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城時代ハク→ヨナSS 『べにくらげ』 今日は何の日?な押し付け小噺

「将軍!大変です姫様が……!」

夜風に当たろうと席を外し、庭園に面した外回廊で僅かばかりの独りの時を過ごしていたのも束の間、背後の障子がぴしゃりと鋭い音を立て些か乱雑に開かれ、奥から部下の切羽詰まった呼び声が俺の耳に届いた。
まさか何かが起きる筈はないだろうとは思いながらも、唯一と定めた存在を示唆する声に半ば反射的に振り返り俺を呼ぶ部下の姿を眉を顰め一瞥すれば、どうにも情けない顔をして此方を窺い見ている。おいやめろ何だその上目遣いは。気色悪い。

要するに緊迫した状況ではないと判断しーー当然だろう。此処は王城で、障子の内側で催されているのは非番の近衛兵による宴会だーー俺は溜息を洩らすと開け放たれた障子の奥に向かい一歩踏み出した。

「姫さんがどうした、また下らねえ我儘でも言ってんのか?」
「いえ、それがその……将軍の盃をーー」
「飲んだのか」
「は、はい……申し訳ありません!」

深々と頭を下げる部下の様子に内心首を傾げつつ、気にすんなと言い置いて広間へと足を踏み入れた。
大体大袈裟に過ぎるだろう。幾ら普段飲まないからといって、たかだか盃一杯でどうにかなる訳でもあるまい。

妙にざわついた雰囲気が漂う広間の中央を大股で上座へと向かう。若い兵達が遠巻きに取り囲む中、波打つ緋色の髪を無造作に垂らしーー待て、あんたさっきまで髪纏めてただろうがーー卓上に突っ伏した姫さんの隣に腰を下ろし、ごろりと転がる酒瓶を手に取れば異様に軽い。
思わず目を瞠り、次いで弾かれたように隣で紅海月の如くぐにゃりとした物体を見下ろした。俺が席を立った時には殆ど手を付けられていなかったこいつと、姫さんの体たらくから得られる回答など、一つしかないだろう。

「ーーおい、お前ら。この人を止めなかったのか?」
「いえっ!お止めしたのですが大丈夫と仰られて……我々が姫様にこれ以上意見する訳には」

尤もらしい部下の言葉に舌打ちし、俺は気持ち良さそうに鎮座する紅海月を憮然と見遣る。全く、どんだけ手間の掛かる女だよ。

「姫さん、起きてますか?」
「ーーん……ハク?おかえりぃ」
「お帰りじゃねえよ。何やってんすかあんた。酒なんざ碌に飲んだこともねえ癖に阿呆みてえな真似せんでくださいよ」
「だってぇ……美味しかったんだもん」

むくりと顔を上げ、ふわりと笑う姫さんの、油断すれば腹の底から何かがぞわりと湧き上がるような仕草を努めて冷静に観察する。
意外といける口なのか、豪快な飲み方の割に不快感を示さない姫さんの様子に内心安堵しながらも、俺は大袈裟に溜息を洩らし苦言を呈した。

「だから付いて来んなって言ってんだ。そもそも内輪の宴会にあんたが同席するなんざ皆に余計な気を遣わせるだけだってのに、挙句無様に酔い潰れるだと?高華の王女が聴いて呆れるわ」

何時から俺はこの人の目付役になったんだ。追加料金請求するぞコラ、なんてことを考えながら煩いと喚く姫さんの姿を予想する。だが、想定していた応酬が彼女から発せられることはなく、代わりに視界に飛び込んで来たのは恐らくは酒の所為だろうが、仄かに紅潮した頬で俺を見詰める彼女の潤んだ双眸だった。

ちょっと待て、勘弁してくれ。あんた俺を殺す気か?
予想外の反応に動揺する己を叱咤し何とか平静を装う俺の耳に、甘ったれた彼女の声が響き渡った。

「だって……いっつもハクだけ、狡い。部屋で独りでお前を待ってるの、寂しい、から……やだ」

一瞬、周囲の一切の喧騒が綺麗さっぱり消え去った。

錯覚かとも思えたそれは紛れもない現実らしいと認識した次の瞬間、広間中にどよめきが響き渡り、部下達の無責任極まりない言葉が飛び交う。
おい……冗談抜きに勘弁してくれ。

「ハク様!何時の間に姫様を射止められたんで?」
「いや俺は薄々そうじゃないかって思ってましたぜ!」
「将軍〜姫様を泣かせちゃ駄目ですよう」
「てっきり次期王はスウォン様かと思ってましたが、まさかハク様が……」
「あっ、じゃあ俺達も出世出来るかな」

次々と投げ付けられる祝辞と揶揄の入り混じった言葉が痛い。面倒臭えと辟易する以前に容赦なく心に突き刺さるのはやはり酒の所為か。
宴席でこういった類の誤解を解くことが如何に難しく、徒労に終わる可能性が高いのか重々承知している俺は部下達の或る種の暴言を一切無視しつつ、目の前の凶悪な酔っ払いの手を取りぐいと引き寄せる。その勢いで傾れ込むように腕の中に納まった細い躰を抱えたまま立ち上がると、揺らぐ視界に驚いたのか彼女の細い両腕が首元に絡み付いた。
途端、色めき立つ幾つもの視線を感じるが、知ったことか。

「はいはい、分かりましたよ。もう戻りましょうね」
「え〜やだぁ。まだ飲めるう……」
「何言ってんすか、あんたそれ以上飲んだら死にますよ」
「ハクは……まだ、飲む?」
「ーー飲みません」

耳元で囁かれる、縋るような、そして誘うような声音に今度こそ背筋をぞわりと何かが這い上がる感覚を禁じ得ず、だが咄嗟にそれを隠すと外へと続く障子に向かい足を踏み出す。

「あー……この人置いてくっから、お前ら適当に……」
「あっハイ!行ってらっしゃいませ!」
「ハク様、ごゆっくり〜」
「将軍!置いて戻られるなんて姫様がお可哀想ですよ」
「そうですよ!ハク様お休みなさーい」
「ーーお前ら明日、演習場の外周を全力疾走。百本な」

まるで鬼の首を取ったかの如き言い草の部下達を振り返ることはせず、俺は障子の前で一旦足を止めるとそう言い放ち、広間を後にした。背後で鬼だの非道だの喚く声が聴こえるが、冗談じゃねえ鬼はてめーらだ。

外回廊を吹き抜ける夜風が心地好い。否応なく鼻腔を擽る彼女の香にざわめく心を多少なりとも鎮めてくれる。

自嘲の笑みを洩らし奥宮殿へと歩を進める俺の耳朶を、不意に甘やかな声音が微かに擽った。

「ん……きもちい……ゆらゆらしてる……」
「……落ちないでくださいよ」
「ん……」

俺自身も飲酒しているからと、万一を考えて彼女を横抱きにせず抱え上げたのは失敗だった。ぎゅうぎゅうとやわらかな躰を押し付けられ、理性が焼き切れそうになる。
ああーーこれも酒の所為だろう。迂闊だった。姫さんが同席した時点で一滴たりとも酒を口にすべきじゃなかった。

俺の葛藤など我関せずに、彼女は俺の首元に頬を寄せくすくすと笑う。今度は一体何なんだ。床に落とされたいのかこの人は?

「きもちいー……」
「はあ、それは何よりで」
「ーーあったかい」
「……」

まるで睦言のような甘ったるい響きに二の句が継げず黙るしかない俺に、この人は。

「あったかくて、うれしー……すき、よ」

その甘くやわらかな声音と匂いと躰とーー彼女という存在総てで以って俺の息の根を止めようとする。

「……っ、姫さんーー」
「ん、なぁに?」
「ーーあんた、見りゃ分りますけど相当酔ってますね。残念ながら俺はスウォン様じゃないっすよ」

これ以上動揺する訳にはいかないと敢えて彼女の想い人の名を出すが、耳元で紡がれる囁きは尚甘く。

「……ハク」
「そうですよ、俺はーー」
「うん……ハクでしょ?」

ふふ、と密やかな笑い声が夜の空気を震わせてそれからもう一度ーーこの人は。

「ねえ……知ってる?すきよ、ハクーー」
「へいへい、そりゃどうも」

(ーー知らねえよ)

酔っ払いの戯言とはいえ凶悪に過ぎる旋律をさらりと奏でる、俺の肩の上であろうことか安らかな寝息を立て始めた紅海月を抱えながら、俺は何時の日か彼女の甘い毒に侵されて呼吸すら奪われるのだろうとぼんやりと思った。










『べにくらげ』
まるで、夢のような。















紅海月に毒はありません念の為。

日頃仲良くして頂いてるお友達のお誕生日に寄せて書きました押し付け小噺。
お酒ネタ、他でも書きましたが今回はなるべく可愛い話をと。

ミドリちゃんいつも本当にありがとうヾ(⌒(ノ*•ω•*)ノ大好きー♡





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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

月桜キキ

Author:月桜キキ
月桜キキと申します。
数年振りに二次創作の世界に出戻って参りました。普段はしれっと会社員やってます。

暁のヨナ、聖闘士星矢(無印)を中心に、他ジャンルも時々。
NLBL混在しますのでご注意!

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