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ハクヨナ未来話『Baby, you're my home』姫と雷獣と雷獣の子の小話です。

蒼く 蒼く 彼方まで霞む昼下がりの初夏の空をぼんやりと眺めた。

遥か遠くにそびえ立つ、深緑に煙る山脈の更に向こう、真白に淡墨を一滴だけ滲ませたような重苦しい低い雲が灼熱の季節の到来を予感させる。


むせ返るような若草の匂い。
萌葱色の絨毯のようにやわらかな、一面に拡がる草原に腰を降ろした私は視界に映し出された、仔犬のように転げ回る幼子の姿に目を細めた。
緩やかに吹き抜ける風にさらりと靡く真っ直ぐな黒髪。綺麗に整った顔立ちは、けれど大人びている訳ではなく幼子らしい屈託のない無邪気な笑顔で。

愛おしさと懐かしさが胸に込み上げ、何だか無性に泣きたくなった。


不意にしゃがみ込んだと思ったら、彼は小さな手に朽ちた枝の切れ端を握り、円い瞳を輝かせた。
やたら棒を手にするのは子供の特性なのだろうか。

昔、あの人も同じことを、同じ瞳の輝きで。

朧気な記憶の中の幼馴染の少年の姿が目の前の幼子に重なって、言いようのない幸福感が私を包み込んだ。
髪の色、顔立ち、仕草。たったひとつを除いて、何もかもがあの頃のあの人とそっくりな子供が眩しい笑顔を私に向ける。

ああ、私はどれほど幸運なのだろうか。
私を映すその瞳の色が、煙る紺青でないことだけがとても残念ではあるけれど。でも、それでも。

「ヨナ!こっち、みてみてー」

記憶の奥底に今も残る、あの頃のあの人と同じ声で名を呼ばれた。
幼かったあの頃、この涼やかな懐かしい声に名を呼ばれたことなど、あんなにも一緒にいたのに多分一度だってなかった。

枯れ枝を振り回し嬉しそうに自慢気に、私へと笑い掛ける幼子に手を振ると、そのまま額の上へと掌を翳す。燦然と輝く陽射しがとても眩しい。


暫く枯れ枝を片手に若草と戯れる幼子の姿を眺めていたら、不意に頭上に影が落ちてきて、それから軽い衣擦れの音色と共に視界が半分遮られた。

「この時期の陽の光は身体に毒ですよ、姫さん」

私を労わる優し気な響きを宿す低い声に視線を上げれば、さらりとして張りのある、目の荒い上質な織物の、何時か何処かで見たような色彩が視界に拡がった。
艶やかな朱色の上に、煌びやかな金糸銀糸をはじめ様々な素材の色糸が幾重にも縁取られた、風通しの良い極彩色の薄布は多分異国のものだろう。

「おかえりなさい、ハクーーこれは?」
「土産です。あんた好きでしょう、こういうの」
「うん、ありがとう……でもこれ凄く高価そうだわ。そんなに仕事、うまくいったの?」
「そりゃあもう。伊達に部族長やってた訳じゃねえですよ、取引先なんざ幾らでもーーてかあんま雷獣を見縊んねえで頂きたい」

低く艶やかな声音に宿る、まるで少年のもののような得意気な色。私の心を震わせるのはやはりこの人の声なのだ。
もしもこの声が今、この陽射しの下で私の名を呼ぶことがあればーーこの子の声にこの人の懐かしい記憶を重ねることもなくなるのに。

「おとーさん!おかえりー」
「はいよ、ただいま」

涙が滲むような、暖かく優しい遣り取りが聴こえ、私は被せられた薄布をずらして小さな身体で駆け寄ってくる幼子を見た。

「ヨナ!おとーさん帰ってきたよー!」
「そうね、よかったわね」
「ヨナも、よかったねー」
「ええ、嬉しいわ」

立ち上がり身を屈め、纏わり付く幼子の餅のような頬を撫でていると、呆れたような溜息が徐に背後で洩れる。
この人が何を言いたいかなんて分かり切っている私は、振り返ることはせずに澄み渡る北西の空を見上げた。

懐かしい風牙の都の、彼等は元気でいるのだろうか。

「おとーさん、じっちゃんは?」
「今度、お前に会いに来るってよ」
「ほんと?」

懐かしい記憶の中のハクによく似たその子が私の心を代弁してくれた。何故だかとても擽ったくて、思わず笑ってしまう。

「……姫さん、何度も何度も繰り返しになりますがね。いい加減止めませんか」
「いいじゃない。この子の声、昔のハクにそっくりなんだもの。まるでハクに名を呼ばれてるみたいだわ」
「どんだけですか、あんたーーてか、全く呼ばないことはないでしょうが……」
「人前で呼ばれたことなんて、一度もないわ」

此処で初めて、私は背後を振り返りハクの姿を瞳に映す。
呆れ果てげんなりした、けれども何処か照れ臭そうな、何時もながら複雑な表情で私を見詰める愛しい人に、挑むように問い掛けた。

「大体ね、子供の前で姫さん姫さんって、変だと思わない?」
「思いません。別に問題ないでしょう?それより子供に名を呼び捨てさせる母親の方が余程どうかしてますよ。俺のことは父と呼ばせるくせに」
「ハクのことはそれでいいのよ」
「……とにかく教育上宜しくないと認識してます。止めてください」

幾度となく繰り返されてきた平行線の教育議論は、けれども収束を迎える前にあっさりと打ち切られた。

「おとーさん、これ見て!おとーさんのぶきとおんなじー」

紫紺の瞳を輝かせて手に握る枯れ枝を見せびらかす幼子に向かいハクは穏やかに笑い掛けた。
この人が不意に覗かせる父親の顔は、もう二度と会うことの叶わない、優しかった父上を思い出させる。

「へえ、小っこくても男だなー。お前それで何すんの」
「ヨナをまもる!」
「……。お母さん、な」
「えー」
「えーじゃねえよコラ」

いまいち効果のなさそうな教育的指導ーーというよりも微笑ましい父子の戯れ合いを眺めていると、やがて私を守るのだと武器を掲げた小さな護衛は、驚いたことにほんとうに、私に味方するのだ。

「じゃあねえ、ひめさん」
「……あ?」
「ひめさんがいい!おとーさんといっしょがいい!」
「…………」

二の句が継げず、無言で顔を引き攣らせるこの人に私は此処ぞとばかりに畳み掛けた。この人の分身である小さな護衛は、私の分身でもあるらしい。

「ねえハク、やっぱり子供の前で姫さんって変だと思わない?教育上宜しくないと認識してるんですけどー」

勝ち誇った笑顔で顔を覗き込んだ私へと、ハクはそれはもう苦々しい表情で。

「…………。ハイ、そうっすね……善処します」

がっくりと肩を落とすこの人から望む言葉を手に入れた私は、撤回されてなるものかと早々に身を翻してその場を離れた。



蒼白の空を見上げた私は眩いばかりの陽射しに双眸を細め、掌を翳す代わりに朱に染まった大判の薄布を両手で空に翳してみる。

初夏の風に翻る、緩やかに光を通す異国の極彩色は、朧気な記憶の中で揺蕩う夜伽噺の舞台を彷彿させた。





ーーああ、まるで夢のようだと思った。










『Baby, you're my home』
明かりを見失わないで 僕らは










ハクヨナで仲良くなった友人好みのものをと書いた(押し付けた、とも)ssです。
子供ネタとかどうなのと思ってましたが、意外と大丈夫そうだったので上げてみました。

こういったタイプの話は初挑戦だったのですが、いや非常に楽しかった。ノリノリで一気に書き上げました。
小道具だけ揃え、こちらと対になるように先日アップしたのが『更紗』です。
始点と終点、的な。

しかし何処までも姫呼びと敬語。
姫呼びはともかくとして、敬語は一生そのままでいいかなって……!




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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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No title

かわいい~♪2人の子供なんて、ムンドクのじっちゃんはメロメロでしょうね。
ハクと子供のやりとりが微笑ましすぎて、満面の笑みで読んでました(笑)
もうハクの分身みたいで。そりゃお父さんのマネするよ!
また、ハクの代わりに子供に名を呼ばせるってヨナ、どんだけ(笑)
また、「全く呼ばないことはない」って、どんな場面で呼んでるの?ハク(笑)
ああ、2人がこんな風に幸せな家庭を築くと良いなあ。


Re: No title

prin様

いやあん有難うございます〜(´∀`,,人)♥*.
じっちゃん、絶対メロメロですよね!でれでれなムンドクさまを想像するとこっちがでれでれになります 笑

「ハクはヨナに対し一生敬語で基本姫さん呼び」
この私の希望をブレずに通したらこんな感じになりましたよ〜(。>ω<)ノ
「全く呼ばないことはない」
うん、そう。褥で ←

原作でヨナが帰還するのかどうか、どんな結末になるのか想像もつきませんが、エピローグのほんの数コマでもいいから幸せな家庭を築いたふたりの姿が見たいものです。
プロフィール

月桜キキ

Author:月桜キキ
月桜キキと申します。
数年振りに二次創作の世界に出戻って参りました。普段はしれっと会社員やってます。

暁のヨナ、聖闘士星矢(無印)を中心に、他ジャンルも時々。
NLBL混在しますのでご注意!

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