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星矢→サガ←沙織ss『エデン』 星矢とサガとアテナ沙織のティータイム。CP色は薄いです。


腕に抱いた、傷付き力なく横たわるあのひとは、それでもとてもきれいだった。
無造作に床に拡がる蒼い髪も、傷だらけの白い肌も、初めてその姿を目にした時と同じように清らかで美しく、ボロボロに壊れた冥衣を纏っていてもなお光り輝いて見えた。

悲しげな、それでいて何処か満ち足りた微笑。
俺を見詰める眼差しは穏やかで優しいものだった。
この地上をーーアテナを頼むと、苦しげでいながらとてもきれいな低い声が耳を打つ。あの時の俺はただ頷き彼の名を呼ぶことしか出来なかった。

それはあのひとにとってどんなに無念だったろう。最強と謳われるその力を地上の為に、アテナの為に振るうことも叶わず朝の光と共に消え行く運命だなんて。
太陽にも例えられる黄金の小宇宙を持つ彼が皮肉にも朝の陽射しに溶けて行くさまを、俺に止められる術なんて持ち合わせちゃいなかった。

俺の腕の中で幻のように消えてしまった、それが神々と聖域に人生を翻弄されたあのひとに触れた最後だった。

「……沙織さん、あんたもーー同じ思いをしたのかい?」

此処には居ない幼馴染の少女に向かい問い掛ける。もちろん返答なんてあるはずない。
俺は溜息をつくと幼馴染であり主でもある、かつての天真爛漫な笑顔を思い描いた。

あの日から、彼女の笑顔は変わったように思う。
そうーー十二宮の戦いの末、あのひとが彼女の腕の中でいのちを終わらせた日から。

沙織さんは……アテナからはかつての屈託のない笑顔が消え失せ、気高く凛としつつ慈愛に満ちた微笑を浮かべるようになった。
戦いの末、彼女はアテナとして覚醒したのだとみんなは言うけれど。

「……あれは、辛いよなぁ」

ぽつりと独り言ち、俺は苦笑すると目を閉じてあの時の沙織さんの姿を思い返した。

あの時……十二宮の戦いの後、あのひとはどうなったのかと沙織さんに聞いた。アテナの盾の光を浴びて取り憑かれていた邪悪な何かを祓われた彼はどうしているのかと。
あの優しげな瞳のきれいなひとは俺に笑い掛けてくれるだろうか、よくやったと褒めてくれるだろうかとーーそんな期待が胸を過ぎった。

けれど、沙織さんから聞かされたのは予想外の……あのひとが自害して果てたとの事実だった。
どうして、と。
彼は何かに取り憑かれていただけだろうに何故止めなかったのか、助けなかったのかと思わず声を荒げた俺に向けられた沙織さんの表情が忘れられない。

『あのひとは、それを望んでいなかった……私に救いや赦しなど求めてはいなかったのです。彼は、簒奪者ではあっても教皇ーー紛れもない為政者でした』

今にも崩れ落ちそうな泣き顔でぽつりと言った沙織さんの言葉の意味は俺にはよく分からない。

だけど、今の沙織さんーーアテナを形作ったのは多分あのひとなんだろうと思う。

「ほんと、スパルタだよなあ」

あんな風に自分の存在を、いのちを、魂を使い捨てて逝かれたら。
俺たちも沙織さんも、あのひとが示す通りに突き進むしかないじゃないか。

「ーー頑張ったんだぜ、俺」

今度こそ、褒めてくれよな。



ひとりそう呟いて、俺は晴れ渡る聖域の空を見上げた。





✳︎





教皇の間の入口付近に詰めていた侍従に目的の場所を聞き、お礼もそこそこに奥に続く廊下を駆け出した。
謁見用の広間の脇をすり抜け、更に奥に位置する彫刻が施された重い扉をノックもせずに開くと、その先には荘厳な印象の広間とは全く違う印象の光溢れる空間があった。そしてその中に待ち望んだ光景が。

壁一面に張られたガラスの窓から射し込む午後の日差しの中に、あのひとがいた。

長い蒼の髪が太陽の光を受けてキラキラ輝いてーーああ、なんてきれいなんだろう。
深い海の底のような、夕暮れ時の森の中のようないろの瞳が俺を見ている。
まるで彫像みたいな白い肌と整った顔立ちは、初めて会った時と何も変わらない。

昔から聖域のみんなに神の化身と褒め称えられていたと聞いたけれど、本当に……神様みたいだ。

視界に飛び込んできた彼の姿をぼんやりと、というか半ば見蕩れていた俺の耳に、忘れもしないやわらかな低音が届く。

「星矢!よく来てくれたな、ああ……立派になって」

とびきりの、満面の笑顔。
ハーデス城で見た悲しげな微笑とは違う、ほんとうに輝くばかりの。

「サガ!よかった、ちゃんと目覚めたんだな。復活したのにずっと起きないっていうから心配してーー」
「……済まなかったな」

ほんの少しサガの笑顔が翳る。ああ……俺は言葉を間違えたのか?責めてる訳じゃないし、悲しませたくなんてないのに。

「いやっ全然!こっちが勝手に心配したんだし……とにかく俺、またサガに会えて嬉しいんだ!」
「私に?」
「ああ!聞いてほしいこといっぱいあるんだ!俺、頑張ったんだぜ?」

目一杯の笑顔で得意げに告げると、サガは眩しそうに目を細め聞かせてくれと言ってくれて。
促されるままに椅子に座り、テーブル越しに神様みたいなひとを独り占めしてたくさんのことを話す。
冥界でのこと、エリシオンでのハーデスとの戦いのこと、青銅聖闘士の仲間のこと、それから聖域の後のこと。

俺が話すひとつひとつを、サガは頷きながら聞いてくれて。
頑張ったのだなと、何度も褒めてくれて。
文句の付けようがないきれいな顔に優しい笑みを浮かべ、穏やかな眼差しで見詰められ、時々声が上ずるのを自覚しながらも会話を終わらせたくなくて。

勧めてくれた紅茶に手を伸ばしながら次は何を話そうかと思いを巡らせていた時だった。軽いノックの後部屋の扉が開き、ふわりとした空気と清らかな小宇宙と共にこの場に滑り込んできたのは沙織さんだった。
腕に抱えているのは小さなバスケット。ほんのりと漂う甘い匂いに思わずがたりと腰を浮かせた俺とは対照的に、サガは優雅な仕種で音も立てず立ち上がると沙織さんの傍へと向かっていった。

「アテナ、如何なさいましたか?」
「ええ……お茶をご一緒しようと思って。お邪魔していいかしら?あら星矢、此処に居たのですね?」
「何だよ沙織さん、居ちゃ悪いかよ」

臣下の礼を取ろうとするサガを片手で制しながら、沙織さんは俺ににっこりと笑い掛ける。

「貴方がサガに会いたくてはるばる日本から飛んできたのは分かりますけど、到着を知らせてくれれば会食を用意させたのに……まさか執務中のサガのお部屋に直接上がり込んでるなんて思いませんでしたよ」

あくまでもにこにこと、邪武あたりが見たら倒れそうな笑顔でーーその、なんというか、怖い。

「えっ、あ……サガ、仕事中?ごっごめん!」

それよりも、沙織さんの言葉の内容に慌ててサガに向き直り謝罪するも、サガは小さく笑って気にするなと返してくれた。

「ああーー大丈夫、急ぎの分は粗方片付いているから」
「うっわ、さすがだなあサガ!ほら沙織さん、俺サガの仕事の邪魔した訳じゃないぜ!」
「それはたまたま、彼が有能だっただけでしょう?」
「うっ……じゃない!そういう沙織さんだってサガのとこ押し掛けてるじゃん!」

俺の切返しが予想外だったのだろうか、ふと沙織さんの瞳が驚いたように見開かれた。満面の笑顔は相変わらず貼り付いていたままだったけれど、ほんの少しだけ困ったような、バツが悪そうな。
だけどそれはさすがアテナというべきかほんの一瞬のことで、沙織さんはさっきまでと変わらぬ笑顔を浮かべ小首を傾げてみせる。ほんとうに、邪武が見たら卒倒しそうな可愛らしい彼女の仕種に、だけど俺は背筋が薄ら寒くなるのを感じた。
俺の心中を知ってか知らずか、沙織さんはこの上なく俺の知ってる沙織さんらしい発言をする。

「星矢、それが何かいけないのですか?」
「ちょっ……!サガの仕事の邪魔するなって言ったの沙織さんだろ?」
「言いましたけど……でも私は星矢ではありませんもの」
「は?」
「ですから、サガは私の双子座なのですよ?」
「……うわ、何それ最低」

あくまでも花の咲くような笑顔でしれっと言い放ってくれた彼女に、思わずぼそりと呟いてしまって我に返る。
さすがに今のは暴言だったか……正直なところアテナの鉄槌よりも彼女の『双子座』の制裁の方が怖い。恐る恐るサガの顔色を伺おうとしてふと気付いた。今の沙織さんは、そりゃあ子供の頃の『沙織お嬢様』とは比較にならない程度ではあるけど、聖戦の時やサガが目覚める前までの頃の慈愛に満ちた微笑を浮かべた彼女とも違う。

ーーいいのか、それで?

二重の意味で肝を冷やしながらちらりとサガを見遣ったけれど、彼は穏やかな微笑を浮かべやわらかな眼差しを俺達に向けるだけ。

幻滅しないのかな、あんたが敬愛する戦女神は実はとんでもない我儘なお嬢様なんですけど、なんて。
そんなことを思ったけど、子供の頃の彼女のことも聖戦の頃の彼女のこともサガは殆ど知らないのだと気付き、ついでにその原因となったのもまたサガだったことを思い出した俺は口を噤むことにした。

「ああもう、分かったよ悪かったよ!沙織さん俺お腹空いた」
「……とても悪かったと思っているようには聞こえないのですけれど」
「思ってるって!そうだサガ、日本に居た頃の沙織さんの話してやるよ」
「ーーいいわ星矢、お茶菓子のクッキーでよかったら召し上がれ」

途端、戦慄するような女神の小宇宙がひとかけら分だけ俺を襲う。余計なことは言うなってか。でも、何処から何処までが余計なのかいまいち分からない。

再びテーブルについたサガは相変わらず俺を穏やかな笑顔で、見ている。
黄金聖闘士であるサガが、さっきの女神の小宇宙に気付いてない訳がないと思うけど、でも彼は気に留める様子が一切ない。
穏やかで、やわらかで……何処か遠い眼差しで。

(ーーあ、れ……?)

遠い眼差しを、俺に……?

「星矢、どうした?」
「あ、ごめん何でもない!あ、そうだ沙織さんの話だったよな?えっと……そうだ、馬!」
「馬?」
「そうなの!私日本に居た頃は乗馬を……」

サガの眼差しが胸に引っかかって、何かざわざわするものに気を取られていた俺のうっかり口をついて出た発言を沙織さんがすかさずフォローする。ああ、やっぱりアレは駄目なのか。まあそのうち誰かが口を滑らせそうな気もするけど。

「アテナは乗馬がご趣味なのですか?」
「ええ、子供の頃はよく」
「……では、聖域で飼育しましょうか?すぐにご用意できるかと思いますが」
「まあ本当に?嬉しいわ、また馬に乗れるのですね!そのうち遠乗りもできるかしら」
「そうですね、その折はお供いたしましょう」

サガはそんなことをさらりと告げた。神様じゃなかったらまるでどっかの王子様みたいな笑顔で。
端正な彼の微笑に思わず見蕩れてしまっている事に気付いた俺は咄嗟に憮然とした表情を作り極力興味なさそうな素振りをしてみせた。

「乗馬ねえ……」
「ああ、星矢にも用意しておこう。好きに乗るといい」
「えっ俺はいいよ!俺あんまり良い思い出ないし……」
「そうなのか?」
「あら、そうだったかしら?」

途端、隣に座る沙織さんの口からとぼけた声がゾッとするような小宇宙と共に俺に発せられた。弾かれるようにして沙織さんの方を見ると、相変わらずニコニコとした笑顔がそこにある。

「……ほ、ほら俺天馬座だからさ、何か馬に悪いっていうか」
「まあ、そんな事を思っていたなんて知りませんでした。星矢は優しいのですね」
「はは……何ていうかさ、仲間意識みたいな?」

我ながら苦しい事を言っていると思いながらも無理矢理沙織さんとの白々しい会話を続けていると、不意にクスクスと可笑しそうな声が聞こえてきた。一瞬目の前の沙織さんと顔を見合わせ声の主に向き直ると、そのひとはそれは楽しげで、そして嬉しそうな顔をして俺達を眺めている。

「……ああアテナ、ご無礼を。貴女と星矢の遣り取りがとてもーー心暖まるものに見受けられました故」
「ーーっ!あのっサガ、私その……」

具体的な事例はともかくとして、俺に叩き付けた小宇宙も含めサガには大方のところを見通されていることを察したらしい沙織さんが些か慌てた様子で何かを言おうとする。
さっきも思ったけどやっぱりというか、黄金聖闘士が目の前で放たれた女神の小宇宙に気付かない訳がない。さすがにちょっと逃げたくなってきた俺の隣で焦る彼女の言葉を遮る形で、不意に優しい低音がやわらかく響いた。

「アテナ、以前も申し上げましたがーーどのような貴女も貴女でございましょう……少なくとも私にとっては」

まるで幼子をあやすような、穏やかで暖かな心に沁みる声音で沙織さんにそう告げたサガはやっぱり神様か、どっかの国の王子様みたいで。
視線を泳がせ沙織さんを横目でちらりと見たら、まあそれはしおらしげな表情でサガを見ていた。凄え……そんな簡単な言葉と微笑みだけであの沙織さんを黙らせるなんて。

それから彼は、やわらかい微笑みを浮かべたまま深く澄んだ瞳で今度は俺を見詰めてくる。

「ありがとう星矢、今日はとてもーー嬉しかった」

見たことのない、ふわふわしたサガの笑顔にどきりと心臓が跳ね上がる。顔が熱くなるのを感じながら何故か目を逸らすことができなくて、俺はただ目の前の、美術館にでも飾られてるんじゃないかって位出来のいい絵画みたいな光景を何も言わず見詰めていた。
まるで昔話に登場する宮殿みたいな、光溢れる部屋の中で優雅に寛ぐきれいな、きれいなひと。

(ーーああ、まただ)

あのとてつもない強さを持つ戦士のものとは思えない、静かで優しい眼差しは何を……誰を見ているんだろう。
俺を映す深く澄んだ不思議な色合いの瞳に、俺の姿は多分ーー存在しない。

(……そっか)

何でだよ、だってみんな居るじゃないか。アイオロスもカノンもアイオリアもムウも……聖域に。サガの傍に。
そう思ってそして気付いた。彼の視線の先の存在を。

(サガが見てるのは、沙織さんだ)

自分から逃れたアテナの、沙織さんの日本での姿を。サガの知らない彼女の幼少期を。

沙織さんが何不自由ない幼少期を過ごせたことは、サガにとってはせめてもの救いなんだろうってことは、分かる。
だけど。

(やめてくれよ、サガ)

膝の上に置いた拳をぐっと握り締めて俺はサガを見詰め返す。俺はここに居るんだって意思を込めて。俺を見てくれと、願いを込めて。

やめてくれ、とは言えなかった。
日本での沙織さんのことを話題にしたのは俺自身だったから。もちろんそれは沙織さんとの軽口の末のことではあったけど、サガが喜んでくれると思ったのも確かだったから。

「サガーー俺、サガに色々教えてほしいんだ」

だから、その代わりに。

「……星矢?いや、教えろと言われても……お前の技のタイプならアイオリアやアイオロスに学んだ方が良いと思うが」
「俺はサガに教えてほしいんだ。技とかじゃなくてもその……勉強とか聖域のこととか!」

不思議そうに、というより困ったように首を傾げたサガに畳み掛けるようにして告げると、彼は納得したのかああ、と呟きふわっとした笑顔を向けてくれた。

「そういうことなら……私で良ければ何時でも来なさい」
「まあ!サガは星矢に甘いんだから……」

降って湧いた横からの沙織さんの声に、俺は勝ち誇った笑顔を作り彼女に向き直る。

だって、いいじゃないか。
俺は女神であるだけでサガの『特別』になれるあんたとは違うんだから。少し位いいじゃないか。

「なあアテナ、あんたの双子座、俺に貸してくれよ」
「……星矢にはかないませんね」
「そう願ってるよ」

俺の気持ちを察したのか、沙織さんは溜息交じりに苦笑して。

「でも、ちゃんと返して貰いますからね。サガは私の双子座ですから」

さらっとそう言って優雅に紅茶を口に運ぶ沙織さんと、何というか居た堪れなさそうな様子のサガを見比べ、もしかしてこれって宣戦布告とかそういうの?なんて思ったけど。

めんどくさそうなことはとりあえず脇に置いといて、早速俺は明日の予定を頭の中で組み立てることにした。










『エデン』
貴方のいる場所こそ、至上の










普段は黄金黄金騒いでますが、星矢好きなんですほんと
ハーデス12宮編ラストの星サガあれはやばかった……
珍しく明るめのほのぼの系を書きたかったのでこんなのを。

ところで、わたしは憑依説推しではないのですが、星矢にはそう見えたんじゃないかなと思ってます。




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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

月桜キキ

Author:月桜キキ
月桜キキと申します。
数年振りに二次創作の世界に出戻って参りました。普段はしれっと会社員やってます。

暁のヨナ、聖闘士星矢(無印)を中心に、他ジャンルも時々。
NLBL混在しますのでご注意!

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