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ハクヨナ風味ss『つくられしもの』 二つ名の重要性について。

ぼんやりと、空を見上げる。黄昏時の何処か物哀しい空の色を、物哀しいなどと感慨を以って見上げたのは何時以来だろうか。

「……やっちまったな」

幾重にも包帯を巻き付けられた左腕に視線を落とし、誰にでもなくぽつりと呟きを洩らす。

深手だから少し時間が掛かるよと、普段通りの顔でさらりと告げたユン。俺を止める為付いた傷を、蚊に刺されのだと笑うキジャ。正面から俺に向かい、結構な痛手を被っただろうに平然として何も言わないジェハ。何時もと変わらない振舞いのシンアとゼノ。
皆の気遣いは、申し訳ないとは思うが有難いとも思う。そして、あの醜態を俺は別に恥じてはいない。
だが醜態は醜態だ。例え皆の力が尋常でなく、俺一人欠けることが姫さんにとって致命傷にならなくとも。あんなにも無様な……己の命を棄てるような。

(違う。俺の命じゃない)

あの時、俺がスウォンを殺せたとしてその後俺はどうなる?ジュドあたりに斬られるか、捕らえられて処刑されるか。まあ別にそれはいい。どうせ俺は『重罪人』だ。だが。
ユンや珍獣共はどうなる?姫さんは?姫さんは城に戻れるだろうか。スウォン亡き後、姫さんは空都で新しい王を迎えさせられるのだろうか。

「……血迷ってんじゃねえよ、俺」

忌々しげに吐き捨てると、左手を広げ視線を移した。誰よりも何よりも……それこそ己の命よりも大事な少女が、無理をするなと握り締めてきた己の左手。戯れに力を込めて握り返すと、まあ概ね予想通りの反応で。それが妙に懐かしくて、ふと笑いが溢れた。

(また、泣かせちまった)

気が緩んだのだろう。普段通りの俺の姿に安心したのかも知れない。それ程にあの時の俺は殺気に充ち満ちて、正に手負いの獣のようだったろう。いや、狂気の殺戮者か。何れにせよあの時の俺はさぞ恐ろしく映っただろう。

そこまで思いを巡らせ、ふとかぶりを振る。違う。姫さんが怖がったのは、俺の死だ。
幼馴染故にか、頼れる者の少なさ故か、彼女は俺の命を惜しんでくれる。俺は従者なのだと、道具なのだと何度言い聞かせても頑なに受け入れない。
そして彼女は俺の命だけでなく、心の状態にまで気を砕いてくるのだ。

(イラつく位鈍感なクセにな……全く厄介な姫様だよ)

何時も通り彼女の涙を隠してやった、つもりだったのに。
自分こそが俺を護るのだと、言わんばかりに俺の背に腕を廻して。

「……ホントしんどいっすよ、陛下」

三年ほど前だったか、陛下に姫さんの専属護衛を任された日。あの時から分かっていた。彼女に手を差し伸べればこの先ずっと俺はしんどい思いをすると。
誰よりも傍に居ながら触れることは叶わず、それでいて傍を離れることも出来ず、更には死ぬことすら許されない。いっそ道具扱いされた方がどんなにか楽だろう。

『ずっと城にいてくれないかい』
『私はハクが欲しいんです』

ふと、脳裏に浮かぶ懐かしい声。すげェな俺、王族三人から求愛されちまって。モテモテじゃねーか雷獣さんよ。

(ああ、あいつは違うか……いや、あいつは俺を、切り捨てた)

知らず眉根を寄せながら、あの悪夢の夜を思い出す。スウォンの謀叛、あれは衝動的なものではない。長い月日を掛け緻密に計算され根回しされたものだ。

『あなたたちの知るスウォンなど、最初からいなかった』
『弱い王などこの国には必要ない』

何があった。それ程までに思い詰め、俺を……姫さんを切り捨てる、何がお前にそうさせた?
答える者のない問いを重ねるも答えなどある筈もなく、思考は只逡巡する。
ガキの頃、俺と肩を並べて戦いたいと言ったお前の言葉に嘘はないだろう。ならば何故、お前は何も言わずに。

否、あいつは分かっていたのだろう、俺があいつの覇道を共に歩むことは無いのだと。であるならば要するに、あいつの行為には何の正当性もない。そういう事だ。
あいつに何があったかは俺には分からない。だが、あいつが王になりたいのであれば話は簡単だった筈。姫さんと婚姻を結べば話は終わりだ。身分的にも臣下の信頼も問題はない。問題があるとすれば、陛下があいつを後継者とは認めていなかった、ということ位だろう。

(珍しく、頑なだったんだよな……陛下)

スウォンだけは与えられないとヨナ姫に言い切った陛下。もしかしたら、その事実も理由もスウォンは知っていたのかも知れない。

(だからといって陛下を説得もせず、各部族の懐柔もせず、火の部族長と通じた挙句謀叛ときた)

それ程に。正規且つ容易な手順が踏めぬ程の、スウォンが王になり得ない重大な何かがあったということか。
そして、陛下はこの結果を予想していたのかも知れないと、今ならば思う。
だからこそ、陛下はわざわざ俺を……『雷獣』を一人娘の護衛にと充てがったのだろう。

彼女が生きるために。そして、何時の日かあの城へ還るために。

(そうだ。俺は姫さんと共に貴方の城へ戻ると誓った。堂々と、スウォンを討つために)

謀叛の事実すらひた隠し、何食わぬ顔で王座を手に入れたあの卑怯者を、正面から。
知らずくつりと嗤いが洩れる。面白いじゃないか、スウォン。お前のためにと手に入れた力で、俺がお前を殺すんだ。

思考することを後回しにしていた。だが、一旦うだうだと考えると、意外に簡単に結論に辿り着く。


ふと深呼吸すれば、湿気を孕んだ冷たい空気が喉を潤す。黄昏時は音もなく終わりを告げ、夜の帳が大地を包み込んでいた。
そして背後から慣れ親しんだやわらかな気配。やわらかくて、暖かい。あんたのこの気配が、俺をあんたの世界へと連れ戻してくれた。

「姫さん、どうかしましたか?」
「わ!……っ吃驚したぁ。ごはんできたよって言いに来たんだけど、何だぁ、気付いてたの……」

振り向くと同時に問い掛けた俺に、気付かれてないと思っていたらしい姫さんは不満げに小さく声を上げまじまじとこちらを見上げてきた。

「俺を誰だと思ってるんですか」
「あ、そっか。気付くよね武術の師匠だもんね、というか雷獣さんだもんね」
「何すかその微妙に弱そうな呼び方は」
「えーいいじゃない可愛くて。駄目?」

良くない。俺が可愛くてどうする。ってかあんたその上目遣い止めてください。そんな表情されたら俺が色々ぐらつく。じゃねえ!あんたはこの世界で唯一の、『雷獣』の所有者なんだ。だから。

「他ならぬあんたが『雷獣』の名を貶めないでくださいよ。今後、色々活用して頂きたい呼称なんですから」
「活用って……そういう言い方、モノじゃないんだから」
「俺は、あんたの所有物ですよ」
「ハク!」

途端泣きそうな顔で、震える声で指で俺の言葉を必死に止めに来る、誰よりも何よりも大切な、愛しい女。この想いのままに掻き抱くことができたなら。

けれど、この女は龍なのだ。
古の伝承と四龍、そしてこの国が、亡き先王が、何時の日か彼女を玉座へ昇らせるのだろう。

そして俺もーー

「姫さん、俺を所有物と思えないならそれでも構わない。ですが忘れないでください。俺は、あんた以外の誰にも膝を折らない。あんた以外の存在が俺の上に立つのは勿論、隣も許さない。いいですね」
「ーーずっと傍に、居てくれるって、こと……?」

不安げに俺を見上げてくる紫紺の双眸が、ほんの少しだけ和らいだ光を宿す。縋るように俺の腕に触れていた彼女の指先が、そっと離された。
ずっと傍に、などと。死なない約束なんて交わせる筈もない状況で、それでも。

「はい。あんたが生を終える瞬間までーーいや、その際には冥府までお連れして差し上げましょうかね」

姫さん方向音痴ですもんねーと戯けてみせて、そのまま反応を待たず仲間達の待つ天幕へ向かい踵を返す。少し遅れて、軽やかな足取りで姫さんが駆け寄ってきた。ふわりとしたぬくもりが左腕に寄り添う。

「姫さん、ですからどうか『雷獣』を、手離さないでくださいね」

俺の“御願い”に、少し戸惑ったような、困惑気味の笑顔でそれでも小さく頷く彼女の、俺の左腕に繋がれた掌に力が込められた。
ああ、取り敢えずは大丈夫だろうと息をつく。

何時か。
何時かその時が来たら、きっと彼女にも分かるだろう。陛下から、高華の『雷獣』を賜った意味が。

そう、『雷獣』は高華の王の所有物であるべきなのだと。

(どうか俺を使いこなしてくださいよ、女王陛下)

未だ見ぬ未来へ祈りを込めて、夜空に瞬く宵の明星を見上げ心の内で呟きを洩らす。
宵闇は、横たわるばかりで何も言いはしないけれど。

確かなぬくもりが変わらず傍に在ることを只、願い。











『つくられしもの』
全ては、人の心が。







16巻あたりのハク視点での考察。
スウォンについて。王について。
『雷獣』について。
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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No title

16巻は読みごたえありすぎて、色々考えてしまいますね。
あんな風にハクが我を忘れて怒りに駆られる姿は、やっぱり衝撃で。

暁のヨナはモノローグが非常に少ないと感じるのですが、16巻のこのシーンでも、主役3人の心情を説明するモノローグがないんですね。
まだ原作で明かされていない事が多すぎて。だからこそ、読者はあれこれ深読みしたくなるのですが。

>すげェな俺、王族三人から求愛されちまって。
ここ大笑いしました(笑)
ジェハやグンテ将軍からも「ほしい」言われてましたね(笑)
ムンドク将軍は「やらん!」と即答だし。ジェハに「ハクをくれるの?」と聞かれたヨナも「ううん。あげない」ときっぱり即答で。

スゴイな。ハク。どこ行っても引手数多(笑)
しかも王族、将軍、四龍と、そうそうたる面子に欲しがられるって、どれだけ有望株。こんなモテまくりな男そうそういないですね。

>「どうか俺を使いこなしてくださいよ」
若干18歳で、何て不敵な・・・!
でも実際、ハクもスウォンも、結構規格外に優秀な人材なんでしょうねえ。

Re: No title

16巻、何度読み返しても足りません……
あの時のハクを見て、ああ彼の時間は4月7日で止まったままなんだなと改めて思いました。
あの日以来姫の為に力を振るい続けていたハクが、初めて自分自身の為に力を振るったんだろうなと思うと、また色々考えさせられます。
この作品のモノローグの少なさは読み手の想像を掻き立てるのですが、一方でキャラ把握が難しいですね……特に重要キャラの割に出番が少ないスウォン様。

ハクはどちらかというと、同性に好かれるタイプかと思うのです。勿論普通に男前なので女の子からもモテるでしょうけど 笑
ほんと有望株。武人としては高華一と言われてたり、グンテさんには天才言われてましたけど、強さだけでなく人柄も各人から愛される所以なのでしょうね〜

ハクもスウォンも規格外。そうですね〜
国王と、国王の片腕になるべく二人ですからね。
もう二度と並び立つことはないのだろうと思うと、寂しいし残念ですけどね。
プロフィール

月桜キキ

Author:月桜キキ
月桜キキと申します。
数年振りに二次創作の世界に出戻って参りました。普段はしれっと会社員やってます。

暁のヨナ、聖闘士星矢(無印)を中心に、他ジャンルも時々。
NLBL混在しますのでご注意!

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