは身に纏う法衣が示す通り高位の聖職者のようでもあり、彼の小宇宙さながらの太陽の如き存在感は、やはり王者にも見える。

(あの女性に、言い当てられてしまったのね)

彼の姿を視界に映しながら、私はさっき思わず息を呑んだ……こころが揺り動かされた原因に思いを馳せた。

私は、彼自身を以て私に歩む道を拓いた彼に、もう一度会いたかった。
今の私を造り上げた彼が、この地上に存在しないことが堪らなく寂しかった。

彼の姿を見たかった。声を聴きたかったーーこの手で、触れたかった。

(なんて、身勝手な)

彼が生きることを望んでいたかなんて、分からないのに。

「アテナ様」

自らの願望と選択、根源となった感情を思いもよらぬ形で突き付けられ、己の余りにも傲慢な欲を苦々しい気持ちで噛み締めていた私は、前触れもなく降ってきた幼い声にふと顔を上げた。

「ねえ、アテナ様?」

視界に映るのは幼い少女。年の頃は七、八歳位だろうか?真夏の青空のような色の瞳が真っ直ぐに私を見詰めている。背中に届く蜂蜜色の巻き毛が見事な、とても可愛らしい女の子だった。

「なぁに?」

屈託のない子供の笑顔はこちらの気分まで引き上げてくれる。私を『アテナ』と知ってはいても、恐らく女神への信仰心や縋る思いなど持ち合わせてはいないだろう少女の、純粋な好意と興味を顕にした眼差しが何故だかとても嬉しくて、私は彼女を手招きして隣に座るよう促した。
それに気付いているのかいないのかーーきっと気付いているのだろうけれど特に止める様子もないサガをちらりと一瞥して、それから視線を少女へ戻すと笑い掛ける。
すると彼女の瞳が嬉しそうに輝き、ちょこんと私の隣に腰を下ろすと内緒話のつもりなのか、耳打ちするような特有の小さな声で。

「あのひと……双子座様はアテナ様のだんな様なの?」
「…………」

一瞬、彼女の言葉の意味が理解できずに、私は思わず目を瞠りまじまじと、好奇心に満ち満ちた少女の顔を凝視した。不躾、であるだろうけれどそれはお互い様なのだし、何よりまだ子供に過ぎない彼女は私の反応を気にするでもなく、もう一度質問を繰り返す……というより、肯定されるのを前提とした確認のようだった。
そうなんでしょう?と重ねられ、私はーーどうしてなのか否定の言葉も忘れ、何故そう思うのですかと訊き返すことしかできなかった。

「だってアテナ様は凄くきれいだけど、あのひともとってもきれい。絵本に出てくるお姫様と王子様みたいだわ」
「まあ、ありがとう。本当にそうだったらとても素敵ね」

見た目の印象から連想された単なる子供の思い付きであると明言され、何となくほっとしつつやんわりと否定すると、違うの?と少女は可愛らしく首を傾げる……それから。

「お母さんからね、アテナ様のお話を沢山聞いたの。アテナ様はずっとおひとりで世界を護っていらっしゃるんだって」
「私はひとりではないですよ、聖闘士の皆が傍に居てくれます」
「聖闘士様のことは知っているわ、でも聖闘士様はアテナ様が地上にいらっしゃる時にしか一緒じゃないんでしょう?」

そこで少女は一旦言葉を止め、サガへと顔を向けた。その視線はさっきのような好奇心に溢れたものではなく、とても眩しそうなーー

「街の皆がね、双子座様は神様の化身なんだって言ってたの。だからアテナ様が他の神様を聖闘士様として傍に置くならそのひとがアテナ様のだんな様なのかなって……だって双子座様が神様ならアテナ様とずっと一緒に居られるのでしょ?」

綿菓子のようにふわふわと紡がれる彼女の言葉はとても優しくて、真っ直ぐに他者のーー私のしあわせを願う真っ直ぐで暖かなこころが伝わってくる。

「ーーええ、そう……です、ね」

幼い少女らしい、御伽噺から発想を得たような夢物語は、けれども私の胸の内を抉るように。

「そうだったらーー本当に……しあわせですね」
「ーーアテナ様?」

真実でないことを肯定することはできない。けれども彼女の優しい気持ちを否定したくはなくて私は精一杯の笑顔でそう告げた。

(あのひとは、神である私の伴侶になどなり得ない)
(あのひとの魂をこれ以上弄ぶことなど)

「アテナ様、どうしたの?何処か痛いの?」

笑顔を向けたはずなのに、どうしてなのか少女の顔が悲しそうに曇る。
少し慌てたような、どうしていいか分からないといった彼女の風情に私は自分が涙を流していることに初めて気付いた。

ああ、なんてこと……こんなはずではなかったのに。

「あのっ……双子座様……!」

切羽詰まった少女の呼び声に弾かれたように顔を上げる。あのひとを呼ばないで、大丈夫だからーー願いを声に出す前に、法衣を纏った青年の姿が双眸に映し出され、私は己の有り様に呆然としながらも彼の名を唇に乗せた。

「……サガ」
「アテナ、如何なさいました……!」

ああ、そんな顔をしないで。貴方が私に心を砕く必要なんてないのです。
私は、私は貴方をーー

「ごめんなさい双子座様、あたしアテナ様に……」
「違うの!」

必死に言い募る少女の声を遮り、私は双眸から流れ落ちる雫を拭うこともせぬまま正面に立ち尽くすサガを見上げた。
涙で僅かに揺らぐ瞳の中のそのひとは相変わらず端正で、焦燥の色濃い表情で私を見詰めていた。深い湖底のいろを宿した彼の双眸の光が苦しげに揺らいでいるーーそうだ、私は彼に誤解させてしまっているのだ。

「違うのです、この子が悪いのではないわ……私」
「それは……はい。ですがアテナ」
「大丈夫、ですからーー」

誰よりも敬虔で忠誠心篤く、そして心配症なこのひとはこんな言葉で納得などしないだろう。だからといって思わぬ形で抉り出され向き合うことすらしていないーー整理すらできていないこの感情を説明などできるはずもない。
けれど何よりも、真っ直ぐな好意と優しさを向けてくれた幼い少女のこころを傷付けたくはない。

「違うの、私……嬉しくてーー」

ちくりと胸に棘が刺さったような痛みが走る。嬉しいーーそれは嘘ではないけれど。
小さな少女の優しさに触れ確かに嬉しかった、けれど。

「ありがとうサガーーごめんなさい」

身勝手な自分を、この感情を喜ぶことはできない。肯定してしまったら、それは貴方の魂を弄びやがて歪めてしまうことになる。

だから、ごめんなさいとだけ告げて私は徐に立ち上がり縋るように彼の胸の中に顔を埋めた。突然の私の行動に一瞬身を強ばらせた彼は、それでも私を引き剥がすことはなく一呼吸の間を置いて、何も言わずにふわりと私を抱き止めてくれた。

やわらかな手触りの法衣に焚き染められた、フランキンセンスの芳香が漣立ったこころを鎮めてくれているのが分かる。
そして布地越しに伝わってくるこのひとの温もりと微かな鼓動がとても、とても。

(嬉しい、のだ。私は)
(だけど、それは)

彼の腕の中で瞑目し、両腕をそろりと広い背中に廻す。
今や遠いあの日から、ずっとずっと触れたかったこのひとはとても暖かくて、涙がーー止まらない。

「アテナ様……」

私の名を紡ぐ少女の声が耳に届く。不安げな中でも何処かほっとしたようなその響きにほんの少しだけ気持ちが軽くなったけれど。
きっと彼女の中では、そしてもしかしたらこの場に集まる人々の中で、女神と女神の双子座は、この世界中のそこかしこに転がっている御伽噺のように優しく幸福な夢物語の登場人物と重ねられやがて昇華されていくのだろう。

(私がそれを、夢物語を望むことは寂しさと恐怖を抱え込むことだ)
(このひとの魂を弄び歪めてしまうことだ)

やがて絶え間なく零れ落ちる涙が止まるのを見計らい、サガは両腕で軽々と私を抱え上げると手慣れた身のこなしで法衣の裾を翻した。
そして彼は流れるような動作で振り返り、広場に参集していた人々に向けて一言二言帰還の旨を告げる。

たったそれだけで凛として荘厳な空気を造り出せる、このひとはやはり王者なのだ。
そして王者の魂は人々のために在るべきなのだ。

一斉に頭を垂れ、或いは居住いを正す人々の様子を揺れる視界で眺め、せめてと皆に微笑を浮かべながら私はぼんやりとそんなことを思う。

(これは、愛などではない)

この場に居合わせた人々が寄せる眼差しーーそれが好意的なものであるからこそ居た堪れなくて、所在なく彷徨わせた視界の隅を蜂蜜色の煌きがふっと掠め、咄嗟にそちらに視線を遣ればさっきの少女が満面の笑顔で。

「アテナ様、おしあわせに」

夢のように優しく、幸福な御伽噺の続きを思い描いているのだろう少女のストレートな祝福に、思わず息を呑んだ私は一瞬言葉を失ってしまったけれど。

「……ありがとう」

軋むこころを抑えながら、それでも私は紛れもない感謝の言葉をやっとの思いで紡ぎ出した。





「何があったのです……アテナ」

聖域への帰還のため忍び込んだ双子座の異次元を、だが私が落ち着くまで戻れないだろうとの判断の下ーーふたり、空間の流れるに任せ揺蕩う。

私を己の両腕に納めたまま問うてくる、低くやわらかなサガの声を聴きながらそっと瞳を閉じた。
自身の問い掛けそのものに少し躊躇する様子の彼から好奇心の類は一切感じられない。主たる女神に対する心遣いと遠慮ーー線引き、ともいうのだけれどーーその真心と、今の私を捨て置くことのできない自身の立場故の責任がせめぎあい彼のこころを漣立てている。

否応なしに伝わってくるサガの感情の揺れは、私に或る種の諦観をもたらした。

(このひとを……これ以上弄んではいけない。惑わせてはならない)

「ーーあの子が、私のしあわせを願ってくれたのです……それがとても嬉しくて」

気付いたら、泣いてしまっていたのです。と、真実のすべてではないけれど嘘ではない言葉を告げれば、サガは一瞬驚いたように私を見遣り、それから少し辛そうな微笑を浮かべ。

「アテナ、貴女は誰よりも幸福であるべきです。貴女が護り慈しむこの地上でーーそれが私の、そして聖闘士皆の願いです」

こころに深く沁みるような、しっとりと優しく響く声音はとてもーーとても哀しげで。

「サガ、私は……貴方たちが幸福なら、それがいちばんのしあわせです」
「そう仰ってくださる貴女だからこそ、我々は貴女が誰よりも幸福であることを願うのです」

掛け替えのない私の双子座が紡ぐ、祈りにも似た哀しく優しい旋律に再び涙が零れそうになる。きっと、女神の幸福の在り方がこのひとにとって酷く哀しいものに映っているのだろう。

(サガ、私と貴方の願いはきっと叶う。でも本当は……どちらも叶わないのです)

私の願いは愛する人々……聖闘士の皆が幸福な生を全うし、星の宿命から解放され、それぞれが新しいいのちとして再び生を受けること。


そして私はひとり、女神として在り続けるのだ。


(貴方がそれを哀しいと、しあわせでないと言うのなら)
(貴方が思う幸福のかたちを私に求めるのなら)


「ごめんなさいサガ、もう少しだけーー」
「……どうぞ、お気の済むまで」


(私は貴方のしあわせを、願えなくなってしまう)


伝わっているはずなどないというのに、私は何も伝えていないのに、まるですべて受容してくれているかのようにーー私を包み込む彼の腕の力がほんの少し強くなるのを感じられたから。

私もまた、彼の背中に廻した両腕に力を込め、決して訪れることのないだろう未来を思う。


何も言わず、身勝手な私を優しく抱き止めてくれるこのひとの暖かな温もりのような、世界中に転がる幸福な御伽噺の続きを。















『メランコリー』
幸福の、終わりのはじまり。















何ともまあ、グタグタになっちまいました( ;∀;)
なかなか進まず苦労しましたが、やっとサガ沙らしくなってきた!

ですが、ふたりとも互いが互いに向ける感情に名前を付けない、カテゴライズしない。
というのがサガ沙に対する持論であります故非常に分かり辛いことに……




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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

月桜キキ

Author:月桜キキ
月桜キキと申します。
数年振りに二次創作の世界に出戻って参りました。普段はしれっと会社員やってます。

暁のヨナ、聖闘士星矢(無印)を中心に、他ジャンルも時々。
NLBL混在しますのでご注意!

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