スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

サガ沙ss『軌跡の果て』 総帥と秘書(仮)がイチャイチャしてるだけの話。CP色ガッツリですよ……


東の果ての国の片隅に佇むビルの屋上に立ち、黄金色に染まる街並を眺める。



頭上を、そして地上世界を覆う空は沈み行く太陽を映し出し蒼から紫紺へ、鮮やかな茜色を滲ませながらゆっくりと変貌を遂げる。
無機質な建造物の影に迫るかのように低くぽかりぽかりと浮かぶ雲は、古ぼけた羊皮紙に淡墨を一滴垂らしたようないろ。

優しく寂しげなそのいろに、連想したのは世界中の博物館に展示されている古書ではなく今はもう随分と住み慣れた聖域で、あのひとが時折手にしている蔵書。
そんな己のこころの在り様が可笑しくなって、私はひとり密かに笑った。

視界を射抜くような斜陽が景色一面を覆い尽くす。硬いコンクリートの床や屋上の通用口、それから吹き上げるビル風に弄ばれる私の髪もジャケットやスカートの裾も、天に掲げた掌もその指先に至るまで鈍い金色に上描きされ、まるで黄金色の染料を溶いた水に沈んでいるような感覚に陥った。

それは何故だかとても懐かしくてーー切なさに胸が締め付けられる。

沈み行く太陽に懐かしさを覚えるのは、遠く離れた兄を思い起こすからだろうか。
この切なさは、黄昏のいろに染まるこの世界にあのひとが存在するからだろうか。

「ーー沈まない太陽も、昇らない太陽もないというけれど」

それは自然の摂理であるし、太古からの決まりごとなのだけれども。
それを見守ることも私の務め、なのでしょうけれど。

夕陽に向かい独り言ち、それから私は一呼吸後にたった二文字の言葉を紡ぐ。吹き上げる風に乗せ、この世界に密やかに響くように。

たった二文字のそれはあのひとの呼び名。
何度も何度もこうしてひとりで呼んできた。最初は声に出すこともできなかった。

「サ、ガ」

もう一度。これは世界に向けてではなく私の内に響かせる。

たった二文字ーー本来存在するはずの、その後ろに続く文字は聖域が……私が奪ってしまった。
そして、たったひとつ彼に残された半身を質に取るような真似をして。
双子座の宿命などと体のいい言葉でーー

だから、だろうか。今更と思っているのか。

否応なしに他者の目を奪い惹き付ける端正な彼の姿を思い描き、私はそっと溜息を洩らした。
あのひとは、私に愛を向けてくれる。敬慕、性愛、執着ーー崇拝と欲の混じり合った、それがあのひとの愛のかたちなのだろうと、そう思っているけれど。

(私の愛は、拒むのですよねーー貴方は)

あのひとはずっとそうだ。
女神の愛を頑なまでに拒み、私にあのひとが求めるものといえばーー性愛と執着。地上の守護神たる女神アテナが、本来抱え込むことのないはずの感情だ。

(本当に、完璧な責任の取り方というものね)

深い湖の底で揺蕩う冷涼な水のいろを映したような、暁前の澄み渡った空のいろのような、穏やかに凪いだあのひとの双眸に昏い焔が宿るその瞬間をふと思い出す。

そしてそのさまをただ思い出しただけなのに、背筋がぞわりと震える自分に軽く舌打ちした私はゆっくりと瞼を上げ幼い頃習ったバレエのステップでくるりと半周してみせた。
辛口なスーツのスカートは生憎と私の周囲を舞ってはくれず、つまらないわと思わず肩を竦めてしまったけれど。

「ーー総帥」

半周した先に見える屋上への通用口が軽い金属音を立ててゆっくりと開き、乾いた靴音と共に聴き慣れた声が、見慣れた姿が私の意識を一瞬で浚う。

「もう終わったの?さすが私の秘書は優秀ですね」

笑いながら私は、斜陽に滲むジオラマのようなこの光景と同じ色彩に染まる彼の姿を見詰める。
ああ、なんてきれい。

「ーー貴女をこのような場所でいつまでもお待たせする訳にも参りませんので」
「あら、随分ですね。此処だってれっきとした私の持ち物なのですよ?」

地上から奪い去った熱を撒き散らしながら吹き上げる風に煽られた己の髪を、鬱陶しそうな様子で払う。そんな彼に向かい軽く肩を竦めてみせれば、彼はちいさく首を傾げ苦笑した。

「それはそうですが……此処は風が強い。お身体を冷やしますよ、総帥」
「もう仕事は終わったのでしょう?サガ」
「ーーでは、沙織」

漸く違和感なく発することができるようになったらしく、外界における私の名を淡々と紡ぐ青年に、よろしい、と一言添えて私はそのまま数歩前へーー手を伸ばせば触れることのできる距離まで。

「今日はこれから、どうするのです?」
「今からならば真っ直ぐ城戸邸にお戻りにもなれますが……」
「私、おなかがすいてしまいました」
「……では、手配致しましょう」

業務の延長の可能性がある以上、念のためと予め今夜のホテルの手配はしてあるのだし、遅くなっても特に問題にはならない。今後暫くの総帥としての業務は聖域を拠点にできるものばかりだし、明日城戸邸に戻ったらその足で聖域に帰ればいい。
そのことを重々承知の私の『秘書』は携帯電話を取り出し手短な会話ーー恐らくは今夜の食事の手配なのだろうけどーーを済ませると、軽く息をついた。

(……ああ)

意識しているのかしていないのか、私には未だに分からないのだけれど。
こんな小さなことで、合図だとでも言わんばかりにこのひとの纏う雰囲気が変わる。

グラード財団総帥の優秀な秘書から、まるでこの世界の支配者の如き圧倒的な存在感を。

私の守護する世界をこのひとが纏う黄金の小宇宙で以て従わせるようなーーこの瞬間がとても好きで、思わず食い入るように見詰めてしまう。
私の視線に気付いているのかどうか、彼はビルの影に遮られた黄昏色の風景を眺めながらその長くしなやかな指で己の襟元を寛げるとゆるりと私に視線を戻し、行きましょうかと促してきた、けれど。

「ーーサガ」

ぞわりと背筋を戦慄が走る。その指先に触れられた記憶がそうさせているのだ、と私はぼんやりと思った。
その記憶に突き動かされるままに彼の名を呼び腕を伸ばす。目の前の白い頬に指先でそろりと触れた私に、彼は一瞬驚いた表情を見せたもののそれを咎めたりすることはない。

何かに……もしかしたら他ならぬ彼になのかも知れないけれど、半ば操られているような感覚のまま私は彼の頬に触れさせた指先を、その端整な唇まで滑らせた。
それを誘いと取ったのか、サガはその長身を屈め私の背に両腕を廻してくる。彼が身に纏う、聖域での儀式用の乳香によく似た芳香が彼本来の姿と立場を私に思い起こさせ、私は思わずちいさく身震いした。

(これは、私のものだ)
(私だけのものだ)

女神のためだけの存在に、女神である私が女神らしからぬ欲を向ける。それは何と滑稽なのだろう。

苦笑を洩らし、私は背伸びする格好で両腕を彼の首元にするりと絡ませた。
それから、どちらからともなく互いの顔が近付き唇が重なる。
夜の帳に覆われる直前の艶やかで寂しいそらのいろを映し出す、深い水底にも似た揺らめきを宿した彼の瞳。そしてその一対の宝玉を覆い隠す、蒼い星の軌跡のような長い睫毛がふるりと揺れるさまが光を遮られた私の視界にぼやけて映り、やがて呑み込まれた。

ゆるりと重ねられた私の唇は幾度か軽い音を立て啄ばまれ、それからやがて深いものへと変化していく。
誘われるままに互いに舌を絡ませ貪り合う。こんな遣り取りを望む私は皆の求める女神アテナの姿とは程遠くて、けれども誰よりも女神を崇拝するこのひとが他ならぬ私にこの有様を求めるというのだから、滑稽過ぎて笑ってしまう。

お互い矛盾だらけ。でも、抱え込んだ互いの矛盾を独占し合っているのが私達だ。

口内に与えられる、穏やかではあるけれども直接的な快感に背筋が震える。ゆっくりと、でも確実に身体の奥がじわりと蕩けていくのを感じた私はそれが何となく悔しくて、せめてもの矜持とばかりに彼の首に廻した腕に力を込めてその長身ごと引き寄せた。

私の反抗にサガが逆らうことはなくて、私達はそのままコンクリートの床に崩れ落ちるけれども、私の背中が固い床に叩き付けられることも冷たい温度に触れることもない。
そんなことは分かっている。このひとは何処までいっても私の守護者なのだ。

「ーー沙織、そろそろ……行きましょう」
「だめ」

普段通りの、どうということはないという顔をして告げるサガの双眸が、私を見据える静寂を湛えた深いいろの中にほんの僅かに昏い焔がちらつくのが見えたから。
だからきっぱり一言返せば、彼はほんの少しだけ困ったように苦笑して。

「あまり……このような場所で煽らないで頂きたいのですが、ね」

言ってくれる。
貴方こそが私を煽っているくせに。

再び重ねられる唇。するりと侵入する舌に口内を嬲られ身体から力が抜けていく。抗う術を失った私を半ば組み敷くようにして、やがて彼は私の口内を解放するとそのまま首筋から胸元へと唇を這わせて。
私の身体を支えるため背に廻された掌の、指先の感触までもが、意図してる筈もないだろうにこの身に刻み込まれたこのひとの記憶を呼び覚ましていくのを感じ、私は眉を顰めきゅっと唇を咬んだけれど。

たったこれだけのことに抗うこともできない。ぞくりと背筋に電流のような痺れが走る。肩先が震え、身体の奥が疼く。

「っ、サガ……!」
「ーーはい」

堪らず発した声に対する返答はあくまでも淡々としたもので、私が音を上げてこの戯れの中断を命じるのを待っていたのだろうと否応なく理解できてしまう。

(本当に、なんて男だろう)
(私のものの筈なのに)

「……おなかがすいたわ」
「ですからーー」
「続けて……はやく、貴方が欲しいの」

さすがに予想外、だったのだろう。私が発した直接的な催促に一瞬、驚きも顕な表情でこちらを凝視したサガは暫くのーーといっても何呼吸分かの間、真っ直ぐに私と視線を合わせまるで意図を探るように。

「ーー馬鹿な、ことを」

その流麗な眉を寄せ険しい面差しを見せたのは、けれども一瞬のこと。やがて私を見据えたまま、彼は僅かに口の端を上げた。
聖域内はおろか、財団内外の業務においても忌憚なく威力を発揮する『神の如き』微笑ではなく、妖艶さと酷薄さが交じり合った何処か凄絶な印象のそれを、私は知っている。

それは世界から区切られたふたりだけの空間の中でだけこのひとが見せる、私だけのーー

「……サガ」

囁くように名を呼び、今度は明確な意図を顕に夕暮れの空と私との間を遮断する男の金色に染まる頬に指先を這わせた。
静謐に過ぎる双眸の奥に密やかに灯る焔を、もっと見たくて。

そうよ。
その焔で貴方以外の誰も求めることのない私の欲を存分に炙り出せばいい。

「ねえ……」
「ーーアテナ」
「……狡いひと」

ここで私をアテナと呼ぶ、このひとを狡いとは思うけれども一方でそれは真実だ。

地上の守護神である私の中に守護神として不要なものを構築させた挙句、それを以て私を地上世界に繋ぎ止める。
なんて出来過ぎた、すべてに都合の良い顛末だろう。

(私を護る、貴方は私のものだけれど)
(私が護る、この世界は貴方のもの)

ほんとうに……馬鹿なことだとちいさく笑い、それから私はゆっくりと瞼を閉じる。



ジオラマのように狭い極東の地方都市の、珍しくもない夕暮れの風景から、今度こそ私の存在が遮断された。














『軌跡の果て』
最果ての街からこのせかいを。















これをリメイクと言えるのかどうか。
以前「世界」というタイトルで、どっかのビルの屋上で沙織とサガが世界の行く末について語り合う話を書いたのをふと思い出したので、シチュだけ流用してみました。
久々にガッツリCPのサガ沙書いたけどやはり色々捗ります……


スポンサーサイト

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

月桜キキ

Author:月桜キキ
月桜キキと申します。
数年振りに二次創作の世界に出戻って参りました。普段はしれっと会社員やってます。

暁のヨナ、聖闘士星矢(無印)を中心に、他ジャンルも時々。
NLBL混在しますのでご注意!

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。