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サガ沙ss 『piece of mind.1』 サガと沙織と黄金の面々。『メランコリー』の続きです。


「なあ、サガ」

執務室の机上に積まれた書類に目を通すサガに、入室するなり声を掛けたのはアイオロスだった。名を呼ばれ視線を上げたサガは声の主に向かい怪訝そうに首を傾げる。

「何だ」
「アテナのご様子はどうだ?」

単刀直入に質問を投げ掛けてくる射手座の黄金聖闘士に、ああこの男は昔からそうであったと苦笑を洩らし、サガは手にしていた紙面を机上に積まれた書類の束の上に置くと肩を竦めてみせた。

「特に変わったご様子は見られないがーー時折、何事か考え込まれておられるようだ」
「そうか……やはり、何か懸念されることがおありなのか。もしや新たな闘いがーー」
「それはなかろう。そうであればアテナが我々に何も仰らないはずはない」

アイオロスの言葉をきっぱりと跳ね除け、サガはそっと溜息を洩らすと午後の陽射しの降り注ぐ窓の外へと視線を向けた。

少し雲の多い、暖かな昼下がり。

ーーあの方は今も神殿の中庭で空を眺めていらっしゃるのか。

午後の仕事に入る前にアテナ神殿で見掛けた主の後姿を思い出し、彼は蒼い流星の軌跡を描く長い睫毛を震わせる。

(どうしたものか)

暫し逡巡するも答えなど見付かるはずもなく、サガは僅かにその流麗な眉を寄せ再び小さな溜息を洩らした。



外遊中のシオンの代理として教皇宮に詰めるサガは沙織と顔を合わせる機会が他の聖闘士と比べ遥かに多く、また共に在るはずだった十数年の空白を埋めようとでもしているのか、沙織は時間を見付けては彼と共に過ごそうとしていたこともあり、いつの間にか黄金聖闘士たちの間では女神に関する事柄はとりあえず双子座を通す、といった状態になっていた。

勿論、アテナの第一の補佐である教皇シオンの代理を務めているサガにしてみればそれは当然の状態ともいえる。
だが、かつて地上に降臨したばかりの彼女を身を呈して救った英雄であり、恐らく黄金聖闘士のうち最も彼女の信頼を得ているであろうアイオロスにまでこの扱いを受けることに予てから些か違和感を覚えていたサガは、再び件の射手座の英雄へと向き直り口を開いた。

「アイオロス、気になるなら自分でアテナにお伺いしてはどうだ?」
「……いや、闘いが起こらないのなら、いい」

しかしサガの予想に反してアイオロスは珍しくもその精悍な顔を曇らせた。そして小さくかぶりを振ると曖昧な笑顔で言葉を濁す。
昔の記憶の中にも蘇ってから積み重ねた幾つもの遣り取りの中でも見掛けることのなかった『らしくない』彼の様子に、サガは喉まで出掛かった言葉を飲み込んだ。

「……そうか」
「うん、悪かったな仕事の邪魔をして。私はアイオリアと共に午後の鍛錬に行ってくるよ。アテナに宜しくお伝えしてくれ」
「ーーそうか。分かった」

それだけ言い置いて、教皇の留守を預かる友人から徐に背を向けたアイオロスはそのまま振り返ることなく執務室を後にする。
乾いた音と共に、漸く見慣れた射手座の後姿を覆い隠した執務室の重厚な扉をぼんやりと見詰め、サガは三度目の溜息を洩らした。

(……言うべきでは、ないのだろうな)

最近、アテナが気を塞いでいらっしゃるようだ。

聖域の人々ーー殊に彼女と顔を合わせる機会の多い黄金聖闘士たちからちらほらと聴こえる声を、同じ黄金聖闘士であり教皇により聖域の統括を任された立場でもあるサガが知らぬはずもなく、そして何より現状最も女神の傍に控える機会の多い彼自身が直接それを目の当たりにしていた。

原因も、おおよその見当がついている。

半月ほど前に沙織と共に慰問に赴いた海沿いの街での出来事を思い出し、サガは僅かに瞼を下げた。

石畳の広場に集まった人々。優しく暖かな言葉をくれた初老の婦人。それから、女神がしあわせであるようにと祝言いだという見事な金の巻き髪の幼い少女。

(それは我々のーー私の願いでもあるというのに)

あの時、酷く辛そうな笑顔を私へと向けた女神。緑柱石のような瞳から零れ落ちるあの方の涙を止められぬまま、腕に納めたその身体はとても細く、途方に暮れたように震えていた。

己の掌をじっと見詰め、サガは表情を曇らせる。
黄金聖闘士として最強の銘をほしいままにしたところで、あくまでも人間である自分には神にとっての真の幸福など計り知れない。
ただ、彼女が憂いのない笑顔でいてくれさえすればと、そう願うだけだった。そしてそれこそが聖闘士皆の願いでもあると彼は理解していた。

(我々の願いが、そもそもの見当違いなのかーーそれとも、アテナにとって叶えられぬ願いなのか)

せめてそれが前者であればいいとサガは強く思う。彼女の幸福が何処か別の場所に在るのならばいい。その場所へとあの方が進む途を我々はただ見守り、必要とあらば切り拓いて差し上げればいい。
だが、もし後者であるならば。

サガの脳裏に、哀し気に微笑む沙織の姿が蘇る。何でもないのだと告げながら、彼に向かいごめんなさいと繰り返していた女神。その言葉の意味に気付かぬ振りをしながら、だがサガが気付かぬ筈はなかった。
彼の願いを、沙織には叶えることができないのだ、ということを。

「……幸福とは、何であろうか」

ぽつりと独り言ち、サガは窓の外の光景へと視線を移す。穏やかで暖かい午後の風景。この世界は今、女神の守護を受け束の間の安寧の時を迎えている。

力、富、名誉ーーそれらを既に沙織は手にしている。そもそも、そういったいかにも人間的で即物的なものを彼女が欲しているとはサガには思えなかった。
では、と彼は思いを巡らす。地上世界の安寧とは別の、もっと個人的な『しあわせ』とは何だろう。

それは……きっと暖かな思い出であったり、優しい時間であったり、愛する者の笑顔であったり、心に決めた誰かと過ごす穏やかな日々であったりーー

そこまで考え、サガは自らの思考を打ち切った。もしかしたら自分はーー自分達は酷なことをアテナに強いているのではないか。そう思い至ってのことだった。

「貴女にとっての幸福は、此処には存在しないというのか……?」

半ば呆然とした呟きを洩らし、サガは徐に立ち上がると執務室を後にした。










アイオロスは鍛錬所を目指し十二宮の石段をゆっくりと降り続けていた。
歩みを止めることなく石段を踏み締めていた彼は、今は誰も居ない双児宮の前で初めて足を止め、冠する名の如くのシンメトリーが特徴的な白亜の宮殿を見上げる。

「……なあ、サガ」

教皇の間に詰めている宮の主に、ぽつりと呼び掛ける。小宇宙を使っているわけではなく、故に返答など有り得ないことは承知の上だった。

「アテナの憂いを晴らして差し上げてくれと、お前に願うのはやはり酷なのだろうな」

双子座の紋様を見詰め、アイオロスは精悍な顔を辛そうに歪めながら唇を咬む。
苦々しい思いで、彼は自分がアテナにより生還を果たしてから双児宮の主が目覚めるまでの一年もの間、間近に目にしてきた彼女の姿を思い返していた。

呼吸することもなく、一切の生体反応を示さず、女神の小宇宙でただその姿を維持しているだけの抜け殻。
まるで精巧で美しい人形のような、目覚めをーー生きることを拒絶するように眠り続ける双子座の聖闘士を毎日見舞う彼女の姿。
帰ってきてくださいと、目を覚まして笑ってくださいとサガに呼び掛ける彼女の表情は……哀しみを宿した微笑は、今のそれと同じものだった。

「お前が目覚めて、やっとアテナの表情から翳りが消えたと思っていたのにな……」

深く溜息を洩らしたアイオロスはゆっくりとかぶりを振り瞑目する。瞼の裏に、数ヶ月前の謁見の間での光景がまざまざと浮かび上がった。
頑ななまでに眠り続ける双子座。涙を堪え祈り続ける女神。
教皇シオンはじめ他の黄金聖闘士達は皆重苦しい空気に耐えながら成り行きを見守っていた。

もうやめてくれと、サガをこのまま眠らせてやってくれと訴えた者もいた。
彼の弟でありもう一人の双子座。あの時の、悲痛な面持ちの彼の叫びを恐らく自分は生涯忘れることができないだろうとアイオロスは思う。
けれど、恐らく誰よりも彼と近い魂を持つ男の懇願さえも沙織は受け入れることはなかった。
たった一言「お黙りなさい」と言い放つ、誰もが初めて知る沙織の抑揚のない冷やかで厳かな声音に、謁見の間は一切の刻が停止したかのような静寂に包まれた。



サガが長い眠りから目を覚ましたのは、それから数日後のことだった。





(アテナの悲鳴を聴いて、お前は戻ってきたのだろう?)

感情を抑えた女神の言の葉。あの日彼女が奏でた、酷く無機的な旋律をアイオロスは悲鳴だと感じていた。
助けてほしいと、救ってほしいと。
神である沙織が、人であるサガに救いを求め、縋り、嘆き、悲鳴を上げている。

そんな有り得ないはずの構図は、しかしアイオロスの中に何の違和感もなく落ちてきた。それほどに、彼の記憶の中に存在する双子座のサガはかつて聖域の多くの人々が口々に謳っていたように、輝ける『神の化身』であった。

(お前にはそれができるのだろう?ならばーーアテナをお救いしてくれ、サガ)

神の化身と呼ばれるお前ならばーーこの考え方がかつてのサガを追い詰めていったのは分かっている。だが、今のサガならば重圧に潰れることはない。彼は決して己を見失うことなく力を、正気を保ち続けるだろう。己の死を……安寧の眠りを渇望しながらもそれを表に出すことなく生き続けるはずだ。

アテナが、彼の生を望む限り。

(難儀なものだな……お前も)
(勿論、覚悟はできているのだろうが)

両の拳を固く握り締め、アイオロスは蒼いあおい双児宮の上空を、険しくもやるせなさを滲ませた表情で睨み遣った。















『メランコリー』続編というか、『軌跡の果て』以外のSSは一応全部時系列順で繋げてます。
長い話を書くのは初めてなもので色々と手探り状態ではありますが、書ける限り書いていきたいです……!






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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

月桜キキ

Author:月桜キキ
月桜キキと申します。
数年振りに二次創作の世界に出戻って参りました。普段はしれっと会社員やってます。

暁のヨナ、聖闘士星矢(無印)を中心に、他ジャンルも時々。
NLBL混在しますのでご注意!

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