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ヨナハクss『soulstation 1』 ヨナ女王設定未来話。オーダー品です。


月のない夜の闇が、数刻前までの喧騒にも似た賑わいが嘘のような静謐さで鎮座する緋龍城を覆い隠す頃。
王都を吹き抜ける冷えた夜風の渡ることすらない王宮の深部ーー謁見の間へと続く中央回廊を、己の髪の色に合わせたのか雰囲気に合わせたのか、濡羽色の絹糸で織られた複雑な地模様の、艶のある質感の黒装束を身に纏った長身の青年が足早に歩を進めていた。

磨き抜かれた石造りの床が悲鳴の如く打ち鳴らす澄んだ靴音は、夜の静寂の中で高らかに響き渡り冷え冷えとした空気を震わせている。
周囲に木霊する己の靴音が荘厳なまでに耳を打つ。足を止めれば異様な静寂。黒装束の青年ーーハクは僅かに眉を顰め、焦燥も顕な表情をその精悍な顔面に浮かべた。

感覚を研ぎ澄まし、意識を拡げてみる。
だが、回廊の入口で言葉を交わした衛兵を除けば、この場所に人の気配は皆無だった。

「……どういうことだ」

夜間とはいえーー否、夜間だからこそ不自然に過ぎる状況に、ハクは舌打ちを洩らし一段と歩速を上げる。
この状況には覚えがある。忘れもしない、もう何年も前のこと……イル陛下が弑逆された、あの時の静寂に酷似している。

まさか、とハクの背筋を薄ら寒い震えが走った。まさか、そんなことは有り得ねえだろう。あの時と違い、今は王宮内の衛兵への権限は俺にある。俺の許可を得ずにそれに介入できるのは現王であるあの人を除けば誰もいねえ。
ーーだが。だが、もしも。

一瞬脳裏を過ぎった可能性を打ち払うように、ハクは大きくかぶりを振るとひと呼吸し、広い回廊を駆け出した。





やがて眼前に現れた、豪奢な彫刻の施された重厚な扉を徐に開く。
その奥に拡がる広間を見渡してみても、やはり衛兵は見当たらず、物陰に潜んでいる様子も気配も感じられない。
弾かれたように正面へと視線を移すと、夜闇に覆われ漆黒にも似た深紅に見える、本来鮮やかな真紅に極彩色の刺繍で飾られているはずの緞帳と、その前面に配置された玉座が常と変わらず配置されていた。

「……陛下」

玉座にゆるりと腰掛ける、緩やかに波打つ緋い髪を肩に垂らした女性の姿を紺青の双眸に映し出した黒髪の青年は大きな溜息をひとつ洩らし、安堵の色を隠すことなくぽつりと告げた。

視界に拡がるのは見慣れた空間。紅や黄金を基調とした壮麗な彩りを誇る高華國で最高の権威の場は、しかし今は僅かな燭台の灯が作り出す薄ぼんやりとした朱の他は重くのしかかる宵闇に沈んでいる。
まるで水墨画のようだ、と少しばかりの感慨を以てそれを眺め遣り、それからハクは玉座に座する己の主へと改めて意識を向けた。

幾重にも淡いいろの薄衣を重ねた装束の上に、金糸銀糸で大輪の牡丹を刺繍した彼女の髪色そのままの深い緋の長い上衣を羽織る女王たる主の姿もまた、清水に融けた墨色に滲む。
極彩とは対極の、何処か寂しさを感じさせる光景の中で、深い紫紺の双眸だけが一対の至宝の如く艶やかに煌めきを放っていた。

「ーーご無事で?」
「おかしなことを言うのね、雷獣が守護するこの城がそう簡単にどうにかなるはずないでしょう?」

小首を傾げ、玉座の女王ーーヨナは可笑しそうに口の端を上げた。緋い長衣の肩に掛かった波打つ髪が彼女の動作に合わせさらりと零れ落ちる。薄く紅を刷いた丸い唇が燭台の灯りを受けててらりと煌めいた。

そのさまは酷く扇情的で、ハクは先程とは違う意味で背筋が震えるのを感じながらも彼女を見詰め問を続ける。

「衛兵を下げたのは陛下か?」
「そうよ。だって要らないでしょ?お前が此処に居るのだもの」
「人払いなら、広間だけにしていただきてえんですけどね」

努めて憮然とした表情を崩さず、ハクは主へと進言する。だが当の主はといえばくすくすと、鈴の鳴るような軽やかな声で笑うだけだった。

「心配症ねえ、ハク」
「ご自分の立場を弁えてくださいよ」
「……立場、ねーー」

くつり、と薄墨に溶けた薄紅色の唇が弧を描く。華を抑えるように刷かれたそれは決して男の色欲を煽り立てるようないろではないのに、何故だかハクの双眸に限りなく蠱惑的に映し出された。
背筋を駆け上がる戦慄に囚われその場に立ち尽くす青年をちらと見遣り、ヨナはゆるりとした動作で玉座から立ち上がると重々しい王の装束に覆われた片腕を伸ばし、覗く白い指先で彼を手招きする。

「こっちへ、いらっしゃい……ハク」
「ーーはい」

やんわりと命じられるまま、王と臣下の境界線であり越えられぬ権力の差でもある、広間の床の一段高い部分を踏み越えハクはヨナの正面に立つ。
互いの目線が普段通りのものとなったことに、ヨナは僅かに瞳を細めーーひっそりと苦笑を洩らした。

「ねえ、ハク」
「はい」
「座って」

空いた玉座を指し示し、ヨナは青年を促した。彼は一瞬怪訝な表情を浮かべたが、幼馴染の他愛ない気紛れと判断し、本来国王のみにしか許されない、彫刻と宝玉で飾られた豪奢な椅子にゆっくりと腰を預ける。

「壮観でしょう?」

斜め上からの問い掛けに、ハクは改めて広間を一望した。初めて経験する視界の高さに新鮮さを覚えつつ、紺青の瞳を広間の隅々まで巡らせていく。
この、一段高い場所から広間を見渡すことはハクの日常だった。何らかの目的で国王と、国内外の為政者や貴族が集う度に玉座の斜め後ろに控え、国王であるヨナを警護しつつ広間の人物の挙動を観察するーーそれは高華の重臣であり国王の懐刀である青年の職務だった。

見え方が違うな、と当然の感想を脳裏に浮かべハクはひとつ息を洩らす。
常よりも低い目線ーーだが、正面からこの場の全てを見据えることのできる視点。この国の、最高指導者のみに許された光景。

「そうっすね……確かに壮観です」
「その場所からは、高華の全てが見渡せるわ」
「はは。そりゃあ気分もよさそうだ」

からりと笑う青年の横顔を、ヨナはちらと一瞥すると墨色に覆われ痛いほどの静寂が横たわる広間を改めて眺め遣った。

気分がいい?何を言っているのだろう、この男は。
僅かに眉を顰めるも、しかし他人事を、とは思わなかった。彼はーー嘗ての風の部族長であり現在は中央の軍部を統括する高華の雷獣は、きっと玉座を手にしようと常と変わらず堂々たる佇まいをみせるのだろう。

「ーーハクは、国王になりたいの?」
「まさか」
「お前になら、きっと立派に国を治められるわ」

淡々としたヨナの声音に、ハクは怪訝そうに彼女の様子を振り仰ぎ伺い見た。燭台の仄かな灯火に照らされた女王の表情は、紡ぎ出された旋律と同様に淡々としたものだった。

今回のような特例を除けば、本来男子による王位継承が行われるこの国において、ヨナの言葉を現実のものとする方法は二つ……婚姻による譲位と、それからーー
有り得ない、考えたくもない可能性に口を噤み彼女の言葉の続きを待つハクの耳朶を、まるで謳うように滑らかな、他愛のない呟きの如き声音が響き渡る。

「欲しくなったら奪いなさいーー私を、殺して」
「陛下!」

途端、切羽詰った風情の鋭い声が聴こえて。
ゆったりと振り返れば、焦燥の色濃い光を湛えた双眸で、険しい表情を己へと向ける青年の姿がヨナの瞳に映し出される。

彼が主である己をーーそう、嘗てスウォンが父上にそうしたようにーー殺す可能性に怯えているのか?否、そうではないと彼女は思う。ハクは王位など、露ほども望んでいない。

ーーああ、怖いのか。
単に、私の死が恐ろしいのか。

馬鹿な男だと女王は思う。それは決して軽蔑ではないけれど、哀れみにも似た眼差しを彼女は己の寵臣へと向けた。
絶対に死なせないと、私に力強く言い放ったのは何時の頃のことだったのか。もう、随分と昔のことのような気がする。

(王とは、死と隣り合わせなのだよ)

今は亡き父上の言葉が脳裏に蘇る。あの、しあわせだった日々に前触れなく突き付けられた父の言葉。
自らが死と隣り合わせの立場にありながら自国の……自身の盾ともなるはずの武器を厭い戦を禁じた父上の信念はいかばかりか。

「冗談よ」
「……あんたらしくない冗談だな」
「私らしい?そんなのーー誰が決めたの?」

ほんの少し口調をやわらげ、ヨナは軽く肩を竦めてみせると広間へと向けられたままの瞳をそっと伏せた。瞼の裏に各部族の長や高官が居並ぶ、背筋が震えるような光景を思い描いてひとつ深呼吸する。

「私は、王よ。何時でも死ぬ覚悟はできているわ」
「陛下、あんたは死なせねえ。その為に俺が存在するんだ」
「……そうね」

信じているわ、と告げながら、信じられるはずがない、とも思う。

失敗すれば、舵取りを損なえば、待っているのは死あるのみだ。
連合体制である以上、この国は私の一存でどうにかなりはしない。滅びの道を突き進むことはないはずだ。だが一方でそれは、各部族の信を失えば簡単に首を刎ねられるということでもある。

ーーそう、父上のように。

父上は強い方だったと、玉座に就いて初めて思う。
ただ静かに、淡々と、死を覚悟しながら己の信念を貫き通した。そしてそれは並大抵のことではないと、女王となって私はやっと理解できたのだ。

王とは、孤独なものだ。
王とは、人であることを棄てるべき存在だ。

王が守るべきものは家族や恋人や友人ではなく、国の土地と権利と財産と、名も知らぬ民衆なのだ。

そしてハク、お前は。

「……ねえ、ハク」

一旦瞑目し、ヨナは吐息と共に誰よりも愛おしい男の名を呼ぶ。この国の誰よりも強く、国にとっても女王にとっても掛け替えのない才能を持つ、どうしようもなく馬鹿で哀れな男の名を。
馬鹿な人、と胸の内で呟きながらヨナは振り返るとしゃらりと衣擦れの音を立てながら足を踏み出し玉座に腰を下ろす青年の正面に立った。

「陛下?」
「ハク、そのままで」

無人の広間から己の視界を遮るようにして佇む女王の、今は薄墨に覆われた白皙のかんばせを振り仰ぐとハクは切れ長の双眸を僅かに顰める。
彼女の立ち位置は、彼女こそが己の覇道を阻む障壁であると示唆しているかのようでーー

「陛下、あんたは……」
「なあに?」
「ーーいや、何でもねえ」

燭台の灯火に照らされた、暁前の晴れ渡った東の空の如きいろの瞳が己を見据える。その眼差しに昏い影は見当たらないのに。

(王座から、降りたいのか?)

脳裏に浮かんだ問いは、だが目の前の女王が見せる悠々たる笑みに抑え込まれ、結局ハクの唇から紡がれることはなかった。

俺は王位なんざこれっぽっちも望んじゃいねえ。それを、彼女が知らねえはずがない。
ならば何だ?この人は何が言いたい?
何を考えている?彼女は俺に、何を望んでいる?

逡巡する青年の疑問と思考は、明確な回答を得られぬままやがて女王が奏で出した鈴の音のような笑い声に搔き消されていく。

「ねえ、ハク……遊びましょうよ」

くすくすと笑いながら女王が告げる。
脈絡のない主の申し出に瞠目し、まじまじと己をを凝視する青年に向けて軽く小首を傾げると、ヨナは蠱惑的な笑みを浮かべた。
それから、重々しい装束から覗く細い指先で帯飾りにと幾重にも結われた絹の組紐のひとつを摘み上げると円い唇を薄く開く。

布と布が擦れる乾いた音が、静寂に沈む周囲の空気を奇妙なほど震わせた。















『soulstation 1』
なんて退屈な世界にいるんだろう 君に















尊敬する絵師様であり大好きなお友達でもある、もめ雄さんからのオーダー品です。
以前描いていただいた美麗過ぎるアテサガ絵へのせめてもの返礼品でもあります。
私得以外のなにものでもないような内容なのに快く受け取ってくださったもめ雄さんの懐の深さに感謝しかない……!
もめ様ありがとう本当にありがとう(ू˃̣̣̣̣̣̣︿˂̣̣̣̣̣̣ ू)



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プロフィール

月桜キキ

Author:月桜キキ
月桜キキと申します。
数年振りに二次創作の世界に出戻って参りました。普段はしれっと会社員やってます。

暁のヨナ、聖闘士星矢(無印)を中心に、他ジャンルも時々。
NLBL混在しますのでご注意!

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