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サガ沙ss 『piece of mind. 2』 サガと沙織 / ロスリア兄弟


至る所に豪奢な彫刻の施された、大理石造りの白亜の神殿。規則正しく建ち並ぶ幾つもの神殿の支柱を両脇に置いて真っ直ぐに奥へと続く中央回廊を、裾の長い法衣を慣れた身のこなしで捌きながらサガは神殿の中庭へと乾いた靴音を響かせ歩を進めていた。

やがて辿り着いた先ーー中庭へと繋がる扉の前で立ち止まると、彼が触れるでもないままに軽い金属音と共に扉が開き、眩い午後の陽射しが回廊を照らし出す。
眼前に飛び込んでくる光に双眸を細め、サガはゆっくりとした足取りで中庭へと入った。

女神の意思が支配する神殿で、己の来訪に合わせ開放された扉。それは自身が扉の先に足を踏み入れることへの許可であると彼は理解していた。
心地好い光と風、煌めく新緑と色調を抑えた花々。中庭を彩るそれらを見事なものだと思いながら、サガはゆるりとした動作で周囲を一望する。

緑と白で統一された庭園の中央に、まるでたった一輪だけ咲き誇る大輪の華の如き趣で神殿の主がひとり佇んでいた。
サガに背を向ける沙織の長い髪と、純白のドレスの裾は吹き抜ける風にさらさらと揺られている。

「……」

庭園の中央から少し離れた位置で立ち止まったサガに気付いていないわけではないだろうに、彼女は振り返ることも声を掛けることもなく、それどころか身じろぎひとつせぬままーー遥か高くぽつりと浮かぶ雲の合間に見える、蒼いあおい天空を眺めていた。

天を仰ぐ主の姿を双眸に映しながら、サガは僅かに眉を顰めその白皙の美貌を曇らせる。

(やはり、そうなのかーー貴女は)

ちりちりと、胸の奥が燻るのを感じながらその場に立ち尽くしていた彼がやがて一歩前へ踏み出すと、沙織もまたゆっくりと彼を振り返った。

「……休憩ですか?」

例え黄金聖闘士だろうと教皇の代理であろうとーー否、教皇であったとしても単なる休憩でアテナ神殿の中庭へ足を踏み入れることなど有り得ない。それを百も承知の上で問い掛ける沙織に、サガは軽く肩を竦めやわらかな微笑を浮かべた。

「いえ。貴女をお探ししておりました」
「まあ、何でしょう。ティータイムのお誘いですか?」

嬉しいわ、とまるで蕾が綻ぶ姿のような艶やかな笑顔を向けた沙織の姿に、けれどもサガは己の胸の奥の燻りが拡がるのを感じる。

「……アテナ、私は」
「そうだわ、美味しい紅茶があるの。用意しますから待っていてくださいね」
「アテナ」
「それともサガはコーヒーの方がいいですか?」

サガの呼び掛けを無視して告げる沙織の様子は酷く不自然だった。まるで取り繕うような笑顔ーー取り繕っているのだと、サガにも沙織自身にも明確に突き付ける、そんな不自然さだ。

「アテナ、何を憂いておいでです」
「……サガ」

静かな、だがストレートなサガの物言いに、沙織は弾かれたように己に向けられた彼の双眸を見詰め返す。
凪いだ水面のような静謐な眼差し。そこに宿るのは決して怒りや憤りや落胆ではなく、取り繕いはぐらかそうとした沙織を責める光も一切見当たらない。
ーーただ、酷く哀し気ないろが見えた。

ぎしりと、沙織の胸の奥が軋む。

取り繕うくらいなら、咄嗟に隠せぬくらいなら彼の来訪を拒絶すればよかったのだ。
望めばいつだって彼には会えるのに。それこそ、中庭を出てこちらから会いに行けばよかったのだ。美味しい紅茶があるの、なんて。そんなこといつも言ってるじゃないの。

(だって、会いたかったの)
(私を訪ねてきてくれた、貴方に)

円い唇を咬み沙織は小さく俯いた。女神の麗しいかんばせから笑顔が消える。
やがて取り繕うことを諦めた彼女から、ごめんなさいと消え入るような声が洩れた。

「ーー差し出がましいとは思っております。ですが、皆が貴女のご様子を心配しております故」
「……そう、ですか。皆に余計な気を遣わせてしまったのですね。でもーー大丈夫、新たな戦いの気配があるわけではないのです」
「それは承知しております。アイオロスにもその旨申し伝えました」
「そうですかーーありがとう」

サガの言葉に、少なくとも彼は新たな地上の危機の可能性を危惧しているわけではないのだと知り、申し訳なさと同時に喜びを感じる。そんな自身の感情に沙織は戸惑いを覚えながら改めて目の前の青年へと視線を向けた。

(こんな、小さなことで)

それほどに自分は孤独を感じていたのか。
神々の干渉をはじめとする地上世界の危機とは関わることのない、私自身に対する心配や気遣い。そんなささやかな、きっと彼からすれば当たり前のこころがこんなにも嬉しいだなんて。

聖闘士が私に跪くのは、私が地上の守護神だからだ。
彼らは私の盾となっているのではない。地上世界の盾となっているのだ。
それはきっと今後も変わらない。そうでなければならないし、それで構わないのだ。

そのはずなのに。

拡がっていく胸の奥の軋みを抑えながら、沙織は精一杯の笑顔を浮かべる。慈愛を湛えていながら艶やかに蕩けるような、咲き誇る大輪の薔薇の如き笑み。それを目にした者の多くが神々しいと、或いは麗しいと賞賛するであろう極上の笑顔を、だがサガの目には痛々しく映し出されていた。
この方は無理をされている。そして、何を犠牲にしてでも護るべきこの方に無理を強いているのは恐らく我々なのだーー喉を突いて出掛かった言葉を、しかし一瞬の躊躇いを覚えたサガは表情を曇らせたまま先ほど沙織が見上げていた蒼く高い空を、天を仰ぐ。

「サガ?」

己を呼ぶ女神の声が震えている。彼女とてそれを自覚しているだろうに、戻した視線の先に佇む彼女の美しく、そして痛々しい笑顔は崩れてはいなかった。

「……アテナ、天界がーー神々の住まう地が恋しいとお思いですか?」

酷く優し気な、けれども重苦しさを感じさせる低い声音が沙織の耳朶を打つ。
息を呑んだ戦女神は、弾かれたように彼女の双子座の深い湖の水面の如き双眸を凝視した。










「兄さん!アテナのご様子はどうでした?」

鍛錬所に足を踏み入れたアイオロスの姿を認めるやいなや、彼の元へ駆け寄ったアイオリアは開口一番皆の懸念事項であるところの主について兄へと問うた。
些か緊張した面持ちの、しかし弟の双眸に不安の影は見当たらない。黄金聖闘士としての自信と気概に満ちた眼差しに、立派になったものだとアイオロスは目を細めアイオリアに笑い掛けた。

「アテナにはお会いできなかったが、戦いの気配によるものではないと言われたよ」
「……サガに?」
「ああ」
「そうか。ならば大丈夫、なのだろうな」

素直に顔を綻ばせるアイオリアだったが、ふと首を傾げると暫く黙り込み兄の表情をちらと伺った。
精悍な彼の造作に相応しい、真っ直ぐで力強く、それでいて暖かな眼差しと表情。何かを言い淀むような雰囲気はまるでない。それならばと、アイオリアは主に対する余計な詮索になりはしないかと思いながらも沙織が憂う事柄は何であるのかと問いを重ねる。
しかし、アイオリアの予想に反しアイオロスは困ったように笑いながらかぶりを振った。

「サガから聞いていないのか?」
「ああ……理由はサガにも分からないと言っていた」
「ーーあのサガが?」

シオン不在時の代理とはいえ、否、だからこそだーー教皇の権限を任され誰よりもアテナの傍近くに仕え、最も彼女を守護すべき責を負う双子座が、地上世界の危機に直結しないとはいえアテナの変調の原因を『分からない』で済ますのか?
己の知るサガの姿が脳裏に浮かぶ。幼い頃の記憶の中の彼は勿論のこと、彼が『教皇』であった十三年間、それから聖戦前夜、遠い北の地での邂逅、そして彼が復活してからのこの数ヶ月。
どのサガの姿を取っても兄の言葉との乖離を感じ、アイオリアは眉を寄せ険しい表情で低く唸った。

「アイオリア、サガは我々に『訊くな』と言っているんだ」

分からないか?と。
ゆっくりとした口調で問われ、アイオリアは思わず息を呑む。

そうだーーサガは、あのひとは無理に他者に踏み込んだりはしないし、また不用意な詮索を良しとはしなかった。
そうやって、我々黄金聖闘士同士の関係のバランスを保ってきた。サガはそういうひとだった。

だが、とアイオリアは思う。他人の感情の揺れに敏感で、常に周囲を気遣い己の思いは二の次にして予想できうる最善を選択をするーーサガのその在り方が、いつしか彼自身を壊していったのではないだろうか?
苦い思いが胸に去来し、アイオリアはぎり、と唇を咬みしめた。

俺は、確かにサガが好きだった。
目標であり憧れでもあった兄と肩を並べ穏やかに笑う、光り輝く『神の化身』を、とても眩しく美しいと思っていた。
いつか自分も兄のように、彼と肩を並べたい。隣に立ちたいと願っていた。

この気持ちだけは兄にも負けないと、そう思っていたのに。

あんなにも慕っていたというのに、俺はサガが苦しんでいることに全く気付かなかった。
まだ幼かったから、と言われるかも知れない。だが俺はあれから十三年間聖域に居たというのに、教皇がサガであるということ、そして彼が嘆き苦しみ死すらも選べず聖域を維持してきたこと、ただひとりアテナの帰還を切望していたことーー何ひとつとして。
それどころか、俺は忽然と姿を消したサガがいつの日か聖域に帰ってきて兄の汚名を晴らしてくれるとさえ思っていた。

俺の愚かな願いは、最悪な形で叶えられたけれど。
俺は、あのひとのたったひとつの願いを叶えるどころかーー何も知らずに。

何故気付かなかった。
何故俺は、あのひとを殺してやれなかった。

次々と湧き起こる後悔と自責の念。思考が過去に引き摺られそうになるのを堪えながら、アイオリアは兄へと問い掛けた。

「……兄さん、サガは、その……大丈夫なのだろうか?周囲に気を回し過ぎて疲れてはいないだろうか……辛いのではないだろうか?」
「アイオリア……」

そりゃあアテナ相手に気を遣うなってのは無理な話なんだろうが、と続ける弟の言葉にこころが暖まるのを感じ、アイオロスは彼に優しく笑い掛ける。
長い間逆賊の弟の汚名を着せられ、アイオリアこそ沢山の辛い思いをしただろうにーー他者に、それも己の不遇の原因でもあるサガに対しそういった思いやりを見せることのできるような、本当に立派な黄金聖闘士になった。

アイオリアの胸の内を知らないアイオロスは、改めて目の前の弟を誇りに思いながら肩を竦めてみせながら、自らの言葉を噛み締めるように告げた。

「サガはもうあの頃の彼ではない。お前が心配するほど心弱い人間ではないよ」












基本はサガ沙ですけどロスリアもリアサガも大好きなのです……


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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

月桜キキ

Author:月桜キキ
月桜キキと申します。
数年振りに二次創作の世界に出戻って参りました。普段はしれっと会社員やってます。

暁のヨナ、聖闘士星矢(無印)を中心に、他ジャンルも時々。
NLBL混在しますのでご注意!

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