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沙織さん独白的ss。女神→双子兄ですがサガさん不在。12宮編終了後ハーデス編前。

乾いた風が、絹糸のような彼女の長い髪を澄み渡る蒼に散らしていく。
浮かぶ雲ひとつ見当たらない快晴の空を見上げ、彼女――アテナと呼ばれる、少女の姿をした女神はその白皙の美貌を密やかに歪めると徐に溜息を洩らした。



スターヒルと呼ばれる、聖域内でもアテナと教皇のみが立ち入ることのできる荒涼とした頂――殊に教皇不在の今、此処は彼女ただひとりだけの場所だった。
吹き荒ぶ強風の所為か、此処では幽かな小宇宙の欠片すら見当たらない。歴代の教皇のものは勿論、彼女の神殿や謁見の間に尚も漂う――彼の気配も感じられない。

「地上の……愛と正義の、ために――」

澄み渡った大気に響き渡る艶のあるアルト。まるで祝詞のような、謳うような呟きを洩らし、それからアテナはきり、と唇を咬む。

聖闘士ならば誰しもが口にする科白。だが少なくともそれはアテナ自身の言葉ではなかった。
まるで呪文のような、この言葉を言い出したのはどの時代の誰だったのか.....逡巡するも思い出せない。
天を飾る星座を戴く、彼女の配下の戦士達がいつの間にか主神である彼女の希いを代弁するかのように紡ぎ出したこの言葉は、しかし彼等自身の希いに他ならない。それは彼等の闘う意味と、女神アテナの存在意義に対する希いだ。

アテナは愛や正義を司る神ではない。
彼女はあくまでも戦女神であり、大神の娘として海神や冥王と世界の覇権を争っているに過ぎないのだ。

ただ、彼女とて無為に果てのない闘いに身を投じている訳ではない。
アテナは地上の護り神だ。地上を護るということは即ち地上に生きるいのちを護ることと同義であり、主神のその在り様を聖闘士たる彼等は自身の希いと重ねたのだろう。

記憶の中の、朧気にしか脳裏に描けない幾つもの時代の幾多の聖闘士の姿に思いを馳せていた彼女は、やがて諦めたようにかぶりを振ると再び言の葉を円い唇に乗せた。

「貴方の――所為だわ」

か細くも絞り出すかのような声音は、少なくともアテナとして覚醒してからの彼女にしては珍しい、紛れもない恨み言だった。
情けないものだと、彼女は優美なかんばせに自嘲の笑みを浮かべ、それからもういちどぽつりと洩らす。

「すべて、貴方の」

地上に息衝くすべてを護る彼女にとり、人の子もまた護り愛し慈しむべき、地上を構成するいのちに他ならない。
人の子とは、大地を彩る若草や花々や、囀る小鳥や転げ回る小動物と何ら変わらぬ存在だった。

だが、アテナが地上の守護神となり長い長い歳月を経て、地上の脅威と闘うため人の子の器を纏い地上に降り立ち、己の配下である聖闘士と共に在るうちに彼女は聖闘士の――人の子のこころに触れ、感じ、やがて何時の頃からか人の視点で人のいのちを愛し慈しむことを知った。

しかし、聖戦の度人の子の器に転生を繰り返してはいてもあくまでも彼女は神だった。神として降臨し、赤子の頃から教皇や数多の聖闘士達に傅かれ、人の子の身を纏う神として成長しやがて聖戦に臨み、地上を護り抜き何時しか天に帰る。
長い長い間、それを繰り返してきた。これからもそう在り続けるのだと彼女自身疑いもしなかった。

そうよ……その筈だったのに、と彼女は独り言ちる。

澄み切った蒼が眩しくてゆるりと閉じた彼女の瞼の裏に浮かぶ、眩い黄金の聖衣を纏った彼は、とてもきれいなひとだった。

「何て酷い男なのかしらね」

神が――女神アテナともあろう者が、最高位の聖闘士とはいえ人の子に対し恨み言を呟くなど有り得ない……否、本来ならば有ってはならないことなのかも知れない。
恨み言、非難、八つ当たり。そんな感情を神であるアテナが人である聖闘士に向けるなど、本来ならば酔狂もいいところだ。

だが、彼女はそれすらも彼の所為と言い切り己の思考を止めることはしない。

彼――聖闘士の最高位、黄道星座を戴く黄金聖闘士の中でも最強と謳われた双子座。
そして、アテナが人と共に在った気の遠くなるほどの時間の中で唯ひとり、彼女へと刃を向けた男。

彼の所業により、アテナは自らをアテナであると……神であると自覚することなく人の子として幼少期から少女時代を過ごすこととなった。
その経験は彼女に人の子としての名と感情を与え、故に今、彼女は己に刃を向けた男に対し様々な感情を抱き、そしてそれを持て余している。

彼女が以前のアテナであったなら、彼を単に憐れんだだろう。彼の叛意を哀しんだだろう。だが。

「酷い男……こういうのを勝ち逃げと言うのよ」

ぽつりぽつりと、彼女は誰にでもなくーー否、件の双子座に向かいそう告げた。

女神など要らぬと私を放逐して。
それからの13年間、言葉通りに私不在の聖域を統括し、ひいては地上を人の子の力だけで護り。
最期まで、この私を否定して。



そう、否定したのだ、あのひとは。



再び大空を見上げたアテナは、記憶の中に鮮明に残る彼の双眸のいろのような澄み切った蒼から逃れようと、咄嗟に視線を下界へと逸らせた。
遥か下方に、昼下がりの陽射しを浴びて白く光る女神像とその先に続く神殿が視界に映り、彼女は珍しく苛立ちも顕な表情をその類稀なる美貌に刷く。

「私を、どうしようというの……!」

彼は私を待っていた。
何の為に?私を殺す為に?私に殺される為に?

聖域から女神が消えて。
暫く後、同時期に遠い極東の小さな島国から百人もの聖闘士候補生が送られて。

前例のないその不自然さを、あのひとが気付かぬ筈はない。

なのに、そのうち一割もの候補生が聖闘士となり。
こともあろうか天馬座の聖衣は、教皇であったあのひと自ら私の幼馴染の少年に授けたという。

「違うわね……貴方は私に何も求めていなかった」

あの時の感覚をよく覚えている。

初めて目にしたあのひとの姿はとてもきれいで、私は立場も状況も忘れ目を奪われた。
けれどあのひとは、私が止める間もなく自らの拳で胸を突き、己のいのちを終わらせたのだ。

崩れ落ちた身体を抱き留めた私の腕から、あのひとの小宇宙が、いのちが、さらさらと砂のように零れ落ちていくのをどうすることも出来ずに。


女神の赦しも断罪も、あのひとは求めて来なかった。
聖闘士が――人の子が希むアテナの愛も、正義も、あのひとは。

「――私には、無理矢理投げて寄越すくせに」

些か投げやりな口調で、もうこの地上の何処にも存在しない彼を責めるアテナの貌は、勇敢な戦女神のものでも慈愛に満ちた地上の守護神のものでもなく。

とんだ置き土産だと思いながら彼女は奥歯をぎり、と咬み締めた。

苛立ち、悲哀、焦燥、それから執着。
制御し難い幾つかの感情が綯交ぜになり彼女のこころに爪を立てていた。

最期の最期まで、私を拒絶したくせに。
服従も共闘も否定し、アテナの愛も正義も己には不要とばかりに。



それなのに。

「――どうして」

絞り出すような問い掛けに、しかし応える者はなく。
スターヒルを吹き抜ける一陣の突風に無残にも攫われ砕け散る。

どうしてなのと、彼女は再び心の内で問いを重ね今は誰も居ないであろう神殿に思いを馳せた。

あの空間には、あのひとの小宇宙が密やかに漂っている。
女神である私以外、誰も感じることは出来ないだろう幽かな幽かなあのひとの――こころの欠片。

それはとても優しくて、やわらかく暖かな。

「……貴方に、あいたいわ」

ひとり立ち尽くし、長い髪を風の弄ぶに任せていた彼女はやがてぽつりと彼方へと拡がる蒼に向かい告げた。
彼の名を呼びたい衝動に駆られ、けれど声に出せばきっと己の内の何かが崩れ落ちてしまうと――そんな気がして、地上に取り残された戦女神はきゅっと唇を引き結び煌めく宝石にも似た双眸で天を仰ぐ。
それから胸の内で彼の名を紡ぎ、希いを込めて吹き荒ぶ風に乗せた。


知らず瞳から零れ落ちた一筋の涙の雫もまた、こころに秘めた密やかな希いと共に乾いた風の前に霧散していった。










『I'm on fire』
どうしようもない 敗北の















大晦日から元旦にかけての深夜、ついうっかり再燃しちまいましたてへぺろ★
観ちゃったんですよね一挙放送.....大人しく閣下を拝見しておけば(ノ∀`)アチャー

双子兄女神は10年前にガッツリハマって活動してました。今回、居ても立ってもいられず当時を思い出しながら書いてみた。
私の、女子攻めというかマウンティング女子スキーの原点はここに。




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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

月桜キキ

Author:月桜キキ
月桜キキと申します。
数年振りに二次創作の世界に出戻って参りました。普段はしれっと会社員やってます。

暁のヨナ、聖闘士星矢(無印)を中心に、他ジャンルも時々。
NLBL混在しますのでご注意!

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